トクマルシューゴ、その濃密な音世界
100種類以上におよぶ多種多様な生楽器をほぼすべてひとりで演奏して重ね合わせ、マジカルなポップ・ミュージックで国内外の音楽ファンを魅了し続けてきたトクマルシューゴ。制作期間に約2年半を費やした新作『In Focus?』は、これまで以上に「ひとりの世界」を突き詰めることで完成させた濃密にして色彩感に溢れたポップ・シンフォニーに。渾身のひとり大作とともにツアーをスタートさせた彼に話を聞いてみました。
取材・文/吉本秀純 写真/バンリ
「寝る間も惜しんで、ヤバイ倒れそうって」(トクマルシューゴ)
──親しみやすい作風となった前作『PORT ENTROPY』と比べると、今回の『In Focus?』は好対照というか。初期作を思わせるような濃密な仕上がりですね。
そうですね。今回は、例えば外部のプロデューサーを入れてみたりとか、外部で録音してみようかといったアイデアもいろいろあったんですけど。もう1回ここでちょっと立ち返って、宅録感もバンド感も残しつつ、ひとりで作り上げてみたいと思ったんですよね。
──とはいえ、制作期間も約2年半ということで。アルバムを聞けば納得なのですが、ひたすらにひとりだけで楽器をとっかえひっかえ作っていた感じですか?
寝る間も惜しんでという感じで、ホントにひたすらひたすら作っていましたね。あまり食事とかも気にするタイプではないので、お腹が空いてもうヤバい倒れそうってなるギリギリまでやっちゃって、(制作中に)健康面がどんどん悪くなっていって衰弱して(笑)。一時期は外に顔を出せないくらいに目の下にクマが出来て、肌もボロボロという状態になっていましたね。
──これまで同様の多重録音によるポップなトクマル・ワールドなんですが、どこか鬼気迫る突き詰め度の高さが作品全体から感じられます。他のインタビューで「曲が出来過ぎた」と話してらしたのも納得でしたが、収まりきらなかった曲も多かったんですか?
最終的にまとめるのが大変でしたね。ホントは10曲くらいにまとめたかったんですけど、どうしても収まり切らなくて。ホントにファースト・アルバムを作った時と同じような感覚で、何も考えずにただただ曲を作っていって、マスタリングの直前までスタッフにも誰にも聞かせていなかったので反応もわからないまま、完成したものをそのまま出した感じですね。
──とことん、ひとりでやり切ったというか。
今回のはホントにずっとひとりで閉じこもって、光を見ない生活をしながら作っていましたから。だから、太陽をください、みたいな状況の曲も多いですね(笑)。
──サウンド面では、4曲目「Decorate」の後半のフラメンコや11曲目「Helictite(LeSeMoDe)」のサンバなど。世界中の音楽の要素がわかりやすく入っている楽曲が多いな、という点が少し意外だったのですが。
わりとベタなリズムなどをひとつひとつ入れるのを試してみたかったのもありましたね。昔から好きではいながらあえて外していた部分だったんですけど、今なら自分なりの何かが作れるんじゃないかなという気がして。始めはまず元になるフラメンコやサンバを完全にコピーしてみて、自分に出来ない部分を排除して自分に出来ることを足していくことで、無理矢理くっつけたり試しにやってみた感じではない、もうちょっと先に踏み込んだものが出来たなと思います。
──他にもアフリカっぽいミニマルなマリンバやアイリッシュ風の旋律など。確かに、アルバムの随所にそういった要素が取って付けたような感じではなく散りばめられている気がします。
わりと多国籍国家的なイメージがあるアルバムになりましたね。いろんな国の人種の人がいて、なんとか一緒にやっていっている国みたいな。
──そうですね。そんな多彩な要素がアルバム1枚全15曲にコレクティヴに凝縮されていて。全体的に速めのテンポで、一気に駆け抜けていくような焦燥的なまでの疾走感があるのも特徴的でしたが。
速いですね。やっぱり、ひとりで閉じこもって脳ミソをフル回転させながら延々とやっていると、どの曲もだんだんと遅く聴こえてくるんですよね(笑)。テンションとともに、ココもココもいらないと切り詰めていってしまって、普通ならもう4小節くらい付けそうなところも絶対にカットして、もっと早く自分が作っている次の曲展開に持っていきたいとなって。そこはカートゥーンの音楽が大好きという影響もあると思いますけど。いろんな人と一緒にやっていれば、ココはもっと伸ばそうよとか、ココはもっと聞かせようよといった感覚も出てきていたかもしれないですね。
トクマルシューゴ
東京都出身。ギターと玩具を主軸に無数の楽器を演奏する音楽家。楽曲の全てを作曲、演奏、録音までひとりで作り上げている。TONOFONを主宰。 2004年5月、アメリカのインディレーベル「Music Related」より、1stアルバム『Night Piece』をリリース。無名の日本人、日本語歌詞にも関わらず、絶賛を浴びる。以降、ワールドワイドな活動を行いながら、国内では無印良品のCMを手がけるなど、着々と活躍の場を広げている。
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