劇作家・平田オリザのヒミツ
ある時はTVのコメンテーター、ある時は多くの有望な若手を発掘・育成する凄腕劇場オーナー、そしてある時は公立劇場向けの法律制定のために動くアドバイザー・・・と、演劇を足がかりに、様々な分野で超人的な活躍を見せている平田オリザ(ちなみに本名!)。でもこの人、名前は聞いたことあるけど、本当は何をやってる人? というかこの人何がすごいの? と疑問に思ってる方々のために、“劇作家・平田オリザ”のすごさにスポットを当てた、スペシャルロングインタビューです。
取材・文/吉永美和子 写真/バンリ
演劇をやっている人たちに「皆意味ないですよ」って
あの当時は、多分いろんな人を傷つけたと思う(笑)
──まず単刀直入に、演劇をやろうと思った理由は何だったのですか?
父親がシナリオライターで、5歳ぐらいの頃には、原稿用紙に文章を書くよう育てられました。欲しい物があると企画書を書かされるとか、まるで星飛雄馬ですよね(笑)。それで「将来は物書きになるだろうな」と思っていて、実際大学1年生の時点でノンフィクション本を2冊出版したんですが、自分にはこのジャンルは向いてないな、とも考え始めて。その頃に野田秀樹さんの芝居を観て、自分でもやりたいと思いました。
──でも役者ではなく、やはり作家としてスタートしたわけで。
はい。その年の秋に脚本を1本書いて、大学のラウンジに溜まってたヒマそうな人間を集めてできたのが、今の劇団です。その頃は野田さんの影響で、役者が飛んだり跳ねたりするような芝居を書いてましたが、当時から演劇の台詞の言葉に、すごく違和感を覚えていました。
──ではそこから「現代口語演劇」と言われる、今のスタイルに変化した経緯は?
日本の近代演劇では「その竿を立てろ」という時に「その“竿を”立てろ」と、強調したいことを強いアクセントで言うと教えられていたんです。いわゆる「芝居がかった口調」ですね。でも在学中に韓国に1年間留学した時に、日本語の構造を相対化して見る機会ができました。それで実際の日本語は、言葉の強弱ではなく、語順の入れ替えや繰り返し、あるいは助詞・助動詞で気持ちを伝えるものだとわかったんです。だから普通なら「竿、竿。その竿立ててよ」みたいな言い方になるはずだと。
──確かに後者のほうが、明らかに日本語として自然ですね。
そうなると日本語で芝居を作る時は、役者や演出家が戯曲を分析し、強調や抑制をする所を考える・・・という近代演劇の方法論ではなく、まず劇作家がその性質をちゃんと踏まえた上で、戯曲を書くことの方が重要になってくるんです。でもこれって要するに、演劇をやっている人たちに「皆さんが信じてやってきたこと、意味ないですよ」って言っちゃったようなもの。あの当時は、多分いろんな人を傷つけたと思う(笑)。
──観客の方も、最初は相当とまどっていたと聞きました。
一時は1,000人以上お客さんが入っていたのが、300人まで減りました(笑)。現場は「俺たち、すごいこと発見したんじゃない?」と、非常に活性化していたんですが、その新しい方法論を効果的に見せる芝居が、なかなかできなかったんです。89年に『ソウル市民』という作品を書いた時に、やっと「こういう風に使うんだ」というのが見えました。
──時間も空間も飛ばない、しかも普通の市民たちの淡々とした言動をただ覗き見したような、現代の青年団のスタイルですね。
青年団公演『ソウル市民』91年再演
しかも庶民が悪者で、彼らが全然断罪されずに終わるという物語も、当時にはなかったんです。だからほとんどの人が、方法的にも内容的にも、どう観ていいのかわからないという感じになってました。でも逆に「こんなに多くの人がわからないことなら、相当価値があるんだろう」と思いましたし、少なくともこれで日本の戯曲史には残ったな、と。
──そして今では、多くの若い演劇人が現代口語演劇に影響を受けた芝居を作っていますし、海外でも「現代日本を代表する作家」として作品が多数上演されるなど、その予想は見事に当たりました。
特にフランスでは「俳句のようだ」といって、大いに受け入れられました。たとえば「柿食えば鐘が鳴るなり法隆寺」って、柿と鐘と法隆寺という何の連環もない物をつなげて、1つの宇宙を表している。それと同じように、様々なトピックがバラバラにならずに、しかも時間を飛ばすことなく、1つの場所に収められていることが衝撃的だったようです。
ロボット演劇版「銀河鉄道の夜」
原作:宮沢賢治、作・演出:平田オリザ(大阪大学)
ロボット・アンドロイド開発者:石黒浩(大阪大学&ATR)
出演:ロボビー、愛純もえり(吉本興業)、紙本明子、桜 稲垣早希(吉本興業)、ほか
日時:5月2日(木)~12日(日)
会場:ナレッジシアター(大阪市北区大深町3-1 うめきた・グランフロント大阪 ナレッジキャピタル4F)
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