MOOSIC LAB史上初の6冠で注目、酒井麻衣監督

2016.5.1 07:00

映画『いいにおいのする映画』の監督・脚本・編集をつとめた酒井麻衣

(写真1枚)

「ブルータル・オーケストラ」を自称し、大阪を拠点に活動する10人+αの集団・Vampillia(ヴァンピリア)の音楽を映画化した『いいにおいのする映画』が、全国的に話題を集めている。

本作は、ファンタジー大好きな女子高生・レイが、Vampilliaのパフォーマンスに魅せられ、それをきっかけにライブの照明技師を夢見て成長する物語。アーティストに光をあてつつ、自分の未来をも明るく照らし出そうとする。そんな姿を、モノクロの美しい映像とティム・バートンばりのファンタジー描写をまじえて映し出している。

メガホンをとった酒井麻衣監督は、2014年に京都造形芸術大学・映画学科を卒業したばかりの新鋭監督。劇中のヒロイン同様、実際にVampilliaのライブに衝撃を受けて、夢を追うように映画製作に取り組んだ。

「2014年に、新進気鋭の映画監督がミュージシャンとコラボして映画を作り、それを上映する映画祭『MOOSIC LAB 2015』(主催:SPOTTED PRODUCTIONS)への参加のお話をいただきました。その提案をいただいたミュージシャンのなかにVampilliaの名前があり、実際にライブを拝見させていただいたとき、涙を流すほど感動したんです。『ステージ上に、魔法の住人たちがいる』と思えるようなパフォーマンスでした。そして、裏方の女の子が、光(照明)の魔法をかけるお話を思いつきました」と酒井監督は語る。

そして、「小さいときからファンタジーが大好きだったし、また、映画監督は裏方の仕事でありながら、限られた音楽や言葉を映像にのせて人の心を動かせる魔法使いだと感じていたので、ヒロインに自分を投影したんです。それからは場所を問わず、Vampilliaのライブに駆けつけ、『映画をやらせてください』と飛び込んでいって、その都度、ストーリーやキャラクターの精神分析などを見せ、メンバーのみなさんに『これは俺たちの映画なんだ、こいつは本気なんだ』と思ってもらえるように動いていきました」という。

『いいにおいのする映画』© 2015 Little Witch Production / MOOSIC LAB
『いいにおいのする映画』© 2015 Little Witch Production / MOOSIC LAB

しかし、企画が現実味を帯びてきた当時、酒井監督は京都の会社に就職していた。だが、映画監督への夢を諦め切れず、現実とのはざまで「気持ちがボロボロになっていた」という。酒井監督は、この『いいにおいのする映画』の製作をラストチャンスと捉えた。そして2015年春、思い切って会社を退職。上京する。

「チャンスの神様を正面から抱きしめないと、と思ったんです。これにすべてを賭けようと。これで掴めなかったら、映画を辞めた方が良いと考えました。両親には、『MOOSIC LABでグランプリが獲れなかったら、(故郷の)長野に帰る』と約束しました」

大手メジャーからの誘いならまだしも、これは自分で資金を集めて作る、あくまで自主製作の映画だ。しかも、映画祭のなかの1本として上映されるもの。もちろん、生活だって苦しくなる。いくらラストチャンスとはいえ、すべてを投げ打っての大勝負。結果は、審査員、観客から圧倒的な支持を獲得。グランプリをはじめとする、映画祭史上初となる6冠を成し遂げた。そして、それを受けて全国の劇場で公開されることも決まった。

今、酒井監督のもとには新作映画の話も舞い込んできているという。現実に苦しみながら、それでもファンタジーに憧れ続けた女性が、夢だった映画・映像の仕事をつかみとるという、シンデレラのようなストーリーを歩み始めた。

「誰にも宝石はあると思うんです。磨き方を間違えなければ、絶対に輝く。そして日常生活にあるどんなものでも、ファンタジーになりうる。私は、そんな煌めきを探して、これからも映画を撮っていきたいです」

取材・文・写真/田辺ユウキ

『いいにおいのする映画』

2016年4月30日(土)
監督:酒井麻衣
出演:金子理江、吉村界人、Vampillia、中島春陽
配給:SPOTTED PRODUCTIONS

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