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よう知らんけど日記。 東京で暮らす小説家・柴崎友香が大阪弁でぼちぼち綴る、日々のあれこれ。「よう知らんけど」は、関西人がさんざん全部見て来たかのように喋った最後に「絶対にそうやって!……よう知らんけど」と付けるアレですよ。
第102回 昭和はいちいちエピソードが濃いわ!

5月☆日
朝、つけっぱなしにしてたワイドショーで「今どきの若者は湯船に浸からない」というどうでもいい話題をやってた。タイトル聞いただけで想像つくように、どっかが実施したアンケート結果から湯船に浸かる若者は何パーセントっていうのを元に、渋谷とか原宿で若者に街頭インタビューして、「めんどくさいし」「仕事から帰ってきたら疲れてるから」みたいなのを取りそろえ、スタジオでコメンテーターが「疲労回復にいいのに」「日本の文化なのに」とおきまりの流れ、になりかけてたところ、ゲストの一人が「おれも入らないよ」。台本が崩れるスタジオ。さらにそのゲストが、司会者やほかのコメンテーターに「どうなんですか?」と聞くと、「え、あの、わたしも浸かりません」「わたしも、何十年もシャワーだけですね」。なんやねん、さんざん今時の若者は、て言うてたのにみんな(40~60代の方々でした)入ってないやんけ! とつっこみつつ、チャンネル変えたらそこでもまた同じように「今どきの若者は湯船に」(以下同文)、そしてそこでも司会者が自分も浸かってない、と言ってました。一人暮らしやとお湯ためたらもったいないしね。住宅事情も昔と違うしね。ワイドショーっててきとーにつくってるなあ、という印象を視聴者にめっちゃ与えた感じの5分でした。

5月☆日
横浜のみなとみらいに新しくできた[BUKATSUDO]というスペースで「贅沢な読書会」に参加。書評家・ライターの瀧井朝世さんをモデレーターに、1回目は課題図書を参加者で話し合い、2回目はそこに作者も参加、というおもしろい企画。1回忌憚のない意見を出し合っているからか、熱心かつ細かいところまで読み込んだ質問が多くて楽しかった。小説家って意外に読者から感想聞く機会が少ないのですよ。だから、こういう機会は貴重やし、自分でも考えること、気づくことがたくさんある(作家は自分が書いた小説の正解を知っているわけではないのです)。3か月連続企画で、角田光代さん、長嶋有さんにつづいてわたしで、その次月からはまた3人の作家さん、と続くようなので興味ある方は是非。

そして、ちょうどこの日に同じ[BUKATSUDO]スペースでイベントしてた三宅唱監督が飛び入り参加してくれました。課題図書は『パノララ』やったんですが、「同じ一日を繰り返す」「俳優」など共通したテーマがある『Playback』を監督した三宅さんと久しぶりにお話しできて楽しかった。三宅さんがやってた企画は、三宅さんが選んだ映画をみんなで観るというもので、いいなー、わたしもその会、参加したかった。

6月☆日
ケーブルテレビのチューナーを入れ替え。HDDとDVDレコーダーも兼ねてるタイプやってんけど、もうだいぶん前からDVDへのダビングができへんようになってて、そのため消したくなり録画が溜まってHDDもいっぱいで、でもHDDに入ってる録画を捨てるのは……(機械を交換するしかないと前に言われてた)、とぐだぐだ放置状態やってんけど、またどこかで再放送とか、最近はYouTubeにもあがってたりするし、と思い切って交換を決意したのでした。前にこの日記で、修理を頼んだときのことを書いたけど、そのときと同じく、交換に来た人に「DVDやブルーレイによくダビングされます? されますよね、かなり」と言われました。はい、そのレコーダーの下に大量に録画DVDあるのがもろバレですよね。しかもファイルの背に「ドキュメンタリー(戦争)」とか書いてあるし、周りに並んでるセルDVDもなんか偏ってるし。でもきっと、わたしごときがコレクター面するなんておこがましいと思うの。もっとすごい人、いくらでもいますよね?
とりあえず、無事に新しい機種になり、大量録画生活復活しそうです。

6月☆日
日付が前後しますが、ちょっと前に電車に乗ってコンサバ系ファッション誌の吊り広告を見上げたら「だって、『幸せそう』って思われたい!」とコピーがどーんと書いてあった。いやー、それはいかんよ、と思わず声に出して言いそうになった。「思われたい」な上に「幸せそう」やろ? 「自分が思う」でも「幸せ」でもないのやで? そんなん、確かめようがないことやん? なにで計るの? SNSのいいね! とか? 欲望の基準を自分ではコントロールできないところに置くと、きりがないというか、結局苦しむことになると思う。「自分が幸せと思う」は自分でわかるけど、人に幸せそうって思われるって人の心の中はわからんし、そこをめざすのって何倍もしんどいやん。しかも「幸せそう」かー、「幸せ」じゃなくて。……とかなり長時間もんもんとしてしまった。わたし、この数年この雑誌を買っていて、それはきりっとした服が結構載ってるし(モード系とかいわゆる青文字系雑誌はわたしには少々ガーリー寄りなのよね)、キャリア系のねえさんたちはきっちりしてはるのやなあ、と見習いたいところもあるからなのですが、こういうところは若いころに苦手意識を持ってた「赤文字」の系譜なのやなあ。若いころ、赤文字系雑誌の見出しの「愛されメイク」「愛されワンピ」みたいのがむちゃくちゃ違和感あって、「愛され」は要するに「モテ」の言い換えやねんけど「愛され」とぼやかしてるところがまたなんともいえずなじめへんかった。人に好かれるのは悪いことじゃないし、さらには「誰かのよろこぶ顔が見たい」「人の役に立ちたい」も、もちろんええことなのやけど、それだけが基準になったり、「感謝されたい」みたいになるとしんどいと思う。自分がやりたいからやってる、っていうのを忘れると、追いつめられるよ。

6月☆日
普段は低脂肪の牛乳を飲んでいるのやけど、たまに普通の牛乳を飲もうとコップに入れると、白い。絵の具みたいに真っ白や!と感動する。それで、牛乳が白いのは脂肪の粒なのやなあ、これが「乳化」なのやなあ、としみじみする。

6月☆日
『ザ・ドキュメンタリー 勝新太郎~破天荒伝説の真実~』(BS朝日)。三味線の家元の息子として生まれた勝新太郎が(兄・若山富三郎と一緒に写ってる子供の頃の写真めっちゃかわいい!)、歌舞伎の興行に同行してアメリカに行ったときにハリウッドで有名になる前のジェームス・ディーンを「もうすぐ大スターになるんだ」と紹介され、こんな普通のやつが大スターになるんだったら俺も、と映画スターに進路変更した、て、昭和はいちいちエピソードが濃いわ!
いちばん驚いたのは、松平健って勝新に見いだされて、付き人をしててずっと勝プロの所属やってんね。 勝新がまだ無名やった松平健を突然京都に呼び出してカメラテストした映像が残ってて、ちょっと放送してくれてんけど、これがもうあまりに衝撃やった。まだ全然時代劇でも新さんでもない松平健、影のある若者を演じる表情に目が釘付け。勝新が次々指示を出すごとに表情を変えて、映画やドラマみたいな流れがない分、俳優ってすごいんやな、と呆然となってしまった。映画は偶然からしか生まれない、とドラマ版『座頭市』でも脚本なしのあげく、出演者の原田美枝子にどこに行きたいか聞いて「海」って言われていきなり日本海に行ったり、大親友の石原裕次郎とクラブで大喧嘩したのを芝居を装ったり、がん公表会見で煙草吸ったりしたのも、いろんなエピソードを聞くにつけ、全体にサービス精神が大暴走してる人やったんやな。

バルテュスのドキュメンタリー映画で、スイスのバルテュス邸に勝新が来て按摩やったり座頭市やったりしてたのは見てたけど、それ以外も何回もお互いに会いに行ってたらしい。「いちさんへ」ってサインの入った絵も何枚も持ってて、さらにバルテュスがペイントしたデニムまで! バルテュスが勝新に興味持ったきっかけがフランスでの特集上映かなんかのポスター見て「バルザックのようだ!」と思ったっていうのもええ話やし、経歴ではなんの共通点もなさそうな二人やけど、そんなに気が合ってたのやなあ。なにしゃべってたんやろ。そして番組を通して、勝新エピソードを語っていた中村玉緒の愛情あふれる様子に、よっぽど惚れとんやなあ、今でも好きなんやなあと、胸がいっぱいになりました。
ところで、digmeout の古谷高治さんが勝新の若い頃に似てると思うのですがどうやろか?

柴崎友香(しばさき・ともか)
1973年大阪生まれ。映画化された『きょうのできごと』で作家デビュー。2007年に『その街の今は』で第57回芸術選推奨科学大臣新人賞、第23回織田作之助賞大賞、第24回咲くやこの花賞受賞。2010年に『寝ても覚めても』で第32回野間文芸新人賞受賞。2014年に『春の庭』で第151回芥川龍之介賞受賞。著書に『青空感傷ツアー』『フルタイムライフ』『また会う日まで』『星のしるし』『ドリーマーズ』『よそ見津々』『ビリジアン』『虹色と幸運』『わたしがいなかった街で』等多数。
公式サイト:http://shiba-to.com

権田直博(ごんだ・なおひろ)
1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。
風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
キレイ:http://naohirogonda.tumblr.com  風呂ンティア:http://frontier-spiritus.blogspot.jp/