渋谷すばる×歌×味園、山下敦弘監督が撮る「大阪の映画」
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味園ユニバース前で、山下敦弘監督
「渋谷くんが出してくるものが正解なんだと」(山下敦弘)
──だから、渋谷すばる演じる主人公が、赤犬の野外ライブに突然侵入して歌いだしても、ほかの街はともかく、大阪ではさほど違和感を感じない。
しかも記憶喪失の男ですからね。あれは「歌しかない男」という設定にしたかったのでそうしたのですが、これも今までやったことのない仕掛けだったので悩みました。やろうと思えばコメディにもなるわけだし。どう振ろうかなと。
──確かに、記憶喪失の男が主役の『味園ユニバース』と聞くと、コメディを連想する向きもありますね。
でも、そうならなかった。それは渋谷くんの存在の力ですね。彼の在り様を見ていたらコメディは考えられなかった。なんていうのかな、真面目な説得力があるんです。
──野外ライブで彼が突然歌いだすと、そこはもう彼を軸にした圧倒的な劇空間になっている。
そうなんです。あの歌だけでシナリオ5ページ分を物語るみたいな(笑)。実はこの映画、シナリオをだいぶ端折っているんです。説明的なところいらないやって。それはつまり、渋谷くんの歌と赤犬の音楽で押していけばいいと思ったからなんです。そのために脈絡がつかめないとか人間の関係性がわかりづらいとか言われてもいいと思って。歌と音楽の勢いで突っ切ってみようという考えでした。
──それで正解だったと思います。映画で大事なことは、整合性よりもワンシーンごとに観客に迫る面白さですから。俳優としての渋谷すばるはどうでしたか?
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根っこはミュージシャンなんですよ、彼は。だから、これまでに組んだことのないタイプの演技者で面白かった。俳優としては器用な方ではないけど、役を懸命に自分のものにしてきてくれて、撮影の途中からは、茂雄という主人公については彼が出してくるものの方が正解なんだろうなと思わせてくれました。
撮影中も無駄口をきくことがなくて、打ち上げで初めてちょっと親しくなれた気がします(笑)。音楽とか歌とか、なにかひとつ彼の中のスイッチを入れるものがある役柄に当たればすごい力を発揮する、そういう演技者だと思います。
──相手役のカスミを演じた二階堂ふみさんはどんな印象でしたか?
彼女はこれまで芯の強い、ものごとをはっきり掴んではっきり話す、そんなイメージの役が多かったように思うんですが、この映画も一見そうなんですが、実はちょっと揺れているような感じがあって、それが魅力的でした。今回の彼女には関西弁で話すというハードルがあったので、そこでちょっと隙が生まれたのかな。
彼女の周囲の出演者は全員関西人で固めましたし。でも、その揺れがすごくよかったんです。二階堂がカスミを演じることによって強すぎるカスミになっちゃうんじゃないかっていう心配もあったんですが、茂雄を見つめる時ふっと女の子の顔になっていて、ああいいぞって思いました。
──恋愛映画としての一面もちゃんと表現されていました。
二階堂の演技を見ていて、恋愛に寄り過ぎかなとも思ったのですが、完成した映画を観たら全然そんなことなくて、ちゃんと作品を転がす芝居になっていた。物語を引っ張るのは茂雄じゃなくてカスミですから。揺れを含め、偶然か計算かわからないのですが、やっぱりすごい女優ですね。
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──鈴木紗理奈、天竺鼠・川原克己と、山下映画ならではの面白いキャスティングも目を引きますが、カスミの祖父を演じている野口貴史がいいです。
東映のピラニア軍団の1人として活躍されてましたが、実は僕の大学の先輩である元木隆史さんの卒業制作にも出演されているんですよ。中島貞夫先生のつながりで。今回息子夫婦を事故で亡くした「おじい」を演じてもらったんですが、すごく良かったです。
──あっさりした芝居なのに味があって。味と言えばもう一人、山下映画に欠かせない康すおん、今回はなんと一人4役(笑)。でも、言われないとわからない見事な演じ分けです。
初めは、テープに声だけ残っている、茂雄の父親だけやってもらうはずだったんです。ほかの3役はオーディションで選ぶつもりだったんですがなかなか見つからなくて。康さんが3人いないかなあと思ったときに思いついたんです(笑)。康さんは僕の『どんてん生活』を観て連絡をくださって以来のつきあいなので、今回「赤犬」が出ている映画に出演できたことをすごく喜んでくれて、楽しんで4役やってくれました。
──果たしてどの役で出演されているかは観てのお楽しみにしておきましょう(笑)。撮影の高木風太は今回初めから考えていたのですか?
決めてました。風太は大学の後輩なんですが、僕にもズケズケものを言ってくるので信頼できるんです(笑)。西尾孔志監督の『ソウル・フラワー・トレイン』など大阪を舞台にした映画を撮っていて、今回は風太の撮る大阪でやりたいと初めから思っていました。
また、大阪在住だから風太ならいいロケーションを知っているだろうし、いいスタッフを知ってるだろうっていう目論見もありました。全部正解でした。ほんとに今回いいスタッフに恵まれたし、僕にとっては赤犬が出てくれたことが大きかったのですが、これまでの自分の知っている大阪は撮りきったように思います。
──いや、今はそう思われていても、また今度大阪で撮るとなったら、監督の中にまだある大阪が出てきそうな気がします。
そうかもしれませんね。さきほど言った、街の人たちの協力で撮るには撮ったけど、人の勢いにこちらが負けてしまった映画、いつかはあの経験の落とし前もつけなきゃいけませんしね。ともかく今回の映画で、大阪への思いのフィルターが一つ取れたので、機会があれば大阪でまたカメラを回したいですね。
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