「今に沿った青春映画」大根仁監督が撮る文化系バディムービー
将来に何の目的もない高校生・真城最高(サイコー)に、「俺と組んで漫画家にならないか?」と持ちかけるクラスメイト・高木秋人(シュージン)。サイコーが密かに想いを寄せる、声優志望の亜豆美保と「お互いの夢が実現したら結婚する」と約束したことをきっかけに、高校生の2人がプロ漫画家を目指して突っ走る映画『バクマン。』。
メガホンをとったのは、『モテキ』『恋の渦』の大根仁監督。高校生漫画家のサイコーとシュージンが、『週刊少年ジャンプ』での連載を目指し、やがてプロとして奮闘するその姿。2人のその純情と情熱にパワーをもらったというライター・田辺が、大根監督を直撃しました。
取材・文/田辺ユウキ 写真/成田直茂
「淡い恋心から始まるのは、少年漫画の王道」(大根仁)
──『バクマン。』を観て本当に感動しました! 特に、佐藤健さん演じるサイコーと、神木隆之介さんによるシュージンという10代の若者が、夢を持って熱く生きているところ。自分にもそういう時代があったな、と思わずノスタルジックな気分になりました。
サイコー、シュージンが連載を目指す『週刊少年ジャンプ』は、あらゆる世代が通過してきた漫画雑誌。この映画にもジャンプのオマージュがたくさんあります。だからこそ、男の子は特に自分の少年時代を思い出すのではないでしょうか。でも、決して女性を切り離しているわけでもない。むしろこれは、女性が観たい男子の「部室感」が漂っていると思います。
──個人的には鑑賞後、北野武監督の『キッズ・リターン』を思い出しました。サイコー、シュージンが苦闘しながら漫画を描いて、ひとつの結末に着地する。安藤政信と金子賢が、「俺たち終わっちゃったのかな」「まだ始まってもいねえよ」と話しながら自転車を2人乗りしている場面が浮かびました。
北野武さんはもっとシニカルでクールだし、あの「まだ始まってもいねえよ」というセリフも、よく観ればどれだけ残酷なものなのか分かる。実際にあの2人は、間違いなく終わっている。ただ本作は、確かにモチーフにしているところはあります。その上で、『キッズ・リターン』とはまた違う、今の時代に沿ったストレートな青春映画を意識しました。
──『モテキ』『恋の渦』を撮ってきた大根監督から、「ストレートな青春映画」という言葉が出るのが、ちょっと意外に聞こえました。
まあ、これまで変化球しか投げてこなかったから。自然に投げても曲がっちゃうので(笑)。
──確かに、サイコーが亜豆美保との恋愛をきっかけに、背中を押されてプロ漫画家を目指すところは直球勝負ですよね。
女の子への淡い恋心から何かが始まるのは、少年漫画の「王道」。本作では、特にアタマ20分くらいは、ザ・少年漫画的な構成をしてみました。ヒロインと唐突に出会い、夢に向かって走り始める。漫画『SLUM DUNK』に例えると、主人公の桜木花道がヒロイン・赤木晴子を目当てにバスケをやりはじめて、そのうちバスケの方にハマっていく。それが男の子というもの。でも、きっかけは不純である方がおもしろい。
──バンドをはじめるきっかけとかも、最初は「女の子にモテたい」とかですもんね。
世界中のおバカな男の子はみんなそうですよね。僕は女の子が大好きだけど、でも10代の頃とか、男としてあまり相手にされてこなかったから、いまだに恨みつらみで(映画やドラマを)作っているところはあります(笑)。だから、女の子を振り向かせるためとか、女の子にあんなことを言われたからとか、そういった恋愛体験でモノを作ることは一切ないです。というか、40歳を過ぎてそれがモチベーションになっていたりするのは、さすがにヤバいから。
──あ・・・、でも僕はまだそういうところがあります・・・。
今、いくつですか?
──36歳です。
じゃあ、ギリギリあるかもしれないですね。でもさ、「あの女、絶対に振り向かしてやる」とかでモノを作るよりさ、もうちょっと仕事とちゃんと向き合うべきだと思うけど・・・。
──で、ですよね(汗)。あと、やはり注目はサイコー、シュージンたちが漫画を描くシーン。机に向かって漫画を「描く」という作業は、地味になりすぎて画が動かない。それをどう見せるか、という部分でアイデア(CGを使ったバトルやプロジェクションマッピングの利用など)がたくさん盛り込まれています。
そうですね。「漫画を描く」という、画として地味になりがちな部分を、いかにフィジカル(肉体的)に見せるか考えました。最終的には“地味な肉弾戦”として、カリカリとひたすら漫画を描く描写に着地しようと決めていた。ただ、そこに行き着くまでの見せ方に、違いを出していきました。
──まさにフィジカルですよね。それが、漫画家同士のバトルになっている。でも漫画家さんって、気持ちを表に出してぶつかり合うというイメージは、あまりない気がします。
僕もそう思っていました。でも話を聞くと、全員ではないけど、それくらいの気持ちでやっている人は多いそうです。先日、漫画家の江口寿史さんと対談をしましたが、江口さんはそういうことをまったく気にしていなかったけど、同時期に連載していた車田正美さんは「毎週勝負だ」「絶対にぶっつぶしてやる」という気持ちでやっていたと聞きました。
サイコー、シュージンのようなタイプは、車田さんのように、ライバルたちに対抗心を燃やすはず。逆に、彼らの宿敵となる同世代の天才漫画家・新妻エイジは非常に渇いている。「相手にしていない」という雰囲気で漫画を描いていますね。
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