R18の異色作、三浦大輔&池松壮亮を直撃
池松壮亮「人間の社会性と本能のバランスって面白いなあと」
──最初に脚本を読まれた時は、さぞビックリされたのではないかと思いますが。
いや、見事に人間をあぶり出した本だなあと。よく「(出演して)大丈夫だったんですか?」とかって聞かれるけど、僕は全然抵抗はなかったです。
──ニートなのに親からの仕送りを使って、このパーティに参加する〈男1〉って、相当ダメな人間ですけど、どこから自分に近づけていこうと思いましたか?
いや、僕も普段はだらしない人間ですからね(笑)。映画のキャラクターって、どこかキラキラした部分を持ってきがちですけど、みんなあんなもんだと思うんです。僕だって、人に対して恐怖心を持ったり、何もかもどうでもいいと思ったら、彼のようになるかもしれない。だから、ダメな奴と思って演じてはいませんでした。
──三浦監督は、その場の空気に合わせて動いていく人たちの表情や感情を、ただ記録するように撮影したと言ってましたが、実際にそんな感じだったんですか?
本当に単純なことを言うと、初めて同士の人たちが、洋服などを全部奪われて、あの部屋に放り出されて「さあ、今からここでやってください」という、物語の始まりと一緒でしたよ。だから僕たちは演技をするというよりも、その世界を体感していくような(撮影期間の)2週間ではありました。
──注意されることがあったとしたら、どんなことが多かったですか?
人が座る位置や、それをどの角度から撮るのが一番いいかを探るために、撮影に時間がかかったというのはありました。あとは三浦さんが考える空気とか、リズムに関することが多かったですかね。たとえば僕が〈女1〉に初めて近づいていくところでは「スピードが遅すぎる」と言われたりしました。
──性欲と羞恥の葛藤を感じさせるスピード、みたいなのがあったんでしょうね。
そうですね。三浦さんが面白いのは、舞台でもそうですけど、音で観れちゃうんですよ。リズムの作り方がすごく上手いから、きっと目をつぶってても面白い(笑)。特に、誰も何もしない、静寂な時間の使い方が上手くて。普通の映画だと、あれだけ全員が何もせずに止まっている時間が多いと、結構アウトだと思うんですよ。でもそれを何か、巧い具合に操作しているんですよね。
──確かに映画の中で、一番しゃべらない2人に一番惹きつけられるというのが、よく考えたら不思議ですしね。
三浦さんって、観客を巻き込むということにすごく興味があるんだと思うんです。やっぱりあれだけ静寂の時間の中に置かれると、逆に「何だこれ?」って前のめりになっちゃうんですよね。映画でもやっぱり、「観客を巻き込む」ということがしたかったんだなあと思います。
──この作品は、人間はいきなり肉体関係から始めると、こうもすぐに距離が縮まるのかということが非常に印象に残ったんですが、演じてもそういうことは感じましたか?
ありましたよ。それこそ相手役の(門脇)麦ちゃんなんか「私、人見知りだったけど、脱いだら治っちゃった」って(笑)。やっぱりね、普段・・・いい悪いは別にして、人間ってどうしても職業などの格差があるし、フラットじゃないですよね? そんな人間たちから社会性や倫理性を奪って、小さな部屋に閉じ込めたらどうなるか、という。最初は遠慮がちだけど、それが次第に動物的な本能に向かっていって。でも最後に服を着ると、みんなスッと「社会」に戻るんですよね。自分たちを覆っている、服というモノによって。人間の社会性と本能のバランスって面白いなあと、それは演じた僕たち自身がすごく感じました。
──とはいえ、子役時代から池松さんを知る人たちにとっては、本当に「大人になった作品」と思えるでしょうね。
絶対言われるでしょうね。それはやる前からわかっていたし、この作品が良くても悪くても「『愛の渦』の池松さん」って感じで、ずっと背負っていかなきゃならなくなるんだろうな、という覚悟もありました。でも映画でもなんでも、やっぱりめぐり合いなんですよね。今この時期に三浦さんと出会って、この役者たちでこの作品が作れたというのは、大げさにいえば奇跡だったと思います。
──特に三浦さんとの出会いは大きかったのではないでしょうか?
最初は恐ろしい噂ばかり聞いてたんですよ。一緒にやって人格がおかしくなった人がいるとか(笑)。でも実際は全然そんなことなくて、むしろ誰よりも作品のことを、役者のことを考えてる。きっと自分が作るものに対して、ものすごく厳しい人だと思うし、それがそんな噂を生んでるんでしょうね。でも僕にとっては、逆にそういうのがすごく信じられるし、そこまで身を削ってやってくださったら、それこそ今回のように「わかりました、付いていきます」ってなりますよ。本当に、僕は大好きです(笑)。そんな想いで作った作品ですから、R18+とか気にせずに、いろんな人に観ていただきたいなと思います。
Profile 池松壮亮(いけまつ・そうすけ)
1990年生まれ、福岡県出身。2000年にミュージカル『ライオンキング』のヤングシンバ役で俳優デビュー。2003年に『ラスト・サムライ』で映画デビューし、第30回サターン・若手俳優賞にノミネートされる。主な出演映画作品に『鉄人28号』(2005年)、『半分の月がのぼる空』(2010年)、『横道世之介』(2012年)など。2014年7月には、三浦大輔作・演出の舞台に出演予定。
取材・文/吉永美和子 写真/バンリ
『愛の渦』
2014年3月8日(土)公開
監督:三浦大輔
出演:池松壮亮、門脇麦、滝藤賢一、中村映里子、新井浩文、三津谷葉子、駒木根隆介、赤澤セリ、柄本時生、窪塚洋介、田中哲司
配給:クロックワークス R18+
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