春岡勇二が選ぶ、今年のベスト洋画

2015.12.28 12:50

Lmaga.jp・映画チームが独断と偏見で選ぶ「2015年のベスト映画」。選者は、大阪芸大卒業後、情報誌「プレイガイド・ジャーナル」に参加。1987年からフリーの編集者、映画評論家として活躍する春岡勇二さんが洋画からセレクト!

【春岡勇二・2015年洋画総評】
興奮度で言えば上位3本に大差はなく、こちらの体力の問題で『マッドマックス〜』のガチャガチャ感に疲れるところもあったのでこの並びにした。今年は『ターミネーター〜』『ジュラシックワールド』『ファンタスティック4』など、昔の名前で出ています的作品が多かったが、どれも小粒な感じは否めなかった。あと、ミュージシャンものとスパイ活劇もよく観た。それに、高齢化社会と児童虐待は世界的な問題なのだと改めて思った1年だった。

Best5『独裁者と小さな孫』

モフセン・マフマルバフ監督の意欲作。突然のクーデターで国中から追われることになった老いた独裁者とその小さな孫息子。彼らに降りかかるのはこれまでの暴政のツケだが、解放された民衆の暴力は、それまでの体制側のものとどう違うのか?。現在の世界情勢を考えさせる挑発的ともいえるラストシーンに痺れた。(12月公開/PG12)
監督:モフセン・マフマルバフ
出演:ミシャ・ゴミアシュビリ、ダチ・オルウェラシュビリ、ほか
配給:シンカ
http://dokusaisha.jp

Best4『パプーシャの黒い瞳』

書き文字を持たない、現在はロマとも呼ばれるジプシーの一族に生まれ、言葉を愛したがゆえに掟を破って文字を学び、やがて一族初の詩人となりながら、掟を破ったことで数奇な運命をたどることになった実在の女性を描いた作品。20世紀のほぼ百年間を舞台にした美しいモノクローム映像の素晴らしさに魅了された。(4月公開)
監督:ヨアンナ・コス=クラウゼ、クシシュトフ・クラウゼ
出演:ヨビタ・ブドニク、ズビグニェフ・バレリシ、ほか
配給:ムヴィオラ
http://www.moviola.jp/papusza/

Best3『マッドマックス 怒りのデス・ロード』

個人的には主人公の存在感の弱さがいささか気になったが、その分シャーリーズ・セロンが目立っていたので文句はない。かつての人気シリーズを若手の監督・俳優で復活させる縮小再生産的作品が多かったなか、この映画は本家のジョージ・ミラーが監督。さすがの迫力で、こういう点でも高評価。(6月公開/R15+)
監督:ジョージ・ミラー
出演:トム・ハーディ、シャーリーズ・セロン、ほか
配給:ワーナー・ブラザース映画
http://wwws.warnerbros.co.jp/madmaxfuryroad/

Best2『キングスマン』

こういう映画を待っていた。英国発の「紳士のスパイ」が活躍する荒唐無稽なアクション。シリアスなスパイものだった『裏切りのサーカス』に出ていたコリン・ファースとマーク・ストロングが再び共演。英国俳優のこういう懐の深さがいい。義足が鋭い刃になっている敵側の女性殺し屋を演じたソフィア・ブテラも印象的だった。(9月公開)
監督:マシュー・ヴォーン
出演:コリン・ファース、マイケル・ケイン、ほか
配給:KADOKAWA
http://kingsman-movie.jp

Best1『セッション』

どんなにスパルタで鍛えられても、最後は「先生、ありがとうございました!」的な師弟関係に慣れていた者の度肝を抜いた映画。デイミアン・チャゼル監督自身のトラウマともなっている高校時代の音楽教師との確執を映画化。資料にもある通り、まさに音楽院を舞台にした『フルメタルジャケット』。(4月公開)
監督:デイミアン・チャゼル
出演:マイルズ・テラー、J・K・シモンズ、ほか
配給:ギャガ
http://session.gaga.ne.jp

【注目新人】デイミアン・チャゼル(『セッション』監督・脚本)

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© 2013 WHIPLASH, LLC. All Rights Reserved.” width=”600″ height=”400″>
『セッション』
© 2013 WHIPLASH, LLC. All Rights Reserved.

『セッション』には驚いた。梶原一騎的なスポ根師弟関係映画かと予想していたらガツンとやられた。ラスト10分近くを費やす師弟の闘い。美しさの欠片もないその戦いの意味に、師弟関係というとどこか道徳的な美を感じる日本人の感性は吹っ飛び、ただ圧倒される。なのに、奏でられる音楽そのものには美が宿る皮肉。チャゼル監督自身の経験が元になっているという。撮影時、彼は28歳だった。よく撮ったなとは思うが、真の才能の評価は2本目以降に架かっている。注目だ。

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