「小宇宙のように制限されない表現」上野樹里の着色されない演技
「人生はシナリオ通りには絶対にいかない」(上野樹里)
──終盤、お父さんの昔の教え子が家を訪ねてきて、お父さんもちょっと救われます。あのとき彩はひとりで、隣の部屋でマニキュアを塗ってますよね。
そうです。マニキュアを塗りながら、漏れ聞こえる会話を聞いてますね。そこのリアクションに関してはお任せでした。最初、私は(隣室で)背中で聞いてるという設定だったんですけど、途中から「こっち向いていいですか?」って提案して。っていうのは、話されているアドリブの話が「誰々先生って、先生のこと好きだったんですよ~」「え、そうなの?あはははは」みたいなことになってて。「お父さん、モテてたん?」みたいな感じで、娘としては気になる話題なんですよ。
──そこが娘と息子の違いかも知れない。我が身を省みても(笑)。
息子だったら「はい、はい」ってなったのかも知れないですね。でも娘って、お父さんの嫌なことに対しても、みんなが良いと評価してることに対しても、なんかちょっと引っかかるんですよ。だから、私はお父さんのほうに自然と向いて。心地よかったんでしょうね、家が賑やかな感じとか。で、「話を聞いてると思わず一緒に笑ってしまう、って表情をしてもいいですか?」って監督に言って、そうさせてもらったんですけれども。
──あのマニキュアのシーンがいいんですよ。だからそのあと、路上で彩が泣いちゃうまでの流れもスルリと納得できる。
自虐的ではないですけど、彩は親孝行できなかった罪悪感があって。だからあのとき反省したんだと思うんです。その前に親の話を聞いてたのをネガティブにもしたくなくて。娘としてはどこかで「ああ、お父さんもそういうとこあるんだ」って、本当はうれしかったんですよね。
──今回、そういう樹里さんから提案した場面は多かったんですか?
いや、あんまり無かったですね。まず演ってみて、それを監督が見て、「はい、撮る準備しましょう」みたいな感じで。だから不安になるフシがいっぱいあったんですけど、いや、不安になっちゃいけない、と。たぶん生きる生活力というか、前に進むのを止めない魂が、映画に説得力を持たせるだろうと。
彩は3人のなかで一番若さがあってパワーがあって一所懸命だけど、でも上手くいかないというチャーミングさもあるし。そういうのを堂々と、あんまり難しいことを考えずに生きていれば、そのままステキな感じになるかなと。
──まるで彩の生活を、本当に樹里さんが生きていたように聞こえてきます。彩とご自身との間に近似性は感じましたか?
自分自身もこうして仕事してて、このまま35歳くらいまで結婚しないんだろうなぁ・・・と普通に生活してたんですけど、人生、自分の描いたシナリオ通りには絶対にいかないじゃないですか。私の場合も、「あ、結婚しよう」と思った人が年上だったり。彩ほど年齢差は離れてないし、複雑じゃないですけど、家のなかに相手がいて、細々と自分は幸せだと思って生きていくという彩の考えは、意外と今にフィットしてるんじゃないかなぁと。
──なるほど。
深い自分の奥底と向き合って生きている人なんかいなくて、ああ、あのときこうしておけば良かったな、なんでああしたんだろう、と思いながらも前に進むしかないし、時間の針は前に進んでいくし、1日が終わるとお風呂入って寝る。そういう繰り返しのなかで自分のやりたいこともやって。となると、みんなそんなに深く考えて生きていないですよ。
──それがリアルってものですよね。
だから、不安にならない、後ろを向かないということが、今回のテーマですね。あとは彩と同じように、現場が終わったら帰り道でスーパーに寄って食材買って晩ご飯は私が作って、そういう生活面を大事にしました。
──あ、それは役作りの一環として?
そうです。とんかつ揚げながらビールをあおったり、喋ったりというのが自然に日常として演じられればと思って。それが画面に出てるか出てないかは別ですけど。本読みのとき、藤竜也さんに「私の彩は大丈夫ですか?」と訊いたら、「姪っ子に顔がそっくりで樹里さんの彩でOK」って言っていただけたので、ああ、何やってもいいんだなと。
ただその反面、何をやっても彩になるわけだから責任重大です。でも、こんな機会を与えられたからには楽しまなきゃもったいない。ひとりで悩んでも答えはひとつじゃないし、間違っていれば監督が修正するだろうと。ずっとそれを待っていたんですけど、結局なにも言われなかった(笑)。
──オールOKだった、ということだったんでしょうね。
そうなんでしょうね。だからこんな味わいのある、人間味のある仕上がりになって、私もうれしいです。エンディングも、凜とした彩の表情で終わるというイメージだったと思うんですよ。だけど、走ってるうちに笑えてきちゃって(笑)。なんでお父さんを追っかけるまでになったんだろうって。
引き留めて一緒に住むのか、たまに会いに行くようになるのかは、そこはみなさんのご想像にお任せして。まぁ、永遠に続いていく家族がテーマですから、そんな終わり方もいいなぁと。キレイごとでポンと終わるんじゃない、っていう。
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