演劇版・Xファイルな、イキウメの世界

2012.5.17 10:00

並み居る演劇界の強豪を制して「第19回読売演劇大賞」の大賞を受賞するなど、イキウメ主宰・前川知大の勢いが止まらない。日常に潜む超常現象をテーマにした芝居は、いずれも謎解き&想像力を膨らませる快感に満ちたものばかりで、今回の受賞も納得の面白さなのだ。そんな「演劇版『Xファイル』(ただし殺人抜き)」とも言うべきイキウメの世界を、前川の解説付きで詳しく紹介!

取材・文/吉永美和子 写真/倉科直弘(前川知大)

File.1 概念の奪取で地球を脅かす宇宙人!

『散歩する侵略者』(2005年初演)
【作品内容】
小さな町で、急に家族によそよそしくなったり、所有の意識がなくなるなどの異常行動が増える。やがて幾人かの住人が「自分は地球侵略に来た宇宙人だ」と告白。「家族」などの概念を特定人物から調べ、相手からその概念を奪うのが、彼らのやり口だったのだ。

【前川解説】
『ウルトラセブン』で、メトロン星人が六畳一間の一室で地球侵略について語るシーンが、すごく好きなんですよ。そんな日常感覚の侵略話がやりたかったのと、人間から様々な概念がなくなるとどうなるかという思考実験を狙った芝居。なくすことによって、その存在を際立たせるというやり方は、映像より演劇の方が効果的に見せられるのではと思います。

File.2 現代も生きていた幸せを運ぶ妖怪!

『見えざるモノの生き残り』(2009年初演)
【作品内容】
夜半に突然「お茶をください」と訪れる人がいたら、それは住み着く家に幸運を招く妖怪・座敷童子かもしれない。彼らが密かに集う場所で、次々に語られていく“幸福”の事例。しかし話が進んでいくにつれて、彼らの正体は「死にきれなかった人間」だと判明する。

【前川解説】
座敷童子の存在自体は有名ですが、その存在理由はハッキリわかっていない。そんなよくわからないモノに存在理由を作って、詳細な設定を与えるのは、僕のスタイルの基本ですね。いろいろな妖怪でやってみたかったんですが、座敷童子は「幸福とは何か?」という現代的なテーマと結びつけやすかった。いつか「ぬりかべ」を扱った続編を書きたいです。

File.3 太陽に弱い新人類が支配する世界!

『太陽』(2011年初演)
【作品内容】
新種のウイルスの影響で、新人類「ノックス」が誕生。不老不死の上精神も強靭な彼らは、表面上は旧人類を支配しているが、日光に当たると死ぬという弱点もある。そんな微妙なパワーバランスの世界の中、一人の旧人類の少女がノックスにさせられようとしていた。

【前川解説】
吸血鬼は、昔から興味がある題材でした。ノックスは人類の欠点を全部克服し、僕らがまだ行き着いてない価値観を体現した、吸血鬼的存在。彼らの姿を通して「その欠点と付きあわねばならない自分」と、どう向き合って生きていくか? ということを考えました。これまでの日常的視点ではなく、もっと広い視点で世界を描くことができた芝居です。

File.4 神の声に従うことで世界を守る男!

『ミッション』(新作)
【作品内容】
世界からの「呼びかけ」を聞き、それに従うことで、世界を守っていると言い張る男。しかしその内容は、突然寝転がったり走り回ったりなどのバカバカしいことばかりだ。周りの人間は当然理解を示さないが、彼がその行動を止めた時、未曾有の天災が町を襲い始める。

【前川解説】
普通ヒーローは事件が起きてから行動するけど、事件が起こる芽を摘むために行動するヒーロー物がやりたいなと。小さな家族の話ですが、「自分が信じることをちゃんと行動に移せば、少しでも世界を動かせる」という、「過剰な責任感」がテーマになってます。観劇後は、道端でブラブラしている人すら「あの人も実は・・・」という目で見てしまうようになるかも。

 

劇団イキウメ
2003年に東京で結成。劇作家・演出家の前川知大を主宰とする。幽霊や妖怪など、日常に潜むセンス・オブ・ワンダーを通して、ユーモラスかつ普遍的な人間ドラマを描き出す作風。2007年の『散歩する侵略者』再演で大阪初進出。以後コンスタントに来阪し、公演ごとに評判を高めている。

イキウメ「ミッション」

作:前川知大
演出:小川絵梨子
出演:浜田信也、盛隆二、岩本幸子、伊勢佳世、森下創、大窪人衛、加茂杏子、安井順平、太田緑ロランス、井上裕朗、渡邊亮

  • LINE
  • お気に入り

関連記事関連記事

あなたにオススメあなたにオススメ

コラボPR

合わせて読みたい合わせて読みたい

関連記事関連記事

コラム

ピックアップ

エルマガジン社の本