山下敦弘監督「あの2人は鬼門ですよ」
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「僕の出鱈目は相米(慎二)さんの影響」(山下敦弘監督)
──スタンダードだと今の時代、ちょっと窮屈な感じがするんですよね。いささか意図的過ぎるものになっちゃう。その点、ヨーロピアン・ビスタくらいが人間の視覚にもっとも近いと思うし、人間を描こうとするこの映画にこの画面サイズは好ましく思えるんですね。ところで聡のキャラクターは、完全に高田さんが書いてこられたんですか?
そうですね、ベースは高田さんでしたね。僕が参加する前にプロデューサーの星野秀樹さんと高田さんのあいだで、ダンスを入れるっていうのと、函館公園で働いているというのと、ホステスやってるという設定はあったので。僕が肉付けしたのはあまり無い気がしますね。でも鳥の羽が降ってくる、っていうのはみんなで考えたんです。
──ほお。現実とファンタジーが地続きになる大きなシーンですが。
「あそこでなにか起こしたい」という高田さんの狙いがあったんですけれども、上手くハマらなくて。スタッフ全員集まって無記名投票でアイデア出しあったんです。そのなかで「鳥が騒ぐ」っていうのと「羽が降ってくる」というのを組み合わせてやりました。
──逃げ果せたハクトウワシが、なにかを示唆するように白岩のもとにやってくる、っていうのもありますよね。
あ、ハクトウワシが窓にいるというのは確か、僕が言い出したんですよ。「これくらいやってもいいんじゃないの、今回」って。それくらい嘘っぽくていいかなって。現実なのかどうか分からない、不思議な画としてやっちゃおうと。なんでああいうシーンを入れたのか自分でもよく分かってないけど、今回はそういう直感というか、感覚的な部分を結構許してくれるスタッフが多かった気がしますね。最後の動物大脱走も僕だったかな。言い出したくせに、絶対誰か止めるだろうと思ったんですけれども(笑)。

──あれも脚本にはなかったんですか?
途中でできた設定ですね。あの公園を見に行って出来上がったと思うんですけれども。でも、あそこにいる動物は檻から出せないので、ほかから連れてきて(笑)。やってるときは必然的だと思ったんですよ。でも出来上がってみたら、確かにおかしいよなって。不思議なことなんだけど、映画を観てるときだけは必然的に見える、という面白いことができたかな。
──『ばかのハコ船』(2003年)でも急に腹が風船みたいに膨れたり、『苦役列車』でも人が空から降ってきたり、山下映画では突発的にとんでもないことが起こるんですが、なんかちょっと今回は違いますよね。
そうですね。毎回、なにかしら飛び道具というか、遊び的な要素を入れてたんですけれども、今回流れに沿ってやっていくと、今までと違う見え方がしてきたので。今までは「山下の意図だな」というのがスゴく出てたと思うんですけれど、今回あまりそれがないのが自分の幅が広がったというか。いい経験でしたね。
──観ているとさほど出鱈目には見えない。なんかしっくりくる。
僕の出鱈目、っていうのは相米(慎二)さんの影響なんですよ。変な構成とか、急に安っぽいアニメーションで蝶々が舞ったりとか。すごく違和感があるんですけれども、相米さんの力強さで僕にはそれが馴染んじゃった。
──私も相米映画は大好きなんですけれども、ちょっと安易に真似するとエラい目に遭いかねない(笑)。陳腐の一言で片付けられる危険性がある。
そうそう、危険性があって、相米好きの監督はそこでせめぎ合ってると思うんですけれども。僕は自分なりの出鱈目を見つけていかなければ、っていうのはいつもある。
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──それはともかく、動物大脱走っていうのは『オーバー・フェンス』という題名から発想されたんじゃないんですか?
あ~、その話は出なかったなぁ。
──ハクトウワシだけがフェンスを越えてやってくる。それにインスパイアされて白岩が一歩踏み出す。
それは漠然とあったと思うんですよね。だけど作ってるときはみんな、『オーバー・フェンス』というタイトルは意識してなかったような気がするんです。ある種、タイトルがストレートすぎて、意識するとそればっかりになっちゃう気がしたから。でも出来上がった映画を観たら、無意識なのか意識的になのか分からないですけど、フェンス越しに撮ったりとか近藤くんが所々に入れてて。僕はそんなに意識しなかったんですけれど。
──この原作、佐藤泰志としてはストレートですもんね。いつになく。
オダギリさんがクランクイン前に、「タイトル、まんま過ぎませんか? 変えませんか?」って言ってきたくらい、答えがここに出過ぎちゃってたから。あんまりここを意識すると狭くなっちゃうかなと思ってあまり意識しなかったですね、タイトルは。
──最後にひとつ感想を言わせてもらいますと、さっき相米さんの話が出ましたけど、僕にはなんだか神代(辰巳)さんの映画のように見えもしたんです。
ああ、なるほど。それはうれしいですね。悔しいけど、神代さんって出鱈目ですもんね。相米さんと神代さんの乱暴さとか出鱈目さって、未だにどっか魔法があるというか。本当に出鱈目で乱暴にしか見えないんだけれど、なにか真似できない魅力があって、あれは映画だから許されるギリギリの何かをやってるような気がしてて。だからあの2人はズルいなぁ、卑怯だなぁって感じますよね、本当に(笑)。僕らは影響を受けるけど、真似は絶対しちゃいけないっていう。日本映画を撮るとき、あの2人は鬼門ですよ。
映画『オーバーフェンス』
家庭を顧みなかった男・白岩は、妻にも見限られ、東京から故郷の函館に戻ったが、実家には顔を出さず、職業訓練校に通いながら失業保険で暮らしていた。ある日、訓練校の仲間・代島に誘われ、キャバクラに行った白岩。そこで、鳥の動きを真似る風変わりな若いホステス・聡と出会う。どこか危うさをもつ美しい聡に、白岩は強く惹かれていく。
2016年9月17日(土)公開
監督:山下敦弘
出演:オダギリジョー、蒼井優、松田翔太、ほか
配給:東京テアトル
テアトル梅田ほかで上映
© 2016「オーバー・フェンス」製作委員会
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