尋常でない感性で作られた新作、アニメーション作家・細田守に訊く

2012.7.20 12:00
(写真8枚)

「盛り上げる手管はいろいろ持ってはいるけど・・・」(細田守)

細田作品はいつも清々しい印象を残してくれるが、常に意志的な花が主人公であることもあって今回はそれが顕著。先に角川文庫から上梓された原作には、クライマックスをより盛り上げるためにとうぜん挟まれても不思議ではないクリシェ的表現があるけれど、本編ではスパッと回避されている。

原作となっていますけれど、絵コンテができてから書き起こした小説なんですよね。読み物として別途に考えたということです。まあしかし…「職業演出家」とすれば、エンタテインメントとして盛り上げる手管もいろいろ持ってはいるんですけども(笑)、それがこの映画にはあまり似合わないんです。映画の全体のトーンとしては。おおかみおとこが花に真実の姿を見せるとシーンも、もっと盛り上げる方法はあるかも知れない。それをあえて静かなシーンにしたりとか、そういうことが全編通してありますね。

映画『おおかみこどもの雨と雪』絵コンテ
映画『おおかみこどもの雨と雪』絵コンテ

雨と雪、それぞれの人生の「分岐」があらわになるクライマックス。それが訪れるのは大嵐の夜だ。学校に残った雪は、気になる男の子・草平にある告白をする。強風で翻る教室のカーテンがジャン・コクトーの『美女と野獣』(1946年、あれもいわば狼男の話だ)を想起させること以上に、シチュエーションそのものが相米慎二の『台風クラブ』(1985年)を引用している。『時をかける少女』『サマーウォーズ』、そして本作と3本の長編で組んできた脚本家・奥寺佐渡子のデビュー作は、相米の『お引越し』(1993年)だ。

僕自身、80年代が青春期だったので、あの時代の日本映画を支えた監督たちにすごい憧れがあるんです。やっぱり奥寺佐渡子さんという脚本家と仕事をしていると、僕なんかは彼女の向こうに相米監督の姿を追ってしまうんですよ。

それを奥寺さんに言うと、冗談じゃねえよ、そんなの関係ないじゃないの、みたいなことを言われるんですけどね(笑)。まあ、でも意識してしまうものはしょうがないんです。『台風クラブ』は奥寺さんの書いた映画じゃないけれど、僕らのなかではものすごい重要な作品ですから。

©2012「おおかみこどもの雨と雪」製作委員会

その夜、雪と草平は「早く大人になりたい」と言い、同時刻、雨は山を背負って立つべく大自然の奥へと向かっていく。

例えば草平も雪も、「大人になりたい」って言った時点でもう大人じゃないかって気がするんです。雨も、自分がやるべきことを決めた顔というのは、もう大人の顔ですよね。要するに「自分がどうやって生きるか」を決めることが大人なんだっていう気がします。

社会的には幼くても、主体的に決める態度がもう大人なんです。一方では、それを永遠に回避していればずっと子供でいられるという視点もあるかも知れない。でも自分でこうだって決めた人は、やはり魅力的な顔になるという気がしますね。

『台風クラブ』でも嵐の夜、主人公・三上祐一は教師の三浦友和に電話して、「僕はあなたを認めない」と宣言する。あれも少年が大人になった瞬間だ。

あのときの三浦友和さんの恫喝っていうのも恐いものがありますね。「いいか若造、15年も経ちゃ今の俺になるんだよ。あと15年の命なんだよ。覚悟しとけよ」って。三上くんは「でも僕は絶対あなたにはならない」って言うけれど、でもそういうふうに世界に対して立ち向かうというか、一歩一歩自分の世界に進んでいく人っていうのはやっぱり自分は好きだし、清々しいなと思うんですよ。

『おおかみこどもの雨と雪』

2012年7月21日(土)公開
監督・脚本・原作:細田守
出演(声):宮﨑あおい、大沢たかお、染谷将太、菅原文太、ほか
配給:東宝
© 2012「おおかみこどもの雨と雪」製作委員会

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