スマホ縦型MVの新時代、制作者・隈本遼平に聞く

2016.8.3 15:00

lyrical school『RUN and RUN』のミュージック・ビデオの一場面

(写真1枚)

とにかく斬新だった、6人組のヒップホップアイドルユニット・lyrical schoolのメジャーデビュー曲『RUN and RUN』のミュージック・ビデオ(MV)。再生すると「スマホがジャックされる」というコンセプトのもと、アプリとアプリを縦横無尽に移動。ネットを見てる途中に、メールのお知らせが通知される、いわゆる「割り込み」を駆使し、次々と画面が切り替わるアイデアは、あまりにも革新的だった。

このMVを制作したのは、テレビCMや映像作品の企画・演出を手掛ける制作会社「AOI Pro.」(旧社名・葵プロモーション)の企画演出部・隈本遼平さん。隈本さんは、「チームでアイデアを考えている際、縦型の映像が増えてきているなかで『縦動画の利点』を最大限生かしたMVを作れないかと考えました。打ち合わせでスマホ体験のさまざまなポイントを持ち寄り、それを共有するなかで、実際にスマホを触って、機能を体験して、ひとつひとつの要素を組み立てていきました」と語る。メンバーたちには絵コンテをスマホで見せて、演出について説明していった。

ネットアクセスの主要デバイスがPCからスマホに移り変わり、横長が定石だった映像環境が一変した今。これまでも、スマホ=縦画面を意識したMVは少なからずあった。だが、画面を縦長にしたもの、人気アプリの画面・機能を模したもの、スマホそのもので撮影したもの、など。しかし、スマホのアーキテクチャ(構造)と機能を最大限に利用したアイデア、演出面を考えると、やはり「RUN and RUN」は突出したものだった。結果、MVは公開されるやツイッターのトレンド1位となり、「Yahoo! JAPAN」のトップニュースや海外メディアでも取り上げられ、さらには、世界三大広告賞のひとつ『カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル』のサイバー部門・銅賞を獲得。日本のクリエイターらに衝撃を与えた。

「(アプリの移動など)スマホ内で起こらない現象は、演出においても使用しない、というルールを徹底しました。彼女たちが描かれる場面も、スマホのルールに基づいて映像を送り、その映像をフルスクリーンで再生するなど、スマホのルールを利用してすべての要素を表現しました。画面内の情報についても、手のひらサイズで目線を移動させるため、普段よりも視聴者が素早く情報を追っていきます。スマホの実機で再生をして、視聴環境により近付けた状態で検証していきました」(隈本さん)

デビュー曲で一躍注目を集めたlyrical schoolだが、その第二弾シングル『サマーファンデーション』のMVもまたまた話題となっている。ディレクターは前作に引き続き、隈本さんが担当。縦型MV新時代を告げたアイデアを捨て去り、挑んだのは「花火大会とのコラボ」。7月2日に行われた『相生ペーロン祭 前夜祭花火大会』(兵庫県相生市)とlyrical schoolをシンクロさせるという一発勝負の演出で、またまた斬新なMVを完成させた。

一見すると、前作のデジタル的な演出からアナログへとシフトしたようだが、ただ花火大会の前でダンスシーンを長回ししたのではなく、よく見ると、花火のタイミングを熟知した上での演出であることが分かるはず。そのために、事前に打ち上げプログラムを入手したという。「花火大会のプログラムを見れば、花火がどの順番でどこから上がって、どの時間帯で盛り上がるか、その構成が分かります。それをどう利用してMVに合わせるのか。花火のプログラムを種類で分け、想定の映像に起こし、各パートに合わせて計算していきました。花火と彼女たちのダンスをできるだけスムーズに行えるように、カメラの動き、タイミングを調整していくことに気を遣いました」(隈本さん)。

わずか2曲で「lyrical schoolといえばMV」と言われるほど、一躍注目の存在となった彼女たち。今後のMVの展望についても気になるところだ。隈本さんは「そう言われるのはうれしいですが、lyrical schoolの楽曲や彼女たちの魅力をより表現できる場になれば、と思っています」と控えめだが、このMVの新たな潮流は注目すべきトピック。次作も期待せずにはいられない。

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