衝撃的すぎる怪作、誕生! 真利子監督×柳楽優弥に訊く
「そもそも答えなんてない」(真利子監督)
──那奈(小松菜奈)にしたって、最初こそ被害者の立場ですが、車のトランクに閉じ込められたり裕也からヒドい目に遭わされ、次第に変化していく。ある意味、那奈のほうが裕也以上に泰良の影響を純粋に受けたちゃったような。
真利子「小松さんの役に関しては、普通の女の子だったはずが(怒りを)溜め込んで溜め込んで、そして壊す、発散する。そういうキャラクターにしたかったんです」
──小松さんはちょっと今まで見たことない顔をしますよね。『渇き。』(2014年)とも違う、世論を手玉に取ったような性質の悪さで(笑)。
柳楽「ホンマ、悪い奴ばっかり(笑)」
──だから、なぜか柳楽さんが一番いいヤツに見えるんですよね(笑)。
柳楽「そうなんですよ。まあ、良くはないんだけど(笑)、見え方は変わってきますよね。ケンカしていても一生懸命ですから」
──最初の25分間なんて特に、観客にはいったい何が起こっているのか判らない(笑)。むやみやたらとケンカしてるばかりで。
真利子「一生懸命ケンカしてる(笑)。別に可愛く撮ろうとはしていないんですけれどね。なんか、ケンカに執着している様子が可愛く見えてくる」
柳楽「(真利子監督の方を向いて)俺が撮影に入る前、泰良ってどういうイメージだったんですか? 撮影のとき、『なぜこんな暴力をやっているんですか?』って何度か訊いても、監督は『楽しければイイけん』しか言わなかったんですよ。もう、なんのこっちゃワケ判らなかったんですよ(笑)。まあ、でも、それで振り切れた部分もあったんですけどね。そうか、ワケ判んなくていいのかって。今までは理由とか理屈とか、自分のなかで役柄を組み立てて作品に挑むことが多かったんで、今回は全部『俺は知らねぇ』っていうような感じで、それはそれで気持ちよかったんですけど」
真利子「すごく初期の段階から、何の説明もなくケンカを繰り返していく画は、絶対に面白いというのがあったんです。できあがった脚本に関しても自信はあった。ただそれを誰がどう演じて体現してくれるかだけだったんで。よくぞ(柳楽が)やってくれたというか」
──共同脚本の喜安浩平さんとのすり合わせみたいなのはあったんですか?
真利子「喜安さんには、僕が書いた脚本のキャラクターがブレていったときに指摘してもらったり、一歩引いたところから見てもらっていました。それに喜安さんは愛媛出身なんで、伊予弁に直してもらったり」
──みんな伊予弁ですもんね。菅田さんなんか大変ですよね、台詞多いし。・・・あ、あまり柳楽さんは関係ないか(笑)。
柳楽「僕は関係ないですね(笑)」※註:柳楽の役は台詞がほとんどない
──ですが、言葉はないけれど圧倒的で有無を言わせぬ空気は漂わせているという。泰良はある意味、どこまでも自らの快楽原理に忠実だし、彼には彼なりの「ルール」もある。ひょっとすると、もっとも人間らしい原初の人間的な存在で、僕にはちょっとヒーローぽく見えるんです。最後、港町のルールの象徴たる祭りの夜に帰ってくるシーンは、いわば「ヒーロー降臨」に感じました。
真利子「まあ、ヒーローではないですが、そういう見え方をしてもいいんですよ。暴力って、当然肯定できるものじゃないけど、その場においては肯定される場合もあるわけだし、そもそも答えなんてないものだと思ってるんで。それを体現しているのが泰良なんです。だから映画の終わり方も、見る人の印象が違ってていいんです」
──泰良は社会通念に影響されないというか、それを弾き飛ばす力があるような気がするんです。そういう意味で裕也や那奈、さらには将太とも隔絶しているけれど、彼らも泰良というブラックホールの引力に巻き込まれて全速力で回っている。俳優さんもみんなヤル気というか殺気立ってるというか。
真利子「全員ヤル気、っていうのはありましたね(笑)」
柳楽「ヤル気満々!(爆)」
真利子「やっぱり主演が彼で、脚本で処理しきれない泰良って役を、誰よりも思いっきり演ってくれてたんで、そこにみんな引っ張られてましたね」
柳楽「みんなヤル気満々だから、池松(壮亮)さんやでんでんさんが出ると、『お、いちおう映画になってるな』って感じでホッとするんですよ。東京から役者さんが(愛媛に)来るわけですけれども、みんなボロボロで血だらけになって帰って行くっていう、本当にそんな感じの現場でしたから(笑)」
映画『ディストラクション・ベイビーズ』
2016年5月21日(土)公開
監督:真利子哲也
出演:柳楽優弥、菅田将暉、小松菜奈、村上虹郎、池松壮亮、ほか
配給:東京テアトル R15+
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