初の群像劇に挑んだ、呉美保の最新作
「この映画には『言葉』がいっぱい入ってる」(呉美保)
──弘也役の子役さん、素晴らしいですよね。あとで調べたら『おおかみこどもの雨と雪』の弟、雨くん(幼少期)の声も演じてる。
加部亜門くんですね。今回、子ども役は一般応募のオーディションなんですが、流石にあの役はちょっと無理だな、っていうことで、キャリアのある加部くんにしたんです。
おばあちゃんもすごいキャスティングですね。喜多道枝さんって、あの『フランダースの犬』のネロの声優さんですよね!
あの役にハマりそうな名前の通った女優さんっているんですけど、でも、この物語に『重鎮感』は必要ないなぁと。本当に慎ましく生きてるおばあちゃんっていう感じがいいと。何としてもそう見せたいよね、って。で、本当にいろんな方にお会いしたんです。喜多さんはすごい演技力ですし、人間としての格もある。でも、(一般的には)誰か判らないっていう。何より笑顔と声が素晴らしくって。玄関に立つときの後ろ姿、あのころっとした、なんともいえない福々しさとか。あと、ご飯をずっと一人で作って、ラジオなんか流して一人で食べてるんですけども、そのときのちょっとした表現も喜多さんにやってもらうと、より一層ご飯がおいしそうに見えたり、幸せ感が増したり。喜多さんも本当に楽しんでやってくださいましたから、この役を。
──別のエピソードの登場人物である池脇千鶴さんが、昔、おばあさんから「べっぴんさん」とかばわれて救われたって話をしますよね。原作でははっきりと別人なんだけれども、あきこさんがそのおばあさんに思えるんですよ。
なるほど、そこに結びつきを感じますか。
──ひとつの街の話だから、そういう接触があっても不思議ではない、って。そんな意図は全くなかったですか?
う~ん・・・意図は特にないです。 (喜多と池脇が)一緒のシーンはないし、直接な表現はしてないんだけれども、そういう発見をしてもらえるとありがたいですね。
──池脇さんと、先生役の高橋和也さんは『そこのみにて光輝く』に続いての出演ですが、これがまた全然違う役で(笑)。池脇さんのシルエットもお母さん然としていて、なかなか素敵ですよね。尾野さんも今まであんな役はなかったんじゃないかと思うぐらいに。
(虐待親役としては)尾野さんにはドラマの『マザー』(2010年)があったんですけれども、今回、またちょっと違うっていうか。そもそも群像劇だから、それぞれに与えられた尺はそんなに長くはないんだけれども、それ故にワンシーンごとにどういう生い立ちをしてきたのかを表現して欲しいと思っていて。台本には書いてないんだけれども、その人たちの生い立ちというか、過去にどんな生活をしてきたのかとかをキャスト全員に話をさせていただいたんです。
──尾野さんは、3歳の娘を虐待する母親・雅美役ですね。
普通にみると「何、この母親?」となるわけです。だけど、順を追っていけば彼女は彼女で苦しんでいる。それを肯定するわけではないんだけど、子どもに手を上げたくて上げてる人なんて一人もいないし。彼女が子どもに対して愛を注ぐ、その表現の術を持ってないというか。そういうのを表現するのは難しかっただろうとは思いますね。
──かつて親からの虐待を受けていた子どもにも2つのあらわれがあって、それがまさに尾野さんと池脇さんなんですが、とりわけ池脇さんが尾野さんに後ろから抱きつくときの完璧なタイミングには驚きました。
あのシーンも、やり過ぎると『狙い』になっちゃうじゃないですか。いかにもなクサいお涙頂戴シーンにしたくない。とはいえ、やっぱりキチッと抱きしめて欲しいし、ちゃんと気持ちを伝えて欲しい。それを池脇さんはやってくれる、絶妙なタイミングで。だから、この役を池脇さんに演ってもらうことの意味はすごくありましたね。
映画『きみはいい子』
第28回坪田譲治文学賞を受賞した、中脇初枝の同名短編小説集を映画化。真面目だがクラスの問題に正面から向き合えない新米教師・岡野は、児童たちが言うことも聞いてくれず、恋人との仲もあいまい。また、自分の子どもを傷つけてしまう母親・雅美は、我に返った瞬間、トイレに閉じこもって左手首を握りしめて泣いている。それぞれが抱える現代社会の問題を通して、人と人との繋がりから生まれるささやかな「しあわせ」を描いた、再生と希望の物語。
2015年6月27日(土)公開
監督:呉美保
出演:高良健吾、尾野真千子、池脇千鶴、ほか
配給:アークエンタテインメント
2時間01分
テアトル梅田ほかで上映
© 2015「きみはいい子」製作委員会
映画『きみはいい子』
呉美保(お・みぽ)
1977年生まれ、三重県伊賀市出身。大阪芸術大学映像学科卒業後、大林宣彦事務所[PSC]に入社。スクリプターとして映画制作に参加しながら短編を手掛け、数々の賞を受賞。2003年にフリーランスのスクリプターとなる。2005年には、初の長編脚本『酒井家のしあわせ』が『サンダンス・NHK国際映像作家賞/日本部門』を受賞。翌2006年に長編映画監督デビューを飾る。その後、脚本と監督を務めた『オカンの嫁入り』(2010年)では、プロデューサーが選出する新人監督賞・新藤兼人賞の金賞を受賞。2014年の『そこのみにて光輝く』では、国内外の映画祭で各賞を受賞。さらにはアカデミー賞・外国語映画賞部門への出品作品にも選ばれるなど、一躍脚光を集める。
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