白石和彌監督「間違いなく僕の代表作」
「トラウマになるくらいの衝撃を受けてほしい」(白石監督)
──マンガ原作の恋愛映画があってもいいけれど、一方でこういう「権力」に向かう作品もないとかえって不健全ですよね。
そう思います。ただ、1人でそうイキっていても成立はしないので、今回、東映と日活にバックアップしてもらって、この映画が撮れたことはありがたかったです。
──僕らも東映と日活の会社マークがスクリーンに映し出された後、こういった作品が始まるとそれだけでワクワクします(笑)。主演に綾野剛を起用するのは早い段階から決まっていたのですか?
いえ、そうでもなかったです。モデルになった稲葉さんは柔道の猛者でアスリートなんです。「そんな身体の大きい格闘家のような俳優がいるんだろうか?」なんて思っていましたから。そんな不安を持ちながら第一稿の脚本を上げて、原作者の稲葉さんにお会いしたんですね。すると、やっぱりすごく魅力的な人で、人たらしなんですね、艶(いろ)っぽくて。原作には書いてないけれど、愛人もたくさんいたみたいだし(笑)。そう考えたら、そうか諸星に大事なのは色気なんだとわかったんですね。そうなるといま一番ノッている俳優でいいわけで、それは綾野剛で決まりだなと。映画の中で26年分の人生を描くのですが、年齢的にもちょうどいいし。あと大事なのは、覚醒剤を打つシーンを演じてくれるかどうかだったのですが、これも快諾してくれて。
──久しぶりに映画のなかで薬物に手を出す印象的なシーンを観ました。僕のなかではかつて芹明香という女優さんが演じたシーンがインパクトがあったのですが・・・。
ああ、深作欣二監督の『仁義の墓場』(1975年)でのシーンですね。僕もあのシーンの芹明香さんは強烈に覚えています。あの映画に捉えられていた大阪の新世界や西成界隈にはいまもすごく興味があって、いつかあの辺りで映画が撮りたいですね。
──実際に綾野さんと仕事してみてどうでしたか?
彼は、ほんとにいい意味で役者バカというか演技バカですよね。撮影が終わって飲みに行っても、その日撮ったシーンの演技の話しかしないし。これから日本を代表する俳優になっていくんだろうなって思いました。もうなってるのかもしれませんが(笑)。この映画は、間違いなく僕の代表作ですが、綾野くんにとっても代表作の1本にはなったのでは、と思います。
──確かに。諸星の相棒になる、暴力組織の幹部を演じた中村獅童もいいですね。
諸星と初めて会うシーンで「ハイ、こんにちは~」と言いながら部屋に入ってくるのですが、実はあの台詞はシナリオにはなかったんです。もう、あの一言で持っていきますよね(笑)。撮影の合間など普段は寡黙なんですけど、ときどき鋭い指摘をしてくれる。プロ中のプロですね。
──舎弟を演じているYOUNG DAIS(やんぐ・だいす)と、お笑いコンビ・デニスの植野行雄もはまり役で面白い。
DAISが演じた役は、諸星同様20数年間を描くもので、諸星のおかげで良くも悪くも濃密な人生になった、いわば一番面白くて難しい役なんですけど,とても上手く演じてくれたと思います。製作サイドとすればこの役には、もう少しネームバリューのある俳優を起用したかったのかもしれませんが、園子温監督の『TOKYO TRIBE』に出ていたDAISがどうにも気になって。彼を起用して、正解でしたね。また、彼は北海道出身で今も札幌で活動しているんですが、彼のような北海道の空気がわかっている人間をメインキャストにおいておきたかったということもあったんです、僕のなかで。その意味でもすごく助かりました。
──デニスの植野はどうでしたか?
行雄ちゃんはもう「発見」ですね。彼の放つニセモノ感、いわゆる「パチモノ感」は唯一無二で何ものにも替えがたい(笑)。彼には日本語をカタコトで話す、カタコト感にだけ注意してくれと言いました。すると、初めは台詞を言うたびにこちらを向いて、今のいいですか?っていう顔をするんです。それが慣れてくるとだんだん調子に乗ってきて。それも可笑しかったですね。
──映画俳優に歌舞伎俳優、ミュージシャンにお笑い芸人とそれぞれ出身が違うところもアンサンブル感があってよかったです。
どこか青春映画のつもりで撮っているんですよ。仲間が集まってワイワイやり、いつしかバラバラになってしまうという。今回は特に前半の仲間を集めていくシチュエーションなどは『七人の侍』みたいだな、なんて思ってました(笑)。別に実録ものの内容やタッチにこだわっているわけじゃないんです。好きなので、ついつい食指が動いてしまうというだけで。
──もっと幅広い題材のものを撮りたいと・・・。
そうです。撮りたいのは結局、人間てなんなんだろうなあって思える作品。ここで描いた連中もそうなんだけど、人間て誰も清濁併せもった存在じゃないですか。ところが今の社会はどんどん小さくなっていってて、ちょっと危ない物や人には蓋を被せて見えないようにしていっている。危ないことに気づいても気づかなったふりをして済ませようとしている。これでは最終的にはどんどん危険な方に向かっていってしまいます。僕はこの映画を若い人に観てほしい。そして、トラウマになるくらいの衝撃を受けてほしい。そうすると逆にマンガ原作の恋愛映画を観る人も増えて、映画界全体が結局いい方向へ向かうことになるんじゃないでしょうか(笑)。
映画『日本で一番悪い奴ら』
2016年6月25日(土)公開
監督:白石和彌
出演:綾野剛、YOUNG DAIS、植野行雄(デニス)、ピエール瀧、中村獅童、ほか
配給:東映 R15+
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