日本のポップ・マエストロ、高野寛に訊く新バンドと今の音楽環境

「CDはライブの追体験でいいんじゃないかと」(高野寛)
──そういえば、達郎さんのコンサートに行ったとき、これからは毎年ツアーをやるって宣言していました。それまでは5年、6年のスパンでアルバムを出して、それに伴ってツアーを廻っていたのが、コンサートだけは毎年やると。そのとき思ったのが、ライブとレコーディングという、一直線上にあったこれまでの音楽活動が、まったく別のモノになりつつあるのかなって。
うん。そういうことを言っている人はすごく多いと思いますね。僕はこの1、2年で、ライブ会場限定のCDをいくつか作っているんです。それがすごく喜んでもらえるし、心の片隅で、もうCDはライブの追体験でいいんじゃないかと、映画のパンフレットみたいなものでいいんじゃないかと思っているところが、心のどこかにあって。
──その音楽を聴くという環境だけ見ても、ミュージシャン側にもリスナー側にとっても、この20数年を見るだけでも、まったく変わっちゃいましたよね。CDが売れなくなって、音楽でメシを食っていくのが厳しいっていう雰囲気が世に蔓延りながらも、でも、逆に言うと、なんでもOKな、すごくやりやすい状況でもあるような気がするんですよ。
僕は正直なところ、すごくやりやすい。ホントに、今が一番いいくらい。僕ね、メジャーデビューしたばっかりの頃のインタビューで、「あんまりメジャーに向いてないから、ダメだったらインディーズに戻ります」って言っちゃうような、ひどい奴だったんですよ(笑)。
──華々しいデビューのときに後ろ向きな(笑)。
そうそう。後ろ向きっていうか、自分が思っているビジョンがそういう世界になかったんですね。チャートの上を目指すとか、ドームとか、ミリオンとか、なんにもなかったんで。いつも新しいお客さんを呼びたいとは思っているけど、理想はいつもインディペンデントなスタンス。
自分からいろんなことを発信していって、リリースの制約もあんまりない状態で、その場その場、時代に合わせて舵を切っていきたいので。契約して何カ月も動けないもどかしさを感じるよりは、性に合ってると。ただ、ネット経由の音楽はファストフードみたいなものだ、とリスナーのみなさんには知っておいて欲しいですね。

──というのは?
やっぱりネット発信の音源というのはデータが圧縮されているので、音楽のエッセンスが相当薄まってるんですよ。「聴く」というより「チェックする」感じ。食べ物で言ったら、レトルト食品みたいな。僕みたいに、音楽を養分にして生きてきた人間にとっては、ちょっと栄養素が薄いなって感じるときが正直あるんで。まぁ、でも、みんなも分かってるから、ライブに来るのかもしれない。体が反応してるんだろうね。
──だと思います。無意識かもしれませんが。そういう意味でも今回、ライブ盤としてリリースするのは正解でしたね。
やれることだけはやって、生々しく届けるというね。目的は達成できたかな。ロックの初期衝動みたいなものがひとつテーマだったから。たとえば奈良美智さんなんかでも、なにかの裏紙に殴り書きしたような作品を展覧会の中にテープで貼り付けたりして、すごくかっこいいじゃないですか。
精魂傾けて書いた油絵の横に、そういう作品をポンポンポンって並べてしまう。ラフでかっこいいものを見せる、そういうスタンスも意識はしてますね。きっちりやるんじゃなくて、サササって書いて、そのときにしか出てこないアイデアとか。だから自分にとっては実験的なんですよ、このバンド自体が。
──先ほどアルバム『Rainbow Magic』の話をしましたけど、そこをもっと突き詰めていく想像をしていたので、実は今回のプロジェクトは結構意外だったんです。
うんうん。まぁ、高野寛というソロ作品に、そういう期待されていることはあるし、それは僕が24年かけて作ってきたひとつの世界でもあるし、高野寛印というかブランドというか、暖簾を守るじゃないけど、続けていきたいですよね。

──その暖簾に対して、今回の実験的なプロジェクトというのは、ある種の狙いはあったんですか?
そうですね。以前はね、やりたいことを全部ソロアルバムに押し込んで、ちょっとオモチャ箱みたいにとっちらかった状態だったこともあったんだけど、だけど今は、いくつか掛け持ちでバンドをやっているおかげで、一個一個が整理されてきましたね。まぁソロはシンガーソングライターの世界で、たとえばpupaだったら、もうちょっとエレクトロニックな、静と動で言ったらどちらかと言えば静の世界で、大ちゃんとやっているのはダイナミックな動の世界、ロックの初期衝動で。いろいろな顔があっていいんじゃないかと。
──なるほど。来年25周年ということでいろんな試みで楽しませていただけると思うんですが、今回の「高野寛+伊藤大助」のライブが近々、大阪は「Music Club JANUS」で予定されています。
ホントにね、枠組みをゆるく、いつもその時々のハプニングを音楽に反映させて、予想以上の結果を期待して。だからツアータイトルも『Happening Again』で。きっとまたこのツアーでもいろんな出来事があって、曲が変わっていったり、もしくは新しく曲ができたりすると思うんで、今年2度目の大阪なんですけど、前回とだいぶ違うんじゃないかなと。前回大阪でやったときは、『太陽と月、ひとつになるとき』は無かったかも? ツアーの真ん中らへんで生まれた曲なので。ツアーを続けながら、もっとピークになるような曲があったらより良いステージになるなぁと思って作った曲なんですよ。
──コール&レスポンス的なものも含めて?
そうですね。それを初めから想定しながら作っていったし、ツアー中に金環日食の日がちょうどあったので、それをテーマにしたらどうだろうってところから始まって。ステージ上から客席に呼びかけたい言葉を歌詞にしたりとか。そういう作り方をしたのは初めてですね。ツアーも2度目なので、予定にないことをステージ上でやって大ちゃんを驚かせようかな、と。その場でどういうアドリブが返ってくるかによって、僕からも違ったものを返せると思うし。そういうシーンが生まれるかも知れないですね。
高野寛
高野寛(たかの・ひろし)
1964年生まれ、静岡県出身。大阪芸術大学卒業。1988年、シングル『See You Again』(高橋幸宏プロデュース)でデビュー。1990年リリースの『虹の都へ』『ベステンダンク』(共にトッド・ラングレンのプロデュース)が大ヒットを記録。また、Nathalie Wise、GANGA ZUMBA、pupaなど、バンドでの活動も精力的におこなっている。これまでにベスト、ライブ盤を含む16枚のアルバムをリリース。2012年1月にクラムボンのドラマー・伊藤大助との2人組バンド、高野寛+伊藤大助を結成した。
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