立体迷宮? 劇団sundayの稽古場に潜入
「パズルのように組まれたいくつもの階段」「7人の役者が入れ代わり立ち代わり1人か2人の幻を演じる」など、何とも気になる言葉が並ぶ劇団「sunday」の新作『ハイ/ウェイ』特設サイト。これまで、眼が痛いほどの原色の舞台を出現させたり、百人近い人々のささやかな1日をたった5人の役者で見せ切ったり。現代アート作家も一目置くビジュアルセンスと、「架空の物語があって、役者がそれをさも本当の出来事のように演じる」という“演劇”のお約束にしばられない語り口で、根強い支持を受けている劇団「sunday」。この新作『ハイ/ウェイ』はいったいどんな公演になるのか? それを探るべく、稽古場に潜入してきました。
劇団「sunday」とは??
1993年、神戸大学演劇部OBを中心に「劇団☆世界一団」の名前で旗揚げ。エンタテインメント性にあふれた舞台で人気を集めるが、2004年に活動休止。2006年「sunday」と改名して活動再開し、芝居のスタイルを大幅にチェンジ。音楽やダンスの要素も盛り込んだジャンルミックス性の強い演出、世界を俯瞰するような独特の視線が魅力のストーリーテリングで、公演ごとに新たなファン層を獲得し続けている。主宰のウォーリー木下と役者の平林之英は、ノンヴァーヴァル・パフォーマンス・グループ「オリジナルテンポ」で海外公演を行うなど、メンバーたちの多彩な活動にも注目が集まっている。
「とにかく階段がいっぱいある舞台美術。今回の作品の構想は、それありきでした」と言うのは、作・演出を担うウォーリー木下。その言葉通り、稽古場にも持参していたステージの模型は、オランダの画家、マウリッツ・エッシャーの有名な無限階段を立体化したような空間で、見るからにめまいがしそう。ただ実際の舞台が建つのは公演直前になるとのことで、この日は「A1」「D8」など、階段の座標軸を記した紙を床に置き、それで立ち位置を確認しながらの稽古となった。この舞台美術もユニークだが、脚本や演技の方も負けずにユニーク。1人の人間の独り言めいた台詞を、Aの役者が語りだしたと思ったら、数秒後にはBの役者がその続きを語りだす。要は一人称で書かれた小説を、大勢の人間が3行ずつぐらいの間隔で朗読、という構図を思い浮かべてもらったらいいだろう。「一人二役」ならぬ「七人一役」というわけだ。
その内容の大半は、ある女の子の話。若くして死んでしまったらしい彼女は、自分の短い一生の中で経験したり考えたりしたことを、走馬灯のように振り返る。そこにはいい思い出もあれば悪いものもあり、微笑ましい考え方もあれば邪悪に満ちたものもあり。人間の人生、および思考の多面性を見せつけるような言葉が、ノンストップで繰り出される。「人間って、頭の中ではいろんなことを同時に考えているもの。複数の役者が台詞を分担することで、その状況を表現できればと思います。でもそれだけだと、おそらく観ている人はしんどいので(笑)、この主人公はなぜ死んだのか? という、謎解き的な部分でも引っ張っていこうと思っています」
そして稽古の方は、役者の演技の内容よりも、むしろ発声のタイミングや立ち位置の確認の方がメイン。「C1から登場して、B5で止まって」など、芝居というよりもマスゲームでも作っているような感じだ。「全員が1人の人間を演じるにしても、演技的な整合性は必要ないと思うんです。実際僕らも、相手によって人称を使い分けたり、自分でも別人のような行動を取ったりするなんてことが、よくありますしね。ただ主人公役が次々に変わるので、お客さんがパニックにならないよう、できるだけわかりやすい形に整理しようとは思っています。鑑賞のヒントをひとつ出すなら、階段を登っているのが、その時主人公を演じてる役者だということ。これは死んだ人間が、階段を登って天国に行くまでの話ですから」
思いがけない言葉とビジュアルが連発し、何ともつかみどころがなく、時に笑っちゃうほどシュール。木下の言葉を借りれば「カフカの世界、あるいは人の夢の中に入り込んでしまったような」、何とも不思議な観劇体験ができるはず。公演前日には、ブログorツイッターアカウントを持ち、その感想を翌朝までに発信できる人限定の公開ゲネプロも! 演劇だからこそ体感できる、立体迷宮世界の中に飛び込んでみよう。
取材・文・写真/吉永美和子
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