BASI×上田誠_関西クリエーター対談・後編

2012.11.20 00:00

質問4.関西で創作活動していて良かったこと、あるいは変えていきたいことは?
「会う機会が多くないと、役者間の空気の密度が減るんです」(上田)
「“この街でやっていける”と、いい影響を与えていけたら」(BASI)

上田 「一番の利点は、場所代が安いこと(笑)。演劇って作るのに場所がいると、僕はすごく思うんです。稽古場や倉庫だけでなく、メンバーが普段から集まれる場所の有無も重要ですね。特に僕が作ってる芝居は、役者間の空気の濃密さが大事なので、普段から会う機会が多くないと、その密度が減るんですよ。街の中心部でも家賃が安くて、空き物件も多い京都だと、それがやりやすい。多分東京にいたら、みんなが電車で行き来せねばならないぐらいにバラバラの場所に住んでいて、メンバー同士で会う頻度が、今よりも格段に減ってたんじゃないかと思います」

BASI 「単純に、すぐ家族に会えることかな。実家も近くて居心地がいいので、そこで休息して、気持ちをいったん整えるのが、すごく僕にとっては大事なことなんです。ライブで地方に行っても、4日もすると家にいたくてソワソワしますよ(笑)。山・海・川・家族ですね。それがあるのがいいです」

上田 「ただ長く活動を続けるには、関西でもある程度、商売が成り立つようにしなきゃなあ…とは思います。僕70歳ぐらいまで、物を作っていたいんで(笑)。音楽のレーベルってのも、そういう感じですよね?」

BASI 「そうですね。ただずっとコツコツやってると、だんだん商売の部分も取れていって・・・今や東京のこと考えんとその話もできないぐらい、もう自分の中では抜け落ちてますけどね」

上田 「つまりこっちで、独自のシステムがどんどん出来上がりつつあるってことですよね? それはいいですよね。たとえばさっきのTVドラマの話でいうと、関西で作るドラマだったら、僕が脚本だけでなく、現場で演出を付けたりということも可能なんですよ」

BASI 「“そこもちょっとやらせて”というのが、関西ならできると?」

上田 「そうです。東京だとセクションがきっぱり別れてるんですけど、地方のテレビ局だと、同じディレクターがバラエティもドラマも一緒に担当したりするから、意外と混ぜこぜの物が作れたりするんですよ。僕が本当にやりたいことって、東京式の方法論にこだわると、どうしてもギクシャクしちゃうんで、システムから開発しないと・・・っていう気持ちが、ちょっとあります。“何か関西から面白いことを発信したい”という方がいてくれたから、できたことですよね。だから今は、ちょっとずつルート作りを(笑)」

BASI 「ファームを作ってると(笑)」

上田 「そのシステムがうまく関西のメディア内で回れば、関西で表現活動をする若者たちの、いい受け皿になると思うんですよ。実際後輩の劇団の人たちには、つねづね“僕らはここにおるよ”と、すごく宣言してるんです。劇場も観客もちゃんと関西にはあるんだから、その気にさえなれば、東京に住まない選択肢もあるよ、って」

BASI 「そうですよね。下の世代が僕らの姿勢や行動、動きを見て“あ、それでこの街でやっていけるんや”と、いい影響を与えていけたらいいですよね。韻シストもなんやかんやで15年もやってることが、みんなに伝えられたらええんかなと思います。まあ今さら東京に行くことは、絶対ありませんからね(一同笑)」

profile
上田誠(うえだ・まこと)

京都を拠点にする活動する劇作家・演出家。1998年に劇団[ヨーロッパ企画]を結成。最近は「人間と地形の絡みを観察する、企画性の高いコメディ」という独特の芝居に取り組み、演劇以外のジャンルのクリエイターからも注目を集めている。今夏放映された『ドラゴン青年団』で、初めて全国ネットの連続ドラマの全話を担当した。ヨーロッパ企画の最新公演、第31回公演『月とスイートスポット 』は11月9日(金)からスタート。

BASI(ばし)
岸和田を拠点に活動するMC。1998年にヒップホップバンド・韻シストを結成し、03年にメジャーデビュー。日常感を大事にしたリリックと、ゆるやかなムードのサウンドで、全国的な人気を博す。11年にインディレーベル[BASIC MUSIC]を設立し、ソロデビューを果たす。同年10月に1stアルバム『RAP AMAZING』、12年4月には2ndアルバム『VOICERATION』をリリース。最新作は12インチアナログ「スタンダード」(9月発売)。

ヨーロッパ企画

BASI

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