ミルクマン斉藤が選ぶ、ベスト邦画

2015.12.29 18:00

Lmaga.jp・映画チームが独断と偏見で選ぶ「2015年のベスト映画」企画。その大トリは、テレビブロス、キネマ旬報などでも連載中の映画評論家・ミルクマン斉藤さんによる邦画ベスト5!

【ミルクマン斉藤・2015年邦画総評】
どうしてもコレを入れたいと思わせる作品に迷う2015年だが、唯一そう感じさせるのが『幕が上がる』だった。あらゆる映画賞はももクロのために「アンサンブル演技賞」枠を特別に設けるべきである。ただし、『まさしく2015年的』というところに選考基準を置くならば、「SPOTTED PRODUCTIONS」映画(松居大悟監督がついに開花した2作品含む)で埋まるけれど、そこは田辺ユウキくんがたぶん補完してくれるでしょ(笑)。

ベスト5『百日紅 Miss HOKUSAI』

今の日本映画では見られぬような仕草の繊細さを表現してくれるのが原恵一アニメーションの美点だが、今回はセンチメンタリズムを徹底排除、ハードボイルドなまでの語り口に徹し、さらに凛として清々しい。原作品に通底する「失われてしまったモノへの執着」の源が杉浦日向子にあるのを示してくれもするが、やはり杉浦原作の実写佳作『合葬』とともに、原作にない部分が印象に残る出来(5月公開)。
【関連記事】「原監督、新作は『仕事がなくて』」
監督:原恵一
出演(声):杏、松重豊、濱田岳、ほか
配給:東京テアトル
http://sarusuberi-movie.com

ベスト4『岸辺の旅』

いつになく穏やかでまっとうな黒沢清だが、それは観終ってから思うことであってやはり相当に狂った映画。ことに名コンビ・芹澤明子のキャメラは明確にホラー。シーン終わりには泣かせさえする『いい話』であっても、必要以上な緊張感の持続は常軌を逸していて、さらに大友良英の古典的スタイルな管楽コラールが居心地の悪さを増長させる。2016年には日本とフランスを往復して同時進行した2作品が完成するはず、その期待もこめて(10月公開)。
監督:黒沢清
出演:深津絵里、浅野忠信、ほか
配給:ショウゲート
http://kishibenotabi.com

ベスト3『バクマン。』

ここまで映画全体をグルーヴできる大根仁はやはり別格の才能だ。目に新しい技法を凝らして「漫画を描く」という地味な行為をスペクタクルにしつつ、泥臭いまでに真正面な青春熱血物語となんの乖離もなく繋げるセンスは爽快至極。サカナクションのスコアも画期的ではないか。そういえば今年屈指の問題作、松江哲明&山下敦弘のモキュメンタリTV『山田孝之の東京都北区赤羽』における大根仁はどこまでが『演技』だったんだろう?(10月公開)
【関連記事】「大根監督が撮る文化系バディムービー」
監督:大根仁
出演:佐藤健、神木隆之介、ほか
配給:東宝
http://www.bakuman-movie.com

Best2『おんなのこきらい』

「SPOTTED PRODUCTIONS」の秀作群から1本、となればコレ。90年代以降に意味づけられた『かわいい』に潜在する客観性や虚構性、あるいは邪悪さや居心地の悪さをおそらく初めて分析的に描いてみせた映画。『かわいい』のはらわたをさらけ出してもなお、「やっぱ可愛いじゃん」と納得させてしまう森川葵に戦慄するが、女尊男卑の今年の映画にあって木口健太の無自覚な鬼っぷりもまた貴重(4月公開)。
【関連記事】「おんなのこきらい・舞台挨拶」
監督:加藤綾佳
出演:森川葵、木口健太、谷啓吾、ほか
配給:SPOTTED PRODUCTIONS
http://onnanokokirai.com

ベスト1『幕が上がる』

正直これまでの本広克行はほぼ全否定だったもので、まさかの1位に自分でも驚くが、本作は間違いなく「部活もの」の里程標として永遠に残るだろう。クリエイティヴィティの宇宙に足を踏み入れてしまった人間の至福と苦悶が、アイドル映画としての枠を崩さずに成立した奇蹟の作品。黒木華が美術室で演じ始めるシーンからの、ももクロの演技及びキャメラの躍動感と高いテンションが最後まで持続するのが凄まじい。「部活もの」ではもうひとつ、京都アニメーションのTV『響け!ユーフォニアム』も素晴らしかった(2月公開)。
【関連記事】「ももクロ、大阪で爆笑舞台挨拶」
監督:本広克行
出演:百田夏菜子、玉井詩織、高城れに、有安杏果、佐々木彩夏、ほか
配給:ティ・ジョイ
http://www.makuga-agaru.jp

【注目新人】黒田将史(『バカドロン』監督)

『大阪アジアン映画祭』で数回、それ以外では東京・大阪で1日上映されたきりのCO2(シネアスト・オーガニゼ-ション大阪)作品『バカドロン』の監督。初期の山下敦弘作品を髣髴(ほうふつ)とさせはするけれど、さらなるドライさと関西的笑いの回路が同居した上、ブッ飛んだ発想の飛躍でシメる、すぐにでも一般公開されるべき傑作。二宮健『SLUM−POLIS』の公開も含め、2015年は関西陣の猛攻が始まった年として後年記憶されることになればいいが。
監督:黒田将史
出演:GON、中村祐太郎、段文凝、ほか
http://www.oaff.jp/2015/ja/program/i11.html

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