戦地に赴く芸人を演じる木村祐一に訊く
──今回、出演が決まったときに、木村さんご自身の中でその100年を振り返ったりしましたか?
以前から吉本の歴史、本とか資料は見て知ってるつもりなんで、これをやらせてもらうにあたり、具体的なオファーの前は、やっぱり芸人役がええなっていうのはありましたね。それやったら、どんな人やろう?っていう興味もありましたし。
──芸人を演じることで、そのことが木村さん自身の芸に反映されたり、刺激を受けたりすることはあるんですか?
そうですね。吉本興業の最初の頃なので、やっぱり笑いに関する見本もなくて、自分たちの生活、生き様、そういう人間そのものが芸に繋がっていたと思うんですね。だから、いろいろ語り継がれるエピソードもそうですけど、今はなかなか難しいことでも・・・まぁ、勝手に難しくしているだけかもしれないですけど、日常にある想いの丈をぶつけられるのが舞台であり、また、舞台を降りてからでも芸人そのものが生活をしている、ただ単純にそういうことやったと思うんですね。僕自身はそうありたいなって思ってるんですけどねぇ。
──逆に、この時代の芸人がうらやましいとか。
それはね、やっぱりありますよ。物は確かに少ないし、娯楽もそんなに・・・そもそも、自分たちが娯楽の中心であって、楽しみといえばなんやろう、キレイな恰好して、お酒飲んで、女の人にモテたいという・・・真髄というか、シンプルですよね。だから余計なことを考えなくて良かったのは、良かったのかなぁと思いますけどね。
──こういう100年の積み重ね、いろんな変化を遂げながら現在に至るわけですが、木村さんの中でのデビューしてから今現在の笑いに対する変化とかありますか?
まぁ、ひとつの番組でもなんでもそうですけど、与えられた時間の中で、若いうちはただボケといたら良かったんですよ。でも最近は、ボケはいいので真面目な意見も・・・みたいなことになるんですよね。あれ?前はボケで終わっていたのに、そっちも言わなあかんのやって。なんのためにボケたんやろうなって(笑)。ボケで終われたはずやのに、成立していたはずやのにって。そういうことを求められる年齢になったんかなって。
──木村さんのスタンスとしては、ずっとボケてたい?
いや、そうなんですけど、そうもいかんのかなぁって。そっちの方が楽なときもありますけど、やっぱりボケる機会が減っていくのは淋しいなって気はしますよね。
──今それを聞いたのって、芸人というこの役どころを演じるにあたり、歴史を真面目に見せる方向なのか、いや、面白かったらええやんという演技なのか。
なるほど。それで言うとね、やっぱり脚本があって、稽古もきっちりするわけですから、最低限、それに忠実に、演出の注文通りにまず固めて、そっからですよね、芸人としてやれることがあればね。地になる物語があるからこそ笑えるわけで、新喜劇もそうですからね。1時間、ギャグばっかりやっても全然アカンし。今までの舞台を観てても、出演者のみなさん、抑えてらっしゃるなぁって思ったんですよ。自分のギャグもギリギリ最低限ぐらいにしてて、楽しみながら真剣にお芝居をやってはるなって気がしましたね。
──なるほど。
ましてや、今回の公演「戦地に笑いを届けた芸人たちの物語」ですから、笑いを生み出す側のね、舞台の裏側のことをやってますから。戦争中の弾が飛び交い、自分もいつ襲われるかわからんような所に出掛けていって、傷だらけの兵士とか、血で汚れた軍服を着ているような人たちが笑うのかっていう。お前らみたいなの観てるヒマないねん、帰れって言われるんじゃないか思いながらも戦地に向かうという。それまでとは違う、それからとも違う、ひとつ、笑いについて向き合った時代やと思うんですよ。本当に芸人は必要なのか、という。笑いが希望だったとありますけど、兵隊もそうですけど、自分らもそうなんですよね。再認識するんですよね、出掛けていって良かったって。喜んでくれはったと。そんな極限状態でも笑いって必要なんやと、思わせてくれたという。この8月の舞台に関しては。
──笑いと売る吉本興業の100年の歴史の中でも、大きな分岐点のひとつですよね。
そうですね。ここで終わって無くなってしまっても不思議じゃなかったし。戦争してるときに、笑いなんて要らんってなってたら、今はもう無いでしょうから。
──ただ、それを見せる舞台をなんばグランド花月でやるわけですけど、ホームなのにアウェイ感というのはないですか? 横を見たら芸人ではなく、俳優さんですから。
そういう意味でいうと・・・なるほど、そうかもしれませんね。いや、変に緊張してきましたね、それ聞いて。水野真紀さん、松尾貴史さん、山内圭哉さん・・・ホンマや、オレしかおれへんやん(笑)。なんか久々に古巣の球団に帰ってきた選手みたいにやわ(笑)。
──FAで飛び出したのに、みたいな。とはいえ、頼られる部分もすごく多いと思います。
ホンマやね。外様の感じで見られたりして。そやけど、そこはやっていく中で、やっぱり出身の、ずっといてはった人やなって思ってもらえるようにね。そこはホント、旦那役でもあり相方でもありますから、受け止めるというつもりでいますけどね。
──コミュニケーションはこれから稽古を通して、という感じですか。
そうですね。稽古を通して、毎日反省会という名の飲み会があったらいいなと思います。そのためにも頑張ろうかなと。そして、ゆくゆくは自民党から・・・無いか(笑)。
──最後にお聞きしたいんですが、木村さんって芸人としてだけでなくて、例えば、今回は役者として出演されるわけですけど、映画撮られたり、作家やられたり、いろんなポジションから物事を見てこられたと思うんですが、今回、笑いの舞台裏を演じるわけですが、これまでやってこられた経験が生かされる瞬間とかあるんでしょうか?
そうですね。でもまぁ、100%演出家にお任せして、どうしてもというところは相談して、という感じですね。まずそれがあるんですけど、今言われた、演じる部分の表と裏というのは、芸のオンとオフみたいなことでしょ? そこはね、この時代、無かったと思うんですよね。生き様そのものが、その人そのものが芸人やったという。だからそこはあんま心配してなくて。ただ、吉本の100年の様をね、わざわざうちの劇場に来てもらって観てもらうというのはね、ホンマやったら隠しとけよってわけで(笑)。そこを見せると決めたわけですから、今後、末永く笑っていただくためにも、ここらでちょっと知っといてくださいという。だから、とことん裏の裏を見せましょうと。そんな気持ちですね。
「吉本百年物語8月公演 わらわし隊、大陸を行く」
脚本:長川千佳子、演出:佐藤幹夫
出演:水野真紀、木村祐一、山内圭哉、里見まさと、河野智宏、藤原光博(リットン調査団)、水野透(リットン調査団)、佐藤正宏、逢坂じゅん、松尾貴史、ほか
2012年8月11日(土)~9月2日(日)
なんばグランド花月(大阪市中央区難波千日前11-6)
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