演劇界の新世代 松永渚&福谷圭祐の挑戦
各所で話題となった、2014年末の関西演劇座談会企画(記事はこちら)。その中で「若い子に元気がない」と言われたことに呼応するかのように、映画『劇場版 神戸在住』などで注目される女優・松永渚が「私たちの世代からこの現状を壊したい」と、個人ユニットを結成した。作・演出も役者もあえて平均24歳の若手で固め、小さなカフェ空間から大きな波を起こしていくべく立ち上がった松永と、今回作・演出を務める「匿名劇壇」の福谷圭祐に話を聞いた。
取材・文/吉永美和子
「同年代の人とやりたかった」
──松永さんがfuturismoを立ち上げたいきさつは?
松永:昨年私は、ちょっと舞台から離れていたんですね。そうして離れてみたことで、私は本当に舞台が好きだということと、今まで舞台をする機会を周りから与えられていた、と感じたんです。それで純粋に「舞台がやりたい」というのと、次は自分が人に機会を与える立場になりたい、と思ったのがきっかけです。
──その初めての公演に、福谷さんをお呼びしたのは?
松永:まず福谷くんの舞台が、すごく面白いから。役者さんが不意に “自分”としてやっちゃったかな? という動きすら、全部計算しているという感じのコメディで、その世界で転がされてみたいと思いました。もう一つは、同年代の人とやりたかったということ。「元気がない」と言われている演劇の状況の中で、私たちの世代からそれを壊していけないかなあ・・・と考えた時に、福谷くんの作品ならそれができるんじゃないかと思いました。
──今回はカフェが会場であり、舞台でもありますね。
福谷:お話をいただいた時、候補の一つに「カフェでの公演」というのがあって、それを積極的に推しました。実は僕は、前から“カフェ性”を生かした公演をやりたいと思ってたんです。というのも、カフェ公演自体は珍しくはないんですけど、小さな空間で手軽にできるという理由だけで、やってるようなものが多いのが気になって。
──では今回は、どのようにカフェを使おうと思ってますか?
福谷:まず舞台と客席を特に分けずに、お客さんには普通にカフェのテーブルに座ってもらって、俳優も同じ所に座って芝居をします。その中で俳優は、お客さんがいないものとして芝居をするわけですけど、それが次第にひっくり返るような仕掛けを考えている所です。匿名劇壇の芝居は「あなたは今ここにいて、僕たちの芝居を観に来てるんですよ」ということを、お客さんに話しかける以外の方法で実感させたいと思ってやってるんですが、ここでもそれを意識したいです。
──松永さんの役どころは?
松永:カフェのお客さんの一人、ですね。
福谷:ちょっと口が悪い女の子。
松永:そうそう、なんで福谷くんは、私にこのセリフを書いたんだろう? って思った(笑)。
福谷:そんな所は見たことないんですけど・・・多分普段は口悪いんやろうな、って(一同笑)。
松永:そんなことないんですけどね(笑)。だからこそ新鮮だし、こういうセリフが言えるのが嬉しいなあと思います。
「世の中にはもっといろんな演劇があるよ! って」
──先ほど松永さんは「演劇に元気がない」と言われてましたが。
松永:私より(年齢が)下の子で、演劇に関わる子が少なくなってきたように思うんです。今回も「同年代」と限定したら、役者を探すのにちょっと苦労しましたし。でも私の観ていない所で、きっと元気な人はいると思うんですけど。
福谷:たとえば(出演者の)西分(綾香)さんのいる「劇団壱劇屋」は元気やなあ、と思いますよ。みんな身体が鍛えられてるし、お客さんの緊張感を笑いに逃がしてあげるというやり方がいい。僕は真面目なことを書こうとして、恥ずかしくなって笑いに逃げてしまうタイプなんで(笑)。でもそれは、僕の作品の特徴にしていきたいとも思っていますけど。
──ではこの公演で、「私たちの世代も元気だよ!」というのをアピールしたいですね。
松永:そうですね、ここから盛り上げられたらなあって。演劇って、学校の授業で観た舞台のイメージが強い人が多いと思うんですけど、世の中にはもっといろんな演劇があるよ! って、すっごく思うんです。まず今回の作品が、そういう演劇しか観たことなかった人に、衝撃を与えるものにできればと思います。と同時に私たちにとっても、今後につなげていける公演にしたいですね。
福谷:匿名劇壇は僕と同年代の人が集まって、同年代に向けて作っていて、割と「俺たち(の年代)だけで楽しもうぜ!」ってスタンスが強いんですよ。松永さんが僕に声をかけてくれたのは、そこにシンパシーを感じたのもあるかな? と思いました。その“同年代”ならではの芝居を見せられたらと思いますけど、内容はライトなコメディです。
──自分たちから演劇を盛り上げるために、今後どういう活動をしていきたいですか?
福谷:演劇というコンテンツが、テレビぐらいメジャーになってほしいので、僕はまずYouTubeで見られる演劇を作ろうと考えてます。YouTubeってテレビ番組や音楽とかがメインになってるけど、演劇もそれに加われないかと。そのために「フラッシュフィクション公演」という、超短編の芝居を並べた公演を劇団でやってます。それはまだ評判が良くないんですけど(笑)、将来的にはバンバン流したくなるような演劇をやるぜ! と思ってます。
松永:私は舞台も好きですけど、映像も好きなので、その架け橋になりたいですね。『劇場版 神戸在住』に出演したのも、監督さんが舞台での私の演技を見てオファーをくださったからだし、逆に舞台で私を観ている方たちも、この映画に足を運んでくださってるんですよ。そういう違うジャンルでの、出会いのきっかけを作っていける女優になれたらと思います。
Profile
松永渚(まつなが・なぎさ)
1991年三重県出身。2011年に映画『阪急電車-片道15分の奇跡-』で女優デビュー。同年にMONO特別企画『空と私のあいだ』で初舞台を踏み、以後関西小劇場の舞台を中心にキャリアを積む。主な出演作に、ABCホールプロデュース舞台『目頭を押さえた』(2012年)、映画『劇場版 神戸在住』(2015年)など。現在ドラマ『保育探偵25時~花咲慎一郎は眠れない!!~』(TVO)にレギュラーで出演中。
福谷圭祐(ふくたに・けいすけ)
1990年大阪府出身。お笑い芸人を目指すが「身を削る笑いよりもっとクリエイトなことがしたい」という思いから、次第に演劇の道へ。近畿大学在学中の2011年に「匿名劇壇」を結成。虚構と現実が入り混じるメタフィクショナルなコメディで、着実に注目を集めている。劇団以外にも脚本を書き下ろしている他、役者としても活躍中。5月には匿名劇壇の新作公演が控えている。
松永渚
匿名劇壇
futurismo「珈琲が冷めるまでの戦争」
日程:2015年3月26日(木)~31日(火)
会場:common cafe(大阪市北区中崎西1-1-6 吉村ビルB1)
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