今もっともヤバい俳優・柳楽優弥「20代は完全勝利で攻めたい」
2014年、映画、ドラマ、舞台と大車輪の活躍を見せ、今もっとも注目される俳優となった柳楽優弥。史上最年少(もちろん日本人初)でカンヌ国際映画祭・最優秀男優賞を獲ってから10年、今再び俳優・柳楽優弥の快進撃が始まった!と断言できる躍進っぷり。いったい何が彼を変えたのか。その秘密と最新主演作『最後の命』について、映画評論家・ミルクマン斉藤が直撃インタビュー!
取材・文/ミルクマン斉藤 写真/バンリ
「完全にぶち壊れようと思いましたから」(柳楽優弥)
──柳楽さんは最近、癖のある監督と組んだ癖のある作品が相次いでいますよね。しかも、ほとんど普通じゃない人を演ってる(笑)。
でも、今回の『最後の命』は結構普通なんですよ。自分が俳優をはじめた最初の頃に演じそうな役でしたね。受身なキャラクターで。
──この映画は、少年期に遭遇してしまった事件のトラウマから、成人した後もどうやって抜け出せばいいのか判らないふたりの男性、桂人(柳楽)と冴木(矢野聖人)をめぐるドラマなわけですが、桂人というのは攻撃的な冴木に影響されて、内に秘めていたものが発現しそうになる自分に苦しむ、という内向的な青年ですね。まあ確かに最近、柳楽さんが演じてこられたキャラクターに比べるとずっと普通に近いかも知れないけど、柳楽優弥に限っていえば、相当ディープな役作りがやはりこのところの柳楽優弥らしいな、と。
『許されざる者』の現場で、図面にその人の生い立ちみたいなものを考えて書いてみな、と言われて、そのようなことを初めてやったんですね。それは今回もやりましたが、それだけのことでそんなにすごいプランを立てたわけではないです(笑)。特に今回の役は普通の青年じゃないですか。だから、現場に行く前からがちがちに固めていったら失敗するなと思って、現場で監督に言われたことプラス、自分でアイディアが浮かんだら提案していくって感じにしました。ただ、目のことは監督によく言われましたね。こういうキャラクターは、人と目をあまり合わせて話さないんじゃないかって。ちょっと目を泳がしてみようかなみたいな演出を受けました。特に冴木に対して、ですね。
──ある意味、冴木と桂人は表裏一体ともいえますが、そのあたり矢野聖人さんとのコンビネーションは考えました? かなり2人の演技スタイルの間に違いがあるな、とも感じたのですが。
それはキャスティングされた方に訊かないと、俺は判らないですね。初共演だったのですけど、矢野さんの役は結構振りまわす側じゃないですか。舞台出身というのもあるのかも知れないですけど、振り回す芝居はしっかり作ってこられてて、僕もすごく引っ張られたっていうか。僕はすごくラッキーでしたね。やりづらいとかはぜんぜんなかったです。矢野さんも『身毒丸』で蜷川(幸雄)さんの舞台に参加してましたし。
──柳楽さんは2年前の『海辺のカフカ』と、この春の舞台『金閣寺』ですね。
『金閣寺』はこの映画のあとでしたね。この上半期は凄いですよ(笑)。『金閣寺』のあとにテレビドラマ『アオイホノオ』ですからね。完全にぶち壊れようと思いましたからね。
──完全に壊れてますね、それはやってはいけないという役ばかりで(笑)。今回はかろうじて道は踏み外していないけれど、『闇金ウシジマくんPart2』の変態ストーカー役は鬼気迫るものがあった(笑)。
鬼気迫るって言うか、気持ち悪いですよね。門脇(麦)さんのお母様が(あれを観て)門脇さんに「ストーカーには気をつけろ!」って言ったらしいです(笑)。パンフレットのライターさんを通じで聞きました、「そう言われてましたよ」って。「言われてましたよ」と言われても、嬉しいですねぇとも(笑)。ああいう人が来たら絶対怖いですよね。家まで入ってきてますからね、ストーカーなのに「助けに来たぞ」みたいな感じで。
──でも、ああいう変な役が来るっていうのはうれしいんじゃないですか?
(俳優を始めたころは)普通って言われる青年の役が多かったので、素直にうれしいですね。メインではありませんよ、ああいう変わった役は。脇だからこそあそこまでブッ飛べる感覚ってあるじゃないですか。今回の映画がいちばん現代にいそうな、普通に駅にいたり町を歩いていそうな、良い意味でも悪い意味でも個性があまりない役ですね。
──個性を押し隠しているというか。過去に見てしまった事件のせいで自分がうまく表現できないという。
そうですね。その鬱屈ぶりが『金閣寺』の溝口とまた似てて。鬱屈役を続けて2回、上半期鬱屈だ~って(笑)。
──主人公とは真逆のようでありながら表裏一体じみたキャラクターがいるっていうのも似てますよね。『金閣寺』には鶴川や柏木がいますし。
俺、本当に三島由紀夫さんの『金閣寺』の、あの3人のバランスっていろんな作品に影響与えてると思うんですよ。(徒弟生活の同学で)わりと明るかった鶴川が意外なことに自殺しちゃって、溝口は「なんでだよ、なんでだよ」ってなって、それは金閣寺を燃やすっていう方向に向かうわけですよね。で、『最後の命』も物語の起承転結や配役のバランスがそれと似てるところがあるかも知れません。
──そうですね。柳楽さんが演られた桂人あるいは溝口という役も、そのトライアングルの同じ立場に当てはまりますし。
学生時代の関係と真逆な、予想外の人生を歩むというか。(ともに同じトラウマを抱えながらも)桂人のほうが客観的に自分を見れていたというか。逆に冴木は学生時代、憧れられるような存在だったのに背負うものが大きすぎたというか。より深い鬱屈を感じていたのは冴木なのか、みたいな。・・・そう考えると人間、複雑だなぁと思いますけど。この映画ってポップではないし、まあ暗い話ではあるのですけど、ダークな中にも小さな光がある。それは希望であるとか、出口であるとか、凄いポジティヴさが詰まった光で、その光をお客さんが感じてくれるとうれしいですね。感覚的なことだと思うんですけど、人のやさしさとかに鈍感になって欲しくない。
──そうですね。桂人というのは、他人に触れられたくないのにデリヘル嬢を呼んだり彼女を作ったりして、自分の中に潜むセックスのトラウマとのバランスをなんとか取ろうとしている。だんだん冴木がそれを狂わせていき、さらには彼女までもが冴木のネガティヴさによっておかしくなっていくわけだけど、なんとかこの3人の世界が保持されるのは桂人の客観性ゆえだと思います。
柳楽優弥(やぎら・ゆうや)
映画『最後の命』
2014年11月8日(土)公開
監督:松本准平
出演:柳楽優弥、矢野聖人、比留川游、ほか
配給:ティ・ジョイ R15+
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