山田孝之祭の集大成、鬼才・石橋義正監督のアナーキーな異空間

2012.11.30 12:00

映画『ミロクローゼ』© 2012「ミロクローゼ」製作委員会

(写真4枚)

ま、来るものは拒まず、な感じで日常的に映画を観まくり続けている僕だけど、心底観たくて観たくて仕方のない映画というのに限って何故かなかなか観れないものだったりする。この『ミロクローゼ』にしても、最初に情報を目にしたのは2011年の7月。

山田孝之がニューヨーク・アジア映画祭で日本人初のライジング・スター・アワードなるものを受賞した、とのネットニュースに「何だ?この変なタイトルの映画。聞いたことないぞ」と、とりあえず読み進めて僕は叫んだ。いやホント、マジで叫んで、近くにいた妻と娘に怒られた。えっ、「石橋義正監督」だって!!??

◆趣味のいい悪趣味、知性的で痴性的

石橋監督の『狂わせたいの』(1997年)にはとことん惚れた。まさに「趣味のいい悪趣味」、知性的であって痴性的、アホの至高点(と、当時僕は書きまくった)。現代美術のフィールドに今も身を置く作家だけあって、さまざまなスタイルを大胆に折衷したプロダクション・デザインの密度。昭和歌謡のグルーヴィなアレンジ。ポップでエロエロ、されどクールなモノクロ映像。加えて、京都人である僕としてはこの作品のアナーキーな異空間に、ナチュラルな京都弁があまりにもしっくりハマっているのも愉しかった。

石橋義正監督『狂わせたいの』(1997年)

だが2000年代に入ると、この『狂わせたいの』の感覚そのままに石橋義正はTV界で暴れまくる・・・といってもテレビ東京系の深夜帯にだが。過激でシュールで毒気に満ちみちた変態バラエティ『バミリオン・プレジャー・ナイト』。そこから派生し、いまや10年以上の長寿番組となった登場人物が全員マネキン人形のブラック・ショート・コメディ『オー!マイキー』。

もともと映画界にのみ主軸を置くヒトではないとこっちも認識していたし、番組そのものがあまりにも石橋義正だったからそれはそれで愉しんでいたが、やはり大きくまとまった映像(べつに「映画」というフォーマットでなくてもよかったのだ)が観られないのはなんとも寂しかったのである。そこに先の山田孝之受賞&石橋義正新作映画の報だ。それからさらに1年半の国際映画祭道場破りを経て凱旋帰国、やっとのことで僕も作品を観られたワケだが・・・。

◆前代未聞空前絶後のヴィジュアル・インパクト

やはり期待は裏切られなかった!・・・どころか中毒性はさらに増し、規模もキャストも豪華になれど、小さくおとなしく無難にまとまる様子など微塵もない。モノクロ転じて極彩色となったヴィジュアルもむろん徹底した凝りまくり。おとなこどもオブレネリ ブレネリギャーの絵本的世界の、メルヘンチックな原色と歪んだセット。

映画『ミロクローゼ』© 2012「ミロクローゼ」製作委員会

ウルトラハイテンションな青春相談員・熊谷ベッソンが、エロいナオンと踊り出す街のグラフィカルなカラリング。欧風世界の現代劇からウェスタン、そして任侠時代劇と変遷する片目の浪人・多聞(タモン)の折衷主義極まる無国籍空間。ことに巨大遊郭のエントランスにどーんと置かれたねぷた風芝居絵とその前で滔々と語る岩佐真悠子のハイパーフューチャーなオリエンタル衣装の取り合わせにはぞくぞくする(彼女が喋るのは京都弁!)。

映画『ミロクローゼ』© 2012「ミロクローゼ」製作委員会

そして本作の一大クライマックス、スーパースローモーションキャメラの横移動で繰り広げられる、6分間にわたる遊郭での大立ち回りは前代未聞空前絶後のヴィジュアル・インパクト! 歌舞伎絵の瞬間美が、「動き」として連続し絵巻のように展開されるダイナミズム。障子数枚向こうから刺客たちがわらわらと迫りくる日本画にはない深いパースペクティヴ。映画好きならただちに鈴木清順『関東無宿』(2963年)を想起するかも知れないが、きっちりその清順師に出演を仰いで仁義を切っているのも素晴らしい・・・なのに師匠へのその無体な扱いはないと思うが(爆)。

映画『ミロクローゼ』© 2012「ミロクローゼ」製作委員会
映画『ミロクローゼ』© 2012「ミロクローゼ」製作委員会

だがなんといっても、その底ヂカラを再認識させるのが山田孝之なのだ。デビューしたころの好青年イメージも残しつつ、近年はそれを完全に踏みにじるほどのダークサイドを見せはじめた彼。そのカメレオン性ゆえ、2012年に入ってからの日本の映画/TV界が「山田孝之まつり」常時開催中状態なのは誰もが納得だろう。ところで『ミロクローゼ』では、上記のオブレネリ ブレネリギャー、熊谷ベッソン、タモンの3キャラをひとりで演じ、自己の内に潜むベビーフェイス/ヒール双方の顔を、この一作で見せているのである。つまりこの映画自体がもはや「山田孝之まつり」なのだ!

と同時に山田孝之という存在を超越し、「ひとりの女性を崇拝し、妄執し、それを行動原理とする」、普遍的な「男性性」を体現してみせてもいるのが凄い。それでいて外面は恐ろしいほどにちゃらんぽらん。なんとも粋な作品である。

文/ミルクマン斉藤

映画『ミロクローゼ』

ショートドラマ「オー!マイキー」シリーズで世界的に注目を集めた石橋義正監督による奇想天外なラブ・ファンタジー。主演の山田孝之が愛に突き動かされる男たち──草食系男子の悩みを一刀両断する恋愛相談員・熊谷ベッソン、恋人を探す片目の浪人・タモン、絵本から抜け出てきたような青年・オブレネリ ブレネリギャーという一人3役をこなす。エキゾチックで鮮やかな美術など、独自の映像世界が異彩を放つ快作。音楽には、関西ではおなじみのmama!milk・生駒祐子、清水恒輔らが参加。
2012年12月1日(土)公開
監督・脚本・美術・編集・音楽:石橋義正
出演:山田孝之、マイコ、石橋杏奈、原田美枝子、鈴木清順、佐藤めぐみ、岩佐真悠子、武藤敬司、奥田瑛二、ほか
配給:ディーライツ、カズモ
1時間30分
© 2012「ミロクローゼ」製作委員会

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