佐野元春「シェアすべきことがある」
「年代は違うけれども、僕や彼らというのは同士」(佐野元春)
──なるほど。昔と比べると音楽活動のスパンが短くなってきた時代のなか、どの出演者もまさにタフに活動を続けられ、自分たちが信じている、表現したい音楽を貫き通していますね。
途中で挫折してしまいがちな多くのバンドやソングライターは、ナイーブ過ぎると思うんですね。やはり現実との戦いのなかでサバイブしていくわけですから。そうした意味では、今回出てくれる彼らの一番重要なところは、ずっと独立心をもってやってきているところですね。インディペンデントな精神で、ここまでやり抜いてきている。大きな資本に守られてきているわけでもないし、メディアに守られてきているわけでもない。やっぱり独立心をもって、自分の聞き手は自分で獲得している。僕はそこに共鳴します。
──出演者のひとりである七尾旅人さんに以前インタビューさせていただいたとき、印象的だったのが、ライブに赤ん坊を連れてきて欲しいと。赤ん坊の泣き声などはライブの進行などの妨げになるからか、今は入場制限のあるコンサートがすごく増えているんですが、七尾さんはむしろ連れてきて欲しい。赤ん坊の泣き声も一緒にセッションしたい、と。
そう。それが彼の、芸術の基本的なアティチュード。青空劇場です、彼は。どこに行っても、自分からそこの場に行って、そして、そこの空気を全部含めてひとつのアートにできるよという、そういう自信からですよね。それは本当に素晴らしいことだし、タフじゃないとそういう思い切ったことはできない。
──佐野さん自身も、まさにそういった「タフ」な活動をずっとされてきましたよね。
だから共鳴できるんですね。世代的には弟世代かもしれないけれど、しかし、こういうクリエイティビティの世界では年齢というのは、それほど大事な意味はない。いかに、その時代に輝くクリエイティビティ、新しいアイディアを持っているかどうか。そこですね。年代は違うけれども、僕や彼らというのは「同士」である。そう思っています。
「僕はナイーブに見せかけているけど、実は実存主義だから」(佐野元春)
──自分たちが表現したいものを作るにあたって、簡単に言えば楽曲をリリースする方法であったり、パッケージであったり、80年代以降はその移り変わりが激しかったと思うんですが、佐野さんはそのあたりをどういう風に捉えて、どういう活動をしてきたんですか?
意外と僕なんかは、ナイーブに見られるかもしれないけど、それじゃやっていけないですよね。たとえば、クリエイティビティをしっかり保ちながら、いかに多くの聴き手にそれを渡していくか。それは、メディアの問題もあるし。いろいろと課題というのは横たわるわけだけども、それをクリアしつつ、そして、アーティストである自分を前進させていく。ここはすごくね、タフじゃないとやっていけない。いわゆる実存主義じゃないとやっていけない。僕はナイーブに見せかけているけど、実は実存主義だから。
──97年、98年の『THIS!』では当時では先進的だったインターネット中継もされていましたし、2015年のアルバム『BLOOD MOON』では、CDやアナログとともにUSBでハイレゾ音源を出したりしてますね。これは面白かったです。
そういう活動を着目してくれる方がいるからこそ、僕も常に冒険的でいられる。やはり、僕がどんないい楽曲を書いたとしても、それをいいねと言ってくれる人がいなければ。僕が作ったものに輝きを与えてくれるのは、常に聴き手ですから。やはり、良き聴き手を求めていく。しかも、自分たちから求めていくということは必要かなと。今回のライブでは、ブレヒト(ドイツの戯曲家)の言葉「良き読者を捕まえろ」を引用してね。僕は10代のとき、それを読んで感銘したんですけども、それをもじってですね、「良き聴き手を捕まえろ」と。これは今回参加してくれるバンドやソングライターへのメッセージでもあります。
──その「良き聴き手」ですが、今は音楽の接し方、聴き方がかつてと比べてもだいぶ変わってきたと思うんですね。佐野さん自身、「良き聴き手」に届ける難しさに対して、さまざまな試行錯誤を繰り返されてきたと思うのですが。
そのへんは正直言って、難しくは考えてない。昔から変わってないものは何か、といつも思うから。昔から変わってないものは、僕たちソングライターは良いメロディを書き、良いフックを持ったリリックを書き、それをみんなの前で披露して、みんなと楽しく歌って踊る。ダンスする、ということですよね。野暮ったくいるな、クールでいろと。そこを押さえておけば、難しいことは考えなくて済む。
──そのあたりのスタンスって、今回出演されるミュージシャンにも通じますよね。まさにタフにサバイブしてきている。
そう。その力の源泉ってどこから来るのかなといつも思うんだけど、やっぱりロックンロール音楽が大好きなんだろうね。ロックをひとつの表現フォーマットと難しく解釈するとしたら、この表現フォーマットが好きなんだ、信じているという連中なんだろうね。その気持ちがエネルギーになり、ここまで彼らを引っ張ってきてるんじゃないか、と。それは僕も同じです。
──なるほど。それと、「良き聴き手」がミュージシャン自身に与える影響というのも、佐野さん自身が一番ご存じだと思うんですが。
「良き聴き手」というのは平たく言うと、ホントに心から胸を開ける友人、友だち探しです。探すということは、つまり自分たちから出向いていって、彼らとの出会いの可能性を捨てないということですね。だから、ライブというものがすごく大事だと言うことも出来る。彼らは本当にライブを大事にしています。
佐野元春 presents『THIS ! オルタナティブ 2017』
出演:佐野元春 & THE COYOTE BAND、Gotch & The Good New Times、サニーデイ・サービス、カーネーション、中村一義、七尾旅人
日時:2017年3月25日(土)・17:00〜
会場:フェスティバルホール(大阪市北区中之島2-3-18)
料金:6800円(全席指定)
※3歳未満入場不可、6歳以上チケット必要
佐野元春オフィシャルファンサイト
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