キング・オブ・Jソウル、久保田利伸の自由なる境地とは?
「キング・オブ・Jソウル」・・・そう呼ばれて久しい、日本のR&B界のパイオニアこと久保田利伸。来年にはデビュー30周年(!)を控えている彼だが、3月18日にリリースされた最新オリジナルアルバム『L.O.K』の素晴らしさたるや、現役バリバリのファンキーっぷり! まさにキングの呼び名にふさわしい内容となったアルバムについて、大阪にやって来た久保田利伸をキャッチ。たっぷり訊いてきました。
写真/渡邉一生
「自由になった気がします、25周年を境に」(久保田利伸)
──3月18日にリリースされた『L.O.K』。オリジナルアルバムとして、実に3年半ぶりとなりますが、少し25周年(2011年)についてもおうかがいできればと。
はい、はい。
──怒濤のリリース&ツアーに明け暮れたアニバーサリーイヤーでしたが、25周年を迎えるにあたっての気持ちと、実際25周年を迎えてからでは、気持ちに変化はありましたか?
25周年を迎える前は、長くやってる気持ちはなかったですね。わりと飄々と、次の1枚に向けてやってました。でも、その区切りの数字を迎えてみると、結構長くやってるなって。そこで今回のアルバムにも繋がってるんですが、「ありがたいな」という感謝の気持ちがリアリティをもって自分の中に芽生えるんですね。その後はずっと、歌うごと/作るごと/コンサートをやるごとに、「ありがたい」という気持ちと共に活動してきた気がします。
──なるほど。今作のタイトル『L.O.K』は「Lots Of Kisses」の略、感謝がテーマになってますね。
そう。それと同時に、自由になった気がします。僕がなにをやっても、ソウルとかR&Bの匂いがするものになってしまうんですが、でも、もっと幅が広がって・・・R&Bと思わない曲もあるかもしれない。というか、そんなことすら気にしない。なにをやってもいいというか、自由になった気がします、この25年を境に。
──実はこのアルバムを聴いたとき、すごく自由度が増した印象だったんですよ。
あ、いい流れですね、このインタビュー(笑)。狙い通りの答えをしましたね。
──これはボサノヴァのスタンダードやセルフカバーを収録した企画盤『Parallel World Ⅱ KUBOSSA』(2013年)の影響かな、とか思ってたんですが。
『KUBOSSA』の影響だとすれば、歌い方の幅、声の出し方やトーンですかね。それよりも、なにをやっても誤解されないという気持ちが強くなったと思います。自由にやってると、遊び心もすごく出てくるんですよね。遠慮せずに、めちゃくちゃファンキーなビートをやったり、これはマーヴィン・ゲイかな、ファレルかな、というくらいファルセットで歌ってみたり。ちょっとしたアマチュアの遊び心までよみがえってる感じですかね。
──歌う気持ち良さ、という点ではどうですか?
すごく気持ちいいです。ただ、それで済まないのが、曲作りですよね。自由度が広がると、いろんなものが生まれてしまうんですよ。R&Bを聴き続けてきて30、40年。軽く20~30人分の黒人アーティストの幅が僕の中にあって、自由に作るとめいっぱい取り入れちゃう。アルバムとして、統一感がなくなるんですよ。でも自然に作っているものなので、それが自分のカラーかな、自分の音楽かな・・・という風には解釈してますけどね。正直、「いいのかな?」って一瞬思うことはあります、曲作りに関しては。
──なるほど。これはR&Bシーンに限らずですが、いろんなジャンルのマナー/フォーマットを、偉大な先人からの財産、遺産として、そこに敬意を表しながらどう自分に取り込むか。それを、どのミュージシャンもやってきたことだと思うんですね。
うんうん、そうですね。
──でも、今回のアルバムに関していうと、もはやマナー云々ではなくて、あらゆる音楽に影響を受けたグルーヴピーポー・久保田利伸が素直に鳴らした音楽、という印象が強烈に強くて。
あぁ、もう、その通りに書いてください。いろんなイメージを受けたグルーブピーポー・・・なんて言いましたっけ、一番いいこと言いましたんで。もう1回言ってください。覚えて次の取材で使うんで。もう1回!
──あらゆる音楽を享受したグルーヴピーポー・久保田利伸が鳴らした音楽の結晶が、このアルバムだと・・・。
ちょっと長いねぇ(笑)。
──み、短くしましょうか(苦笑)。
いやいや(笑)。でもね、音楽を作ったり、歌ったりすることは、僕の仕事であって、それはとても気持ちのいいことなんですよ。けど、それ以上に好きなのは、音楽を聴くことなんです。下手すると、歌う以上に好きかもってくらい(笑)。それはアマチュア時代はもちろん、ずっと子どもの頃から続いていることで。もう、強烈に影響を受けてますからね、聴いてきた音楽から。それをそのままダイレクトに出しちゃったのが、このアルバムではありますね。
──それがこのアルバムを聴いて感じた久保田さんの開放感、自由度につながるところなんですかね。
きっとそうでしょうね。ただ、アルバム制作が、実はギリギリのギリギリまでかかっちゃったので・・・。
──2月の頭くらいまでかかったとか。
かかってました。なので、まだ作って間もないんですよ(取材は3月上旬)。内容に関して客観的に聴けてないから、今お話ししながら「あ、そういう風に聴いてくれてるんだ」と消化しているところで。今思ってらっしゃることを、そのまま書いてください。
──ホントですか!?
うん、すごくいいことをおっしゃってくれてるんで。僕もすごく心当たりあるし。実際、アルバムを作りながら、こんなに広がっていいのかなぁ、ちょっと縮めた方が・・・と考えたときもあったんですよ。だけど、「この曲はちょっとマーヴィン・ゲイっぽいなぁ」って思っても、「いや、いいや! これは決して盗作じゃなくって、オマージュなんでイイ!」ってね。いろんな曲を聴いたときに、「これは、なにかの曲を聴いた久保田利伸が、それに強く影響されてやってるんだな」と思われることも楽しいかもって。
──バウンシーなパーティ・チューンもあれば、お得意のバラードまで全13曲。もちろん、これまでも久保田節と言いますか、そういう匂いはあったんですけど、今作はそれ以上に久保田利伸としか言いようがないんですね。それぐらい自由自在で、強さがあります。
そうですね。やっぱりR&Bの匂いはしてますけども、詰まるところ、自分ですよね。久保田利伸って奴のニューアルバム。明らかに僕ですね。うん。
──なるほど。それにしても25周年以降、来年には30周年を控えているにもかかわらず、この現役バリバリ感はなんなんでしょうか。
いろいろ精力的に活動できる環境になりましたから。たとえばCMからお声が掛かったりとか、レコード会社がもう1枚すぐに出しましょうよみたいな、そういうノリになったり・・・まぁ、今が頑張りどきですかね(笑)。
──でも、その環境というか、ワーゲンのCM(本人も出演の、フォルクスワーゲンup ! )を見て、あ、こういうファンキーな曲をCMでガンガン使うんだという、フォルクスワーゲン側の格好良さも感じたりして。
いいですよね。僕、お話をもらったとき、「どんな音楽がいいですか?」って尋ねたら、「ご自由にどうぞ。ただ、気分がアップするというテーマで映像を作りますので」って。たったそれだけ。普通、そういう場合、ポップスを大前提にして、エッジが効きすぎない方が好まれたりするので、(クライアントに)伺ったりするんですけども、「いや!」って。だから僕も2、3種類、サビだけのデモテープを作って、試しにその中で一番ファンキーな曲をお出ししたら、「こういうの待ってました!」みたいな。僕もそのノリがありがたかったですね。
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