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よう知らんけど日記。 東京で暮らす小説家・柴崎友香が大阪弁でぼちぼち綴る、日々のあれこれ。「よう知らんけど」は、関西人がさんざん全部見て来たかのように喋った最後に「絶対にそうやって!……よう知らんけど」と付けるアレですよ。
第104回 どうなる!?  アイオワ生活。

8月☆日
アメリカに行くため、3か月分の仕事を前倒しでひたすら書く日々。猛暑らしいけど、外に出るのは日が暮れてから、閉め切った部屋でじっとしてるので夏さえ全然ない。自分の性格というか能力からして、アメリカで、それも英語だけで暮らさなあかん状況の中で、日本語の仕事ができるとは思えない。2つ以上のことを並行してやるとか、別の世界のことを一度に考えるとか、苦手なんよね。ときどき、人といっしょにいるときに携帯で電話してる人がいるけど、っていうかごく普通の光景やけど、あれもわたしにはすごい難しい。目の前にいる人と、電話の向こうの別の場所の人と、同時に存在できへんというか。いっしょにいる人が携帯で話してても別にいやとかじゃなくて、なんで可能なんやろ、って不思議に思う。

8月☆日
iPhoneに入ってる万歩計を見ると、連日2桁。つまり、家から出てない。出発までに仕事もやけど、家のもろもろも片づけて行かなあかんし、アメリカ行きも生活用具の準備はあるし、英語で返さなあかん書類はあるし……。そして、なんとかして行っときたい展覧会が終了間近。お盆になってやっと滑り込み、最終日に間に合った! と思ったら、あれ? 案内がない。同じ美術館で複数やってるほかの展覧会の表示はあるのに、どこから入るんやろ?? と探したら、あ、先週までやったんや……。会期1週間間違えてた……。とても悲しかったですが、図録だけはなんとか買えました。

8月☆日
いろんなことが大混乱。展覧会に行かれへんかったのは残念やけど、こういうとき、わたしは心ここにあらずになって車にひかれそうになったりあやうく万引きしそうになったり(スーパーでカゴじゃなくて鞄にシイタケ入れてた。幸い、店出る前に気づきました)するので、気ぃつけな……。だって今そんなことやらかして、「芥川賞作家シイタケ万引き!」って新聞に載ったらしゃれにならんやん。

8月☆日
なんとか2個の特大スーツケースに荷物を押し込み、成田空港へ。行き先のアイオワシティは小さい町なので直行便はなく、ダラスで乗り換えなあかんのがとても心配。わたしは基本的にびびりなんよね。やる前にあれこれ考えて、勝手に不安になる。機内で映画見ようと思ったら、アメリカン航空なので日本語字幕のものがほとんどない。これから英語生活やし、勉強しよと思って見てみたのが『KEANU』ていうアメリカのコメディ映画。拾った子猫をギャングに誘拐されたさえない二人組の黒人が、ドラッグの売人を装ってギャングの本部に入り込み猫を救出するという、わりにべたな展開の子猫かわいい映画やった。「KEANU」は子猫の名前でキアヌ・リーブスから取ってるということで、猫の声はキアヌ・リーブス特別出演やった。ダラスの空港はものすごい広くて、トラムで移動。到着がちょっと遅れてぎりぎりやったけど、なんとか乗り継ぎできました。

8月☆日
アイオワ。事前に検索してみても、特に名物も観光名所もなく、出てくるのはひたすら「とうもろこし畑」。『フィールド・オブ・ドリームス』って映画が30年ぐらい前にあったやないですか。ケビン・コスナーがとうもろこし畑の真ん中に突然野球場作る話。まさにあれがアイオワ。飛行機から見た風景は、畑がパッチワークみたいに広がって、前に行った北海道の旭川空港に降りるときの眺めによく似てた。ただ、あれがもっとひたすらどこまでも続いてる感じ。プログラムのスタッフの女の人が迎えに来てくれてて、車でアイオワ大学へ。まっすぐ続くフリーウェイから見えるのは、やっぱりひたすらとうもろこし畑。青い空、緑の畑、鮮やかな夏の風景。

8月☆日つづき
ホテルに着いたのは午後2時か3時ぐらいで、簡単な案内をしてもらった後、とりあえず寝た。起きると、7時ぐらいやったけど、サマータイムなんで全然明るい。お風呂入ってから、とりあえず食料の調達に出た。グーグルマップで散々見てきたとおり、大学の学生会館にくっついてるホテルから坂を上ると、お店が並ぶ一角に出た。金髪ロングヘア、キャミソールにショートパンツの女の子たちがうろうろしており、アメリカの映画やらドラマやらで見た、絵に描いたようなアメリカの大学生活やなあ、と不思議な気分。ひとりで店に入ってごはん食べる勇気はまだなく、[チポレ]っていうブリトーの店で買って帰った。

8月☆日
ほんで、アイオワに何しに来たのかと言いますと、インターナショナル・ライティング・プログラム(以下IWP)という、世界各国から作家が集まって3か月間過ごすという、アーティスト・イン・レジデンスの集団版というか、合宿というか長い修学旅行というか、それに参加したのです。アイオワ大学は、クリエイティブ・ライティング、創作文芸科という小説や詩を書くほうのコースを初めて作ったところで、ジョン・アーヴィングやレイモンド・カーヴァー、カート・ヴォネガットなど錚々たる作家が教えてたり、今活躍してる作家もようさん輩出してる。IWPも来年で50年の歴史があって、日本からも中上健次や吉増剛造、水村美苗、最近だと中島京子、谷崎由依と多くの作家が参加してます。わたしは中島さんや谷崎さんから話を聞いていて、世にはそんな催しがあるのやなあ、ええなあ、と思いつつ自分には遠い世界のことやと思ってたのやけど、急に話が来て、それはもう、連載やらなんやらの仕事も自分の英語力もとりあえず置いといて、行きます! と答えるしか選択肢ないやん? 留学もホームステイもしたことないわたしが、3か月アメリカに行けるってだけで、なんでも、どうにか、します! ってことで、8月20日、午後9時なのにまだ明るい小さな大学町の路上を歩いてた。

8月☆日
泊まるとこは、ホテル、とはいうても、古いし、ハウスキーピングは1週間に1回やし(そしてスタッフは学生のバイト)、学生会館にくっついた建物で、寮とホテルの中間ぐらいの感じ。さらに事前に読んだエッセイや聞いた話から危惧していたのが当たって、川沿いの素敵な眺めの部屋ではなく、内側を向いた壁と石とボイラーの風景……。ま、贅沢は言えません。部屋には冷蔵庫(冷凍庫はない)と電子レンジ。キッチンはないので炊事はバスルームでするしかない。冷蔵庫に、最初にスタッフからのプレゼントとしてリンゴとオレンジとチーズが入っててんけど、このチーズが不思議な物体。3センチくらいの平べったい丸形で、包みを開けると真っ赤。びっくりするぐらい真っ赤。なんやろこれ、と思いつつ、そのまま食べた。中身は普通にチーズでまあまあおいしい。食べてから、そや、と思ってネットで検索してみたら……。赤いのはワックス、ろうで、そこは取って中身を食べる、と。食べたがな、みな食べてもうたがな! 昨今はたいていのことはネットに誰かが書いてて、特にアメリカやと食べ物、売ってるもの売ってないもの、生活上の困ったこと、なんでも出てくる。赤いチーズ、食べる前に検索したらよかった。そして、わたしと同じようにろうごと食べた人のブログもあり、別にだいじょうぶみたいやったので安心した。

8月☆日
朝ご飯だけ、朝ご飯部屋があってパンとかベーグルとかシリアルやらバナナやらゆで卵、ヨーグルト、飲み物がある。翌日の朝、行ってみたら7、8人いて互いに自己紹介。昼過ぎから、スタッフの引率でキャンパス(といっても、アイオワ大学は大学の敷地と町の境目がなく、大学=町の中心街でもある)を案内されつつ、歩きながら1人ずつ順に話しかけ、どこ出身? 詩人? 小説家? みたいな、もちろん英語やし、めっちゃ難易度高い状態に。フロム ジャパン、フィクション・ライター、ノベル、アンド、フィクション・ストーリー(英語は、長編小説はノベルで、短編はショートストーリー。ノベリストとストーリーライターで呼び方が違う)と答えつつ、なんやろな、この感じ、なんかに近いような……。あ、たぶん『11人いる!』の最初とか『超人オリンピック』みたいな感じ? とアホなこと考えてるうちに、どうやら周りの人に比べて自分が全然英語できないことがわかってきたのでした……。どうなる!? アイオワ生活、ということでしばらくアメリカ日記続きます。

柴崎友香(しばさき・ともか)
1973年大阪生まれ。映画化された『きょうのできごと』で作家デビュー。2007年に『その街の今は』で第57回芸術選推奨科学大臣新人賞、第23回織田作之助賞大賞、第24回咲くやこの花賞受賞。2010年に『寝ても覚めても』で第32回野間文芸新人賞受賞。2014年に『春の庭』で第151回芥川龍之介賞受賞。著書に『青空感傷ツアー』『フルタイムライフ』『また会う日まで』『星のしるし』『ドリーマーズ』『よそ見津々』『ビリジアン』『虹色と幸運』『わたしがいなかった街で』等多数。
公式サイト:http://shiba-to.com

権田直博(ごんだ・なおひろ)
1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。
風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
キレイ:http://naohirogonda.tumblr.com  風呂ンティア:http://frontier-spiritus.blogspot.jp/