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Check Clip to Evernote 2011.05.30up

『どんてん生活』『ばかのハコ船』・・・大阪在住時代から、映画ファンを唸らせる話題作を発表していた山下敦弘監督。東京進出後も『リンダ リンダ リンダ』『松ヶ根乱射事件』とキャリアを積み、そして最新作『マイ・バック・ページ』でついにシネコン映画界へ! すっかり若手筆頭となった監督と、雑誌「Lmagazine」誌上で共に連載「シネマ星取表」を担当したミルクマン斉藤氏がひさしぶりに対面。重いテーマを掲げた社会派エンターテインメントができるまでを、原作のこと、制作段階のこと、裏テーマにいたるまで、ねほりはほり聞いてみた。その全容を公開!

社会派エンターテインメントを楽しむために・・・まずは知っておきたい、あの時代、この原作。

物語の舞台は、1960年代後半~70年代前半。国内では反戦・全共闘運動が起きていた。東大安田講堂事件を機に、全共闘運動は徐々に衰退。運動を続けた学生たちの活動は、より直接的な武力行動へと形を変えつつあった。そこに登場したのが、劇中で松山ケンイチが演じる、梅山(本名は片桐、原作ではKと表記)と名乗る男が幹部を務める、ナゾの過激派学生グループ・赤邦軍(実は、メンバー4人の即席団体・・・)。新米ジャーナリストの沢田(妻夫木聡)は、先輩記者とともに取材を敢行、梅山に親近感を覚え始める。しかし先輩記者は、梅山は「革命を論じているだけで、偽者だ」と断じる。好奇心からこっそり梅山と接触を続けていた沢田は、次第に彼の巧みな話術に引き込まれ・・・。そしてある日、赤邦軍が自衛官を殺害するという行動に! これは「政治犯が起こした殺人事件」か、はたまた「一般の殺人事件」なのか? 原作は、評論家・作家の川本三郎が、自身の新聞社入社当時に実際に起こった事件を綴った、衝撃のノンフィクション。それをもとに、山下敦弘監督の盟友、脚本家の向井康介(『リンダ リンダ リンダ』ほか多数の山下作品を担当)が、3年近くの歳月を費やし、フィクションとして再構成した。

原作者が記憶にフタをしてきたエピソードこそ、きっちり描こうと思った。

ミルクマン斉藤(以下、斉藤) 『マイ・バック・ページ』を映画にすると監督から最初に聞いたのは、2007年の12月でした。ずいぶん時間がかかりましたねえ。

山下敦弘(以下、山下) そうですね。あの頃はたぶんまだ、原作を読んでたような時期でしたね。

斉藤 あの時代・・・1970年代の「安保闘争」前後の頃のことって、もともと興味があったんですか?

山下 いや、自分の中の接点って『鬼畜大宴会』(※注1)しかなかったですね。正直、原作を読んだ時も「変な事件だな」ということと、(原作者の)川本(三郎)さんが、当時の音楽とか映画をうまく絡めてエッセイ風に書かれていた部分のほうが、すっと入ってきて。フォークジャンボリー(日本初の野外フェスティバル)で、はっぴいえんどが歌ってるエピソードとか。でも、原作をどう映画化しようかと思ったとき、やっぱりこの事件(※注2)が軸だなと思ったんです。

斉藤 最初から、この事件を映画化してほしい、というプロデューサーの依頼じゃなかったんですね。

山下 とにかく最初は、原作の『マイ・バック・ページ』を映画にしよう、と。それから川本さんに会いに行って。僕らの映画も観てくれてたので、最初は世間話みたいな感じだったんですけど、脚本の向井(康介)がいきなり「自衛官が死んだこと、どう思います?」って訊いたときに、川本さん、言葉に詰まったというか・・・ちょっとなにも答えられなくなってしまって・・・。原作読んでもそうなんですよね。川本さん、逮捕のくだりって冷静じゃないというか。

斉藤 同じことを何回も繰り返して書いてますよね。自分の中でまだ整理できていないものを、無理矢理言葉にしようとして、できない焦燥感・・・。

山下 自衛官が死んだということを軸に置いて、そこを映画としてきっちり見せれば、全体ができるのかな、と。なおかつ川本さんにそれを観てほしいな、と・・・。川本さん、そこにずっとフタをしてきたと思うんで。

『ばかのハコ船』とか『リアリズムの宿』と、通じる視線もありましたねぇ?

斉藤 最初は、梅山(※注3)の背景は、描かずにいこうと思っていたとか。

山下 「謎の男」として描こうと思ってましたね。アメリカン・ニューシネマじゃないですけど、たとえば・・・若いジャーナリストが事件に巻き込まれていって、最後会社をクビになったときに、テレビであさま山荘の中継が流れていてちょっと感傷的に終わる、みたいな。それをキャラクターも作り変えて、常に誰かとケンカしてるみたいなアクションぽいタッチで、90分くらいでガーッと見せちゃえないかな、と。・・・でも、無理だなあ、と。ドラマがなかったんですよね。川本さんの話だけ残すと、ハテナばっかになっちゃう。で、川本さんの口から菊井(※注4)の印象を聞いてるときに、「正直、もう滝田修さん(※注5)には会いたくないけども、菊井には会いたい」と。僕らは「えーっ!」と思った。「あんなに裏切られたのに・・・何なんだろう、菊井の魅力は」と。で、いろいろと資料を見ていくと、やっぱりメチャクチャな奴なんですけども(笑)、でも人たらしというか、「こういうヤツいるよな」って向井と火がついて。赤邦軍というたった4人の革命軍を描こうということになって、モチベーションがガーッと上がった (笑)。

斉藤 アジト・・・といっても自分たちだけがそう思ってるようなうらぶれたアパートの物干し台で、女のブラジャーも恥ずかしくて取り込めないような奴が、革命軍を名乗って、自意識過剰に官憲の目を気にするっていう(笑)。女とイチャついてる梅山の気配をふすま一枚向こうで察しながら、知らんふりしてヘルメットに赤いペイントしてるメンバーとか・・・。

山下 ああいうところは撮影の中盤にあったんですけど、一瞬自分を取り戻した感じがありましたね(笑)。いつもの僕の目線っていうか、(人物を)ちょっと斜めに見てるっていうか、引いて見てる感じがありました。

斉藤 『ばかのハコ船』(※注6)とか『リアリズムの宿』(※注7)とかね。

「妻夫木聡・主演」になったのは、やっぱり妻夫木君自身の演技のおかげ。

山下 (新米ジャーナリスト・沢田を演じた)妻夫木君だけの視点からこの映画を撮ってたらパンクしたと思うんですけど、いいバランスで赤邦軍のエピソードを描けたのは、自分のよりどころになって。ま、結果的には編集でだいぶ落としたんですけども、映画を作るうえではすごく重要だったんだなあと。

斉藤 落としちゃったんですか(笑)。確かに映画全体としては沢田(※注8)目線ですよね。時代の空気に飛びこめずに、傍観者として生き延びてしまった彼の「後ろめたさ」が基本になっている。

山下 そう! キーワードは「後ろめたさ」だったんです。安田講堂が落っこっちゃったときに、安全地帯からただ見ているだけだった川本さん、ってのがすごくドラマチックだなと。でも(観客からすると)「だから何?」って気にもなるのかなと思ったり・・・。なおかつ、沢田が梅山をなんで信じたのか? そういうのってなんとなく頭では解るんですけど、映画として成立するのかな、と。CCRの曲を一緒に歌っただけで、梅山のこと「コイツちょっといい奴かも」と思ったワケでしょ? それで通用するのかな、と・・・。いざ脚本書き進めてても、ツッコミまくっちゃうんですよね。向井とふたりで「川本さん、優しすぎるよな。なんで信じたんだろうな」って愚痴ばかりで (笑)。

斉藤 冒頭にあった、ウサギを死なせちゃう場面もそうですよね。いつも、沢田の優しさが裏目に出る。

山下 そうですよね。でも・・・正直言うと、沢田のキャラクターが弱いと思ったんですね。梅山があまりに強烈なもんで。でも編集していくと「あー、これは沢田の映画なんだなぁ」と。妻夫木君がやはり「主演の芝居」をしてるわけじゃないですか。そうなってくると松ケンのシーンがどんどんなくなって・・・僕の中では最終的に「妻夫木聡・主演」ってかたちになったというか。

これまでのエピソードが一気に浮かぶラスト・・・僕、泣きましたよ。

斉藤 妻夫木君と忽那汐里(※注9)のあいだで『ファイブ・イージー・ピーセス』の話があり、さらに松山君が『真夜中のカーボーイ』のダスティン・ホフマンに共鳴する台詞を吐くに至り、僕は「ああ、これは、“男が泣く” 映画なんだ」と思ったわけです。きっと妻夫木聡は泣いて、そして映画は終わるに違いない、と。それが判っていながらも、やはり観ていて僕、泣いちゃったんですねぇ。最後の最後まで感情線を引っ張っていかれて、「やはり山下敦弘と妻夫木聡は巧い!」と唸らされてしまった(笑)。

山下 「泣く男の話だね」っていうのは2008年くらいの段階で出てたんですけど、書き進めていくうちに、泣くことが目的みたいになってきちゃって。なおかつ「泣く」伏線をいろいろ張っちゃったものだから・・・正直、撮影前日まで向井と「泣くっていったいどうなんだろう。オレたち、もう判んなくなってきてるから、ここは妻夫木君に委ねよう」と(笑)。とりあえず最後は、沢田の「顔」なんだ、ってことで、妻夫木君に丸投げして演ってもらって・・・でも僕的には、これで終わっていいのかなとまだ悩んでたんですけど、あの芝居見て、「もう一回やってくれ」という理由が何もなかった。「涙以上の顔」になってるなぁ、と。正解は妻夫木君がくれた、って感じですね。

斉藤 これがまたズルくて効果的なんですが(笑)、エピローグの直前に「涙を流しそうなシーンで泣かない」っていう芝居を用意してるじゃないですか。妻夫木君が、忽那汐里と最後に編集部で話すシーンですが。

山下 あはは、バレました(笑)? でも最初に向井と書いた脚本では、あの場面で泣いて、あそこで終わる、ってことだったんです。僕の中では、事件としては、眞子(忽那汐里)とのあのシーンで終わってるんですよね。でもプロデューサーに「あの時代を描くうえでは、数年後も描いてくれ」って言われて・・・。でも今は、あそこで泣かせなくてよかったな、と思います。

斉藤 沢田の根本には「後ろめたさ」の感情が常にある。安田講堂のトラウマ、身分を隠しての潜入ルポ、梅山の犯罪への手助け・・・すべての根っこに「後ろめたさ」があって、それら全部が包括されて、ドラマの最後でググッと浮かび上がってくる。・・・美しい締めくくり方だと思いましたよ。

山下 ありがとうございます。なんか、もう(制作中)自分を見失ってたんですよね(笑)。編集しながらも迷ってたというか。僕の中では殺害シーンが大きかったんで。『鬼畜大宴会』なんて映画を手伝ってたくせに、人が人をひとり殺すってシーンを撮るのが、すごくプレッシャーになっていて。

映画が仕上がった今でも、この事件は「なんだかイヤな感じがする」。

斉藤 『マイ・バック・ページ』は『鬼畜大宴会』とはまったく違う意味で、人間の死をじっくり長回しで撮られてますよね。

山下 今回はあれしか方法が思いつかなくて。人が殺された、という事実を印象づけたいな、というのがあったから。でもプロデューサーには「あの(殺害)シーン、なくならないですかね?」ってすごく嫌われたんですよ。血が出るというところを。だから、編集の最初の段階では、もっぱらそのシーンを切らないために戦ってて(笑)。僕もヤケになって、一回抜いたんです。でも抜いたら抜いたで、みんなも「あれ?」っていう顔をしたんで。僕らもあのシーンは強気で、ワンカットで撮ったんで編集点もないし(笑)。

斉藤 でもあの「死」のシーンがないと、沢田がつのらせる「後ろめたさ」の感情も、梅山が「三島由紀夫を超えた」なんて、のたまうことのデタラメさも、強度を減じることになるわけで。

山下 絶対に必要だったと思うんです。でも、なんか違うなんか違う! ってイジっていくうちに・・・はじめ僕と向井がキャッキャ言いながら楽しんで書いてた赤邦軍のシーンが、どんどん抜け落ちていく(笑)。やっぱり最後には、沢田の話が骨格として残っていったという・・・。眞子が言ってたように、(この事件に対して)ホントに「イヤな感じがする」というか、掴みどころがないという感じは、僕もいまだに思いますね。

知ればもっと楽しい!

  • ※注1 『鬼畜大宴会』
    学生運動全盛時代を舞台に、過激なバイオレンス・ドラマを描いた、熊切和嘉監督作。当時、熊切監督とは、大阪芸術大学の同寮の後輩だった山下監督が、同作で照明・編集助手を務めた。1997年作品。
  • ※注2 この事件
    過激派学生グループ・赤邦軍が、自衛隊の駐屯地に忍び込み、自衛官を殺害した事件。
  • ※注3 梅山
    赤邦軍のリーダーを名乗る男。事件の前から、「銃を奪取して4月に行動を起こす」と周囲に語っていた。松山ケンイチが当たり役で演じる。
  • ※注4 菊井
    映画で梅山のモデルとなっている、学生活動家の実名。原作では名前を伏せて「K」と記述されている。
  • ※注5 滝田修
    京大・全共闘のカリスマ議長。映画の中では、前園勇として登場。ジャーナリスト沢田(妻夫木聡)の計らいにより、梅山と引き合わされる。
  • ※注6 『ばかのハコ船』
    山下監督の第2作。東京で事業に失敗したカップルが、救いを求めて地元へ戻るが、相変わらず空振りばかりで暮らしていく様を、哀しくも可笑しく描く。バンクーバー国際映画祭など、世界の映画祭でも好評を博した、山下節全開の脱力系コメディー。2002年作品。
  • ※注7 『リアリズムの宿』
    『ねじ式』『無能の人』などで知られる、つげ義春のコミックを、大胆に脚色し映画化した、山下監督の長編デビュー作(大学の卒業制作として発表)。冴えない男ふたりの放浪旅を、くるりの音楽と美しい情景ともに追っていく。独特のオフビートなタッチで、くすくす笑いを呼ぶ傑作! 2003年作品。
  • ※注8 沢田
    新聞社に入社したての新米ジャーナリスト。取材対象者の思考を理解したいという気持ちと、ジャーナリストに必要とされる客観性の狭間で葛藤する日々を送っている。
  • ※注9 忽那汐里
    沢田が記者として所属する、週刊誌の表紙モデル・眞子を演じた。ふいに交わした会話から意気投合し、沢田と眞子は一緒に映画館に通う仲に。『ファイブ・イージー・ピーセス』を観た後、沢田が眞子に印象に残ったシーンを尋ねると、眞子の返答は・・・「ジャック・ニコルソンが泣くところ。私は、きちんと泣ける男の人が好き」。

Profile

山下敦弘 
やました・のぶひろ

1976年愛知県生まれ。高校在学中より自主映画制作をはじめ、大阪芸術大学に進学。在学中に熊切和嘉と出会い『鬼畜大宴会』('97年)にスタッフとして参加。大学の卒業制作にして、初の長編作品『どんてん生活』('99年)で、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭オフシアター部門・グランプリを受賞。『リンダ リンダ リンダ』('05年)のロングランヒットで一気に若手監督の代表格に。テレビドラマの監督・演出なども多数こなす売れっ子。

撮影/コーダマサヒロ 取材/ミルクマン斉藤

Movie Data

『マイ・バック・ページ』

公開中
監督:山下敦弘
原作:川本三郎 脚本:向井康介
出演:妻夫木聡、松山ケンイチ、忽那汐里ほか
配給:アスミック・エース
大阪ステーションシティシネマほかにて上映

作品紹介はこちら

※対談中に登場した『ばかのハコ船』『リアリズムの宿』を含む、山下敦弘監督の過去作品4本が、 シネマート心斎橋にて6月3日(金)まで特別上映中!

詳細はコチラ

※タイムテーブルなど詳細は、劇場の特設ページへ

©2011映画『マイ・バック・ページ』製作委員会

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