春岡勇二が選ぶ、今年のベスト邦画

2015.12.23 20:30

映画『恋人たち』© 松竹ブロードキャスティング/アーク・フィルムズ

(写真1枚)

師走に突入し、賞レースやベスト企画が各業界を賑わしていますが、Lmaga.jp・映画チームも、独断と偏見で選ぶ「2015年のベスト映画」を実施! 第二弾の選者は、大阪芸大卒業後、情報誌「プレイガイド・ジャーナル」に参加。1987年からフリーの編集者、映画評論家として活躍する春岡勇二さんがセレクト。

【春岡勇二・2015年邦画総評】
上位3本は、今年を代表する作品としてどこで訊かれても変わらない。『さよなら歌舞伎町』と『この国の空』は荒井晴彦ファンとしてここで選ばせてもらった。黒沢清監督の『岸辺の旅』や原恵一監督のアニメ『百日紅』、それに三池崇史監督の『極道大戦争』も好きだったし、松永大司監督『トイレのピエタ』での野田洋次郎と杉咲花の顔合わせも良かった。だが、観てゲンナリする作品も少なくはなく、邦画全体としてはやや低調だったように思う。

ベスト5 『この国の空』

『さよなら歌舞伎町』の脚本家、荒井晴彦の2本目の監督作品。昭和20年夏、恋も知らずに死んでしまうのかと悶々とする少女。夜の縁側に寝そべっても身体の火照りがとれず、もはやこれまでと真っ赤に熟したトマトを持って、妻子が疎開中の隣家の中年男、長谷川博己を訪ねる二階堂ふみ、好きです。(8月公開)
【関連記事】荒井晴彦インタビュー
監督:荒井晴彦 出演:二階堂ふみ、長谷川博己、ほか
配給:ファントム・フィルム+KATSU-do
http://kuni-sora.com

ベスト4 『さよなら歌舞伎町』

つじあやののウクレレ伴奏がフィットする、新宿のラブホテルを舞台にした軽やかな青春映画であり群像劇。デビューするためにプロデューサーと寝て、恨めしそうな眼をする恋人に「小っちゃい男だな。枕(営業)なんだから(気持ち入ってないから)いいじゃん」と言う、脚本の荒井晴彦的女の子。好きです。(1月公開/R15+)
監督:廣木隆一
出演:染谷将太、前田敦子、ほか
配給:東京テアトル
http://www.sayonara-kabukicho.com

ベスト3『FOUJITA』

前半と後半で映画がまっ二つ。エコール・ド・パリの頃のパリと、太平洋戦争中の日本。ふたつの時代を生きた画家を描く、あまりにあからさまな手法。伝記でもなく、画家の芸術へのオマージュでもなく、ただ、一人の画家を通して「日本」と「近代」の関係を探ろうとする試み。小栗康平監督の一点突破的な作家性に惹かれる。(11月公開/PG12)
監督:小栗康平
出演:オダギリジョー、中谷美紀、ほか
配給:KADOKAWA
http://foujita.info

ベスト2 『きみはいい子』

昨年『そこのみにて光輝く』を観て、すごい作品を撮ったなと思った。同時に、この呉美保監督の力は本物か、とも。今年『きみはいい子』で、呉監督は化けた。伸び盛りの才能が自信の裏打ちを得た強さがそこにあった。そして、力は本物になった。(6月公開)
【関連記事】呉美保監督インタビュー
監督:呉美保
出演:高良健吾、尾野真千子、池脇千鶴、ほか
配給:アークエンタテインメント
http://iiko-movie.com

ベスト1『恋人たち』

日常の表皮を一枚剝くとひょいと顔を覗かせる「痛み」。妻を通り魔に殺された不幸を言い訳にしていたり、夫と姑との生活に疲れたオバサンだったり、ゲイで嫌味な弁護士だったり、それぞれが生きることに呻吟しているが、それでも人は人を想い生きていく・・・。橋口亮輔監督の視線の繊細さと温かさに泣いた。(11月公開/PG12)
監督:橋口亮輔
出演:篠原篤、成嶋瞳子、池田良、ほか
配給:松竹ブロードキャスティング、アーク・フィルムズ
http://koibitotachi.com

【注目新人】 成嶋瞳子(『恋人たち』主演女優)

コトが終わった後、話をしながら乳首を弄ってくる光石研をそのまま好きにさせつつ話を返すオバサンを演じた成嶋瞳子を観て、根性の坐った女優だなあと思った。そして、養鶏場で男の夢を聞いた後、近くの野外で放尿する彼女。男の夢もへったくれも超リアルな日常に流す彼女に敵わないと思った。『恋人たち』のほかの主演者と同様、橋口監督がワークショップでみつけたという。続ける気があれば面白い存在感を放つ女優になるのは間違いない。

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