世界中を魅了した一夜、ジャズデイ大阪
「国際ジャズデイ」と定められた4月30日。大阪城西の丸庭園で行われたユネスコ主催の『グローバル・コンサート』のステージに立ったのは、親善大使も務めるハービー・ハンコックを筆頭に、マーカス・ミラー、秋吉敏子、ジョン・スコフィールド、そして、ケニー・ギャレット、エスペランサ・スポルディングというジャズ界屈指のプレイヤーばかり。いわば、ジャズの五輪の如し顔ぶれ。この全世界に中継された貴重すぎる一夜をレポートします!
世界に中継されたドリーム・セッション
2011年にユネスコの親善大使に任命されたハービー・ハンコックが4月30日を「インターナショナル・ジャズ・デイ」と定め、大阪が第3回のホスト・シティに選ばれたことから実現した『グローバル・コンサート』。大阪城西の丸庭園・野外特設ステージからCNN、BBC、インターネットなどを通して全世界に同時中継された2時間強に及んだステージは、30名以上に及ぶジャズ界を代表する新旧のスター・プレイヤーたちが1回限りのドリーム・セッションを次から次へと繰り広げる、通常のコンサートともフェスとも一味違う貴重な一夜となった。
ライトアップされた大阪城の天守閣をバックに、まずは今回の開催地が日本であることを世界に示すように和太鼓が打ち鳴らされると、トロンボーン奏者のスティーヴ・トゥーレが豪快なホラ貝の即興でそこに絡んだ。続いて登場したディー・ディー・ブリッジウォーターのバックを務めるのは、ドラムにT.S.モンク、ベースにエスペランサ・スポルディング、ピアノに小曽根真、ホーンにロイ・ハーグローヴ(tp)とトロイ・ロバーツ(sax)の2管という豪華さ。ここで内閣官房副長官による挨拶を挟み、颯爽と登場したグレゴリー・ポーターはハンド・クラッピンを誘う「Liquid Spirit」で先のグラミー賞も制した新世代エンターテイナーぶりを発揮。このセッションでも、ギターにジョン・スコフィールド、ドラムにテン・リン・キャリントン、ピアノには新鋭クリス・バワーズと、1曲だけで終わってしまうのがあまりにももったいない顔ぶれが一堂に会していた。そして、前半のクライマックスと呼べる熱演を展開したのが、秋吉敏子(p)がルー・タバキンをフルートに迎えてディープに聴かせた「Autumun Sea」。邦楽の「春の海」をモチーフとして日本的な音階や間合いをジャズに見事に融合させた大曲は、ロケーションも相まってそのオリジナリティの高さを改めて認識させる凄みすらあった。
宇宙にいる若田光一さんも中継で登場!
中盤は、ディー・ディー・ブリッジウォーターによるジャズとブルースの歴史解説からのトリプル・ギターがアーシーに炸裂するロバート・ジョンソン「Rambling On My Mind」のセッションを経て、キュレーターであるハービーがウェイン・ショーター(ss)とのデュオで登場。続くハービーのスピーチでは、国際宇宙ステーションの船長に就任した若田光一さんまでも中継で登場させて「国境を超えるジャズ」の意義をスケールの大きなユーモアも交えながら示すと、アール・クルーの心地よいギターに導かれてロバータ・ガンバリーニがムーディーに聴かせた「Round Midnight」、日野皓正(tp)がマイルスへの敬愛を熱いプレイで魅せた「Seven Steps To Heaven」、ディオンヌ・ワーウィックがジャジーな唱法で味のある歌を披露した「Bye Bye Blackbird」と、ジャズの基本であるスタンダードを多彩な組み合わせで連発。そして、サックス奏者のケニー・ギャレットが、日本語のみで先のニューオリンズのハリケーン被災と東日本大震災に触れたスピーチを行い、日野との2管でストレート・アヘッドなジャズの魅力に満ちた「2 down 1 cross」を熱演すると、プログラムはいよいよ佳境と向かっていった。
ラストは全員で「イマジン」を再演
終盤は、まずシーラ・Eとその実の父親であるピート・エスコヴェードの打楽器が乱れ飛ぶラテン・ジャズで祝祭感をアップさせると、マーカス・ミラーのファンキーなベースを軸に重厚なビッグ・バンド形式で奏でられたのは70年代初頭のハービーによるソウル・ジャズ・マナーな名曲「Hang Up Your Hang Ups」。続いてド派手な衣装に身を包んだマリ共和国を代表する女性シンガーであるウームー・サンガレが、圧巻の歌声とアフリカらしいグルーヴに満ちた代表曲「Yala」で鮮やかに盛り上げると、ラストは彼女を含むワールド・ワイドな面々が参加して話題となったハービーの2009年作『イマジン・プロジェクト』の冒頭を飾ったジョン・レノンの「イマジン」を、出演者全員で再演した。国境や人種、あるいはジャンルや世代の壁を超えて人々を繋いできたジャズ。その可能性と多彩さを理念高く示した「インターナショナル・ジャズ・デイ」が大阪で開催されたことを、誇らしく記憶しておきたい。
取材・文/吉本秀純
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