桐谷健太「役者でいることに感謝」
鬼才・石井隆監督による映画『GONIN』の続編となる、『GONIN サーガ』が公開された。前作は1995年に製作され今でも『バイオレンス・アクションの金字塔』として多くのファンを持つ名作。借金まみれの5人組による暴力団襲撃事件。血を血で洗う死闘の果てに命を落とした男たちにも家族があった・・・というのが、今回の続編だ。あの惨劇から19年。自身も『GONIN』の大ファンだという桐谷健太さんに、作品に掛ける思いを聞いた。
取材・文/hime 写真/上地智
「芝居が現実を超えた瞬間を目の当たりにした」(桐谷健太)
──元々、石井監督の『GONIN』のファンだとお聞きしました。撮影にあたって特別な思いなどありましたか?
『GONIN』は、心の底にグッと来る怖さに惹かれて「こんな映画に出たい!」って思って繰り返し観た作品なんです。だから、オファーをもらったときは「あの世界に溶け込めるんや」って、すごくうれしかったし、「どう血を通わすか?」をトコトン考えました。集中して撮影に挑めましたね。
──「バイオレンス・アクションの金字塔」と言われるだけに、殺気と狂気に満ちた現場だったと思うのですが、石井隆監督はどんな方でしたか?
石井監督は、すごく物腰が柔らかな人で『飄々とした』紳士ですよ。決して大声出すような人ではないんですが、時に大胆で奇抜。現場は、もちろん緊張感はありましたし、撮影期間も1カ月もなかったので、もうバンバン撮ってました。だから、監督の内には、狂気が渦巻いてたのかもしれませんね(笑)。
──演出面ではどうでしたか? たとえば、五誠会三代目・誠司演じる安藤政信さんに桐谷さんが雨のなか、ボロ雑巾みたいに蹴られるシーン。相当狂気的な演出でしたが。
あのシーンの安藤くんの蹴りは、マジで当たってましたからね(笑)。スイッチが入るともう止まらないタイプの役者だから、現場の緊迫感も相当で。でも、それこそ(桐谷演じる)大輔にとっては『誰よりも怖い』相手なんだから、「思い切りやられよう」と思って、腹くくりましたね。まあ、アドレナリンが出てるから痛いとは感じないんですけど、怪我させたり、アザになるようなことはしないのは、さすがやなーと。
──石井監督より、安藤さんという(笑)。
そうそう。安藤くんがすごかった。ただ、土屋アンナちゃんを殴るシーンのときは、さすがに石井監督が「安藤くん、パーでね! パーでね!」って念押ししてましたね(笑)。「このままだとグーでやりそうだ」って言いながら、監督は「そういう役者が好き」ともおっしゃってましたけど(笑)。
──桐谷さん演じたのは、前作で命を落とした大越組組長の息子・大輔役です。いちばん人間らしさの滲むキャラクターでしたね。19年前に解散させられた大越組の再興を胸に秘め、五誠会の構成員となり従っている。
あの事件が起きてなかったら、ヤクザになんてなってなかったと思うんですよ、大輔は。親父の銃殺死体を目撃してしまった幼少時代のあの日から、おふくろもおかしくなってしまって、自分を取り巻く世界が一変した。「いつか親父の組を再興する!」っていう夢は、自分のためじゃなくて、『親孝行』したいというやさしさなんですよね。
──当然、前作の流れを受けての役作りとなったと思うんですが。
大輔の感情の流れをノートに書いて、自分なりにイメージを固めて現場に出向いたんですけど、いざ撮影が始まると、アタマで考えてたことはすべて飛んでましたね(笑)。実際、こんな事件を起こすときなんて、アタマのなかは真っ白なはずだし、銃を握った瞬間に「親父のため」とか「お袋のため」とか、考える余裕ないし、その場その場を懸命に切り抜けるしかない。実際、現実の世界もそうだと思うんですよ。
──現場の雰囲気はどうでしたか?
撮影期間は3週間程度でしたが、作品の規模に対してかなり短かかったので、1日にこなすシーン数はもう膨大で。常に2台のカメラが転がるような勢いで撮っていって、「激流に放り込まれた」って感じでした(笑)。前後がどうなっているのか、時系列を見失うほどバラバラに撮るので、「これ、ちゃんと繋がるの?」って面食らいましたし、とにかく、何とか生き延びようともがいた日々でした。
──撮影順がバラバラなのはよくある話ですが、そんな桐谷さんでも面食らうほどのスピード感だったんですか?
ホントに自分がどこにいるのか、上も下も分からなくなるような状況だったんですけど、改めて考えてみると、それこそ大輔の人生の縮図なんですよね。大輔は、「今は我慢のときだ!」って自分に言い聞かせてこれまで生きてきたのに、気付いたら強盗をしてて、いつのまにか人生の墓場まで押し流されてしまう。現場の僕も、アタマで考えたことじゃなくて、激流の一瞬一瞬にしがみついて、血を通わせて生き抜いた結果がこの映画になった。良くも悪くも計算できない現場だったけど、この映画に関してはそれがきっと正解だったんだと思います。
──あと、前作『GONIN』の生き残り、元刑事・氷頭役の根津甚八さんが11年ぶり、しかも、今作限りの復活を果たしたことも話題ですが、桐谷さんは共演シーンが多かったですよね。日本映画界で語りぐさになりそうな撮影において、何か感じるものはありましたか?
たとえば、太ったりとか痩せたりとか、あと、歯を抜いたりする役者もすごいと思うんですけど、根津さんのように動くことや普段喋ることもままならないのに、映画という世界の中で爆発する。しかも、カメラが回ってる間だけ、いつも以上に話せる。相当身体の方は大変だったと思うんですけど、芝居が現実を超えた瞬間を目の当たりにして、とにかく「スゲェェ!」って、雷に打たれたみたいでした。
──1度しかない共演のなかでも、得たものは大きかったと。
根津さんは、きっと体を悪くされてからも「映画に出たい」「芝居がしたい」っていう思いはあったと思うんですよ。でも、できる状態ではなかった。この映画に関しては、石井監督の『GONIN』の現場だから・・・というのはあっただろうし、その姿で画面に出るのは相当な勇気が必要だったと思うんですね。でも、そういった状況のなかで、芝居が現実を超えてくるんですから。「こんなことってあるんや」って思いましたね。
──貴重な、貴重な体験でしたね。
そう。まだまだ役者魂を失っていない根津さんと、芝居を通じて感じ合えたことがたくさんあって、うれしかったし、血が燃えましたね。役者としての生き方を教わりました。なにより、僕が今、好きなことをやらせてもらえてることが、どれだけありがたくて、どれだけ難しいことなのか。「自分は幸せな世界に身を置いてるんやなぁ」と、心底実感させてくれましたね。
──なるほど。ちなみに、桐谷健太にとって『役者でいること』とは、どういうことですか?
役者になりたいって思ったのは、保育園くらいだったかなぁ? あんまり覚えてないんだけど、とにかくずっとなりたいと思ってたんですね。だから、演じられる今は本当に幸せ。最近は、ずいぶん余裕も出て来て、より遊びゴコロを持って、自由に楽しんでいる自分も実感できている。僕にとっては、18~22歳の5年間くらいが長い「暗黒時代」で、やりたくても出来ないジレンマと、挫折感でいっぱいだった。もう苦しくて苦しくて仕方がなかったけど、役者という職業は苦しさを経験しながらも、どこかで楽しさや幸せが勝ってないとダメだと思うんです。曲がりなりにも「人に夢を与える」と言われる仕事。自分自身が楽しめてない状況じゃ、ウソですよね。今は、これまでの役者人生で一番、『役者でいること』を楽しめてるし、これからもその感覚を忘れずにいたいですね。
『GONIN サーガ』
2015年9月26日(土)公開
監督:石井隆
出演:東出昌大、桐谷健太、土屋アンナ、柄本佑、安藤政信
配給:KADOKAWA、ポニーキャニオン
2時間09分 PG12
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