超絶技巧の陶芸家、大阪で宮川香山展

2016.5.3 08:00

重要文化財 褐釉高浮彫蟹花瓶 明治14年(1881) 東京国立博物館

(写真3枚)

超絶技巧の代表格である陶芸家・宮川香山(1842〜1916)の作品約150点を回顧する展覧会が、大阪市立東洋陶磁美術館(大阪市北区)で行われています。

香山といえば「高浮彫(たかうきぼり)」という緻密な浮彫を施した作品が思い浮かびます。筆者自身、初めて彼を知ったのは、2匹の蟹が器の側面に施された《褐釉高浮彫蟹花瓶》という作品です。まず、まるで本物のような蟹にビックリしました。文字通りの超絶技巧です。次に、蟹の装飾が実用性を遥かに超えて主張しまくっているのを見て、失礼ながら笑ってしまいました。明らかな本末転倒ですが、だからこそ作者の技巧の冴えや作品にかける情熱が伝わってきます。この過剰過ぎる装飾とそれを支えるテクニック、滲み出る作家魂のせめぎ合いこそが、香山作品の魅力なのです。

高浮彫牡丹ニ眠猫覚醒蓋付水指 明治時代前期(19世紀後期) 田邊哲人コレクション(神奈川県立近代美術館寄託)
高浮彫牡丹ニ眠猫覚醒蓋付水指 明治時代前期(19世紀後期) 田邊哲人コレクション(神奈川県立近代美術館寄託)

ほかには、眠りから覚めた猫の姿を歯や舌、内耳の血管まで細密に表した《高浮彫牡丹ニ眠猫覚醒蓋付水指》や、鳩、孔雀、鷺などの鳥と野草を組み合わせた大ぶりの花瓶などを見れば、そのすさまじさが分かるでしょう。

ところが後年、彼の作風は一変します。釉薬や中国古陶磁の研究を進め、「釉下彩(ゆうかさい)」という技法を駆使したエレガントなスタイルに移行したのです。香山ファンには前期の高浮彫しか知らない人もいると思いますが、後期の仕事も素晴らしいものばかりです。この機会に是非体験を。そして彼を知らない方も、騙されたと思って本展をご覧ください。こんなスゴイ人がいたのかと、腰を抜かすほど驚くこと請け合いです。

釉下彩盛絵粟ニ鶉図扁壺 明治時代後期〜大正時代初期(19世紀末期〜20世紀前期) 田邊哲人コレクション
釉下彩盛絵粟ニ鶉図扁壺 明治時代後期〜大正時代初期(19世紀末期〜20世紀前期) 田邊哲人コレクション

文・写真/小吹隆文(美術ライター)

『没後100年 宮川香山』

日程:2016年4月29日(祝・金)〜7月31日(日)
時間:9:30〜17:00 ※入館は16:30まで 
   月曜休 ※7/18開館、7/19休館
会場:大阪市立東洋陶磁美術館(大阪市北区中之島1-1-26)
料金:一般1,200円、大高生700円
電話:06-6223-0055
※会期中に関連イベントあり。詳しくは公式サイトにて

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