行定勲監督を駆り立てる原点「ずっと十字架を背負っている」
◆「そこだけでも褒めて(笑)」(行定勲)
──この映画『ピンクとグレー』は、ある種ミステリ的な興味も伴いながら、冒頭で示される「ごっち」の死の真相を突き止めていく体を取ってますよね。でも最後、そんなものは他人に分かりようがない、という身も蓋もない結論をガツンと提示するじゃないですか。何というか、度外れているというか(笑)、そりゃそのとおりだけど、物語映画としてこれはすごい結末だなあと。
むしろ分かったら分かったで身も蓋もないっていう。「それかよ~」って(笑)。単純に言うと僕は、人間というのは期限ができた瞬間に現実が曖昧じゃなくなって、明確に1個1個が見えてくるのかなと。
でも期限がない「りばちゃん」はそれは分かりっこない。まだまだ生きていくんで最後までぐらぐらで。だから俺、余命3カ月って言われた瞬間に現在っていうものが映画化できるんだろうと思うけど、多分完成しないままに死ぬだろうね(笑)。 1週間で撮って、1週間で編集してやればギリギリできるかな(笑)。
──「ごっち」が生の期限を定めたきっかけになる姉さんとの関係には、原作以上に近親相姦的な匂いをはっきり漂わせていますよね。そのくらいの強度が無かったら、理由付けとして難しいなという感じがしたんです。
うん、それはそうですね。「ごっち」はそこに理由を求めてますからね。ところで脚本を読んだときに、僕もそうだけどみんなあの役には柳楽優弥しかないと(笑)。柳楽が出てきて、ワケのわからない存在感で、ワケのわからないことを言い放っちゃえば、誰も文句言わないだろうっていう、なんかよく分からない自信があったんですよ。
それが映画だろうと(笑)。そういう映画もあっていい、そういうことが映画なんじゃないかなぁと。ずっとブランクだった真実の男の存在がどう決着するかっていったら、最後にそこに居るっていう(笑)。
──そうそう。堂々とタバコを吸っているという(笑)。
もう、想像するだけで楽しくて、今回そういう意味では、普段ブレーキをかけるところをかけない。見たことないこととか、やっちゃいけないことをやると観客が分かりづらいんじゃないか、とか思っちゃうんだけど、画にしてみたら意外に分かるね、と。
まあ分からなくても、ポップコーン食べながら前半を観てるお客さんをフリーズさせるのがひとつの狙いなので、それはそれでいいんだよなと。「え~!映画って自由だね~」って思ってほしいんですよね。こういう映画が支持されると、嬉々としていろんな映画が出てきますよ。
──今作は、豪華な俳優陣もみんな見事でしたね。でも、主演の中島裕翔、菅田将暉をはじめ、夏帆、柳楽優弥、岸井ゆきのと、行定映画では観たことのない顔ばかりですよね。
みんな初めてです。背のちっちゃい本物のサリーが岸井ゆきのじゃないですか。ああいうところが映画として楽しんで欲しいところなんです。快感なんですよね、僕は。なんか妙にエロティックに感じるんですよ。夏帆ちゃんみたいな女優がサリーをやってたのに、ホントはこの子か?って(笑)。絶対に観客も思うはずなんですよ。
シナリオ書いてるときも、どんな子が来るんだろうと思ってて。噂は聞いてたんだけど、岸井ゆきのをオーディションに呼んで面接して、「うわ、ちっちゃ!」と思って一発OKだったんですよ。プロデューサー2人も「彼女しかない!」って。
──確かに、岸井ゆきのが登場したときは衝撃的でしたね。この子がサリーか、って。
でしょ? あんなちっちゃくて、エロティックなアピールとか全くないこの子が、前半でずっと語られてた「あの犯されちゃったサリー?」ってみんなすっごい目で見ちゃうわけ。そこだけでも褒めてって思うところがありますね(笑)。部屋に帰ってきて「私と一緒にいたら困るでしょ?」って台所に立つちっちゃい後ろ姿・・・あれがねぇ、やたら僕はいやらしい目で見てしまう(笑)。
──四畳半エロティック(笑)。
ありますよねぇ。彼女は(劇中では)何もしていないのに。やってたことは観客全員知ってるっていう、ちょっと覗き見的なスリリングさがこの映画にはある。それがエンタテインメントかなと僕は思っているんですけどね。
映画『ピンクとグレー』
2016年1月9日(土)公開
原作:加藤シゲアキ(「ピンクとグレー」角川文庫)
監督:行定勲
出演:中島裕翔、菅田将暉、夏帆、岸井ゆきの、柳楽優弥
配給:アスミック・エース
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