映画「るろうに剣心」に込めた野心、大友啓史監督&武井咲に訊く

2014.8.1 12:00

監督を務める大友啓史(右)とヒロイン・神谷薫を演じる武井咲

(写真6枚)

「谷垣さんは『本気で斬るから面白いんだ』って人」(武井)

──アクション好きとしては、それまではどうも隔靴掻痒(かっかそうよう=もどかしいこと)な感じがしていたんですよ、谷垣さんに。でも前作では「あ~、ここまでやっちゃえるんだ」みたいな感動があり、今回の作品ではさらにパワーアップしている。武井さん、今回はかなりアクション・シーンがありましたけれども、どうでしたか?

武井「『え? 本当に斬られるんですか?』って感じなんですよ。谷垣さんは、カメラ上で上手にアクションをするっていうのではなくて、『本気で斬るから面白いんだ』っていう人なんです。本当に斬りにこられたものを避けたり、それに対して自分が戦うっていう。動きもそうだし、気持ちの面でもそれを求められる。そんなところを中心に演出してくれるので、私も必死にならないとやれないですし、甘いこと言ってられないですし、でも、なんか面白いし(笑)。『アクションってとても面白いな』って思わせてくれた人でもあるんですよ。リアルだ、というのはとても怖い部分もありますし、危険なところも沢山ありますけど、そこに立ち向かう必死さって部分を谷垣さんはすごく喜んでくれていました。『待ってました!』みたいな」

左より、大友啓史監督、武井咲
左より、大友啓史監督、武井咲

──リアル・ファイトにならないと谷垣さんとしてはOKが出ないと?

武井「うん、全然ですね。『え? それ何してんの?』って感じ。踊ってるんじゃないんだからと。『こいつを殺すにはどこを斬るんだ?』って訊いてくるんですね。で、『こんなとこ斬っても一発で死なないんだよ、首なんだよ』とか。で、首を狙いに行けって言うんですよ。それは本気で戦おうとしてないと思いつかないですし。(演技だと)遠慮ってものが出てくるし、どこか巧くすり抜けられるところを探したりとかするけれど、『本来、人と人とが戦うんだからそんなの通用しない』と。それがとても面白いですね、本物の感じがして」

大友「本物を求めてきますね。それがたぶん僕と(谷垣さんと)の約束事です。アクションも芝居、つまり振付ではないんですよね。だから武井さんが言った『必死である』というのが出てこないとダメなんですよ。日本の伝統的な立ち回りだと、やっぱり見得を切る芝居があるんですね、斬られたら1回まわって『ぐわ~』っていうような。それは作り手側のルールなんですけど、それは要らないと。そうじゃなくて、お客さんが観たときのルールと生理にちゃんと沿ってやろうよ、っていう、『ここ斬られたら死ぬでしょ? 何で生きてんの?』っていうツッコミどころをなくすアクションを目指してるんですね。その約束事さえ判ってもらえば勝手にやってよ谷垣さん、って。あとはもうどんどんアクションのアイディアを膨らませてくれよって。そんなルールが前回で出来たんです。だから『本気になる』って発想にいっちゃう」

© 和月伸宏/集英社 © 2014「るろうに剣心 京都大火/伝説の最期」製作委員会
© 和月伸宏/集英社 © 2014「るろうに剣心 京都大火/伝説の最期」製作委員会

──でも、それって大変ですよね、演じるほうにすれば。主演格の俳優さんだけじゃなくって、昔ほどじゃないだろうけどアクション方面の俳優さんも慣れてないから。とりわけ日本のアクション土壌では。

大友「そうなんです。ときどき現場でも抜けてっちゃうんですよね。華麗な何かを見せるっていうのが先ではない、リザルトを見せるのが先ではない、まさに殺す気、倒す気、必死、っていうのを表現することが先なんですが。でも前回、谷垣さんとやって、やっぱり最初にあるべきは心情なんだっていうところを、たぶんアクションも気づいたと思うんですよ。心情がアクションの面白さを倍加するんだと。決してダンスではない、芝居になっていかないと絶対飽きちゃう。逆に言うと、芝居の感情が入ってくると(アクションが)上手い下手じゃなくて見れちゃう」

──このシリーズは、実際の俳優たちがあそこまでのアクションをやってのけてるということ自体が感動に繋がってますからね。

大友「たとえば、武井さん演じる神谷薫は初めての実戦なんですが、斎藤一は事前に言いますよね、『道場主ごときがこの生死を賭けたときに何ができる』って。で、薫ちゃんも(いざ戦うという直前に)花火がパーッと上がったとき、1人だけちょっとフフフって笑って油断するじゃないですか。そういうアプローチを今回、武井さんもちゃんとやってくれているので、アクションがアクションじゃなく芝居に繋がってくんですよ。アクションをアクションとして理解しちゃうと、やれる役者とやれない役者に分れていっちゃう。アクションも大きくいうと芝居の一環、現にハリウッドの役者はみんな労を厭わずに身体張ってやってますよね。僕と谷垣さんとの野心は、女性も含めて日本の超一流の役者たちが、アクションを芝居だと思って平然とやるようになったら面白いね、っていうこと。たしなみとしてアクションというものを普通に出来たほうが、静かな芝居も本当に上手くなると思います。身体で表現することと感情(を表現すること)は一緒だからね。日本舞踊の所作と同じように、アクションも当たり前の所作になっていくのが面白いって思うんです」

© 和月伸宏/集英社 © 2014「るろうに剣心 京都大火/伝説の最期」製作委員会

──良いアクション映画を観ることの楽しみってそういうことですよね。武井さん演じる今回の薫は、いま話に出た花火のシーン、それから前半の剣心との別れのシーン、それぞれ静から動へと切り替わる大きなきっかけとなるシーンを担われていますよね。

大友「その別れのシーンとかも、肉体と肉体が触れ合った感触が彼女にどう残っていくんだろう、っていう芝居ですかね。そのへんの肉体の名残りのようなものを求めて、たぶん薫ちゃんも京都へ行くわけだから、やっぱりどうしたってあの時代をちゃんと考えていくと、男と女の距離感を含めて、手を繋ぐっていうことが大きなロマンになる」

武井「私は現代に生きていて、友達とかに恋愛だったり好きな男の子の話だったり聞きますよね。メールだったりとか電話だったりとか、そんなことで喧嘩をしたりとか。でも私は、この時代(剣心の時代)を生きた身としては、何を言っているんだと(笑)。『そうじゃないでしょ、それが好きとか嫌いとか、相手を思うとか思わないとか、そういうことではないでしょ』って。良い意味でも悪い意味でもこの時代の男と女の距離感ってストレートですし、すごく分かり易いですし。今のほうがとてもヒネくれてると思いますね」

大友「ああいう行為ひとつもアクションだと僕は取ってるんですよ。逆に言うとアクションもドラマだと思って撮ってるっていうことですね。そのあたりを何とかして、ジャンル映画ではなくしていきたいんですよね、『剣心』を」

映画『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』

京都大火編=8月1日(金)公開
伝説の最期編=9月13日(土)公開
監督・脚本:大友啓史
出演:佐藤 健、武井 咲、伊勢谷友介、江口洋介・藤原竜也
配給:ワーナー・ブラザース映画

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