佐野元春「シェアすべきことがある」
「自分の音楽を守るため、なんて気持ちはさらさらない」(佐野元春)
──佐野さんもすごくライブを大事にされています。今さらな質問ですが、ライブとは、ミュージシャンにとってどういうものなんですか?
ライブは、ミュージシャンの一番の本懐です。レコードなんか出さなくても、良いライブをやって食っていけるんだったら、それでいいっていうのがミュージシャンです。ご機嫌なライブができなければ、ミュージシャンじゃない。また別の名前を付けた方がいい。レコードなんて誰にでもできる。今はソフトウェアとハードウェアを使えば、ご機嫌なモータウンサウンドから現代的な音楽まで、誰だって作れる。でも、そこじゃない。それを超えて、ライブで生のコミュニケーションを人々と取っていく。その先に、音楽にどんな可能性が開かれるか。それを試していく旅路なんですね、僕らがやっていることは。
──それらは自らの音楽表現を守っていく、ということでもあるのですか?
自分の音楽を守るため、なんて気持ちはさらさらない。
──ない?
むしろ自分の音楽なんて、無くなっていいと思ってる。もし、日本語によるロックンロール表現というものが豊かに、良いかたちで栄えて、それを必要としている人たちに満遍なく行き渡るんだったなら、僕なんて何もしなくたっていいと思ってる。そうした本当の意味での文化に、少しでも貢献できたらいいなという思いはちょっとだけある。真面目なことを言えばね。(佐野が出演・企画したEテレの)『ザ・ソングライターズ』にしてもそうだし、僕のラジオ番組もそうだし、この『THIS!』イベントもそうだし。自分を超えたところに全部ある。自分のことはさておいて。そういう気持ちの方が強い。
──それは佐野さんが、そういう音楽を通しての感動や喜びを体験・享受したからこその思いなんですか?
もっと単純な話だよね。世の中にはシェアすべきことがもっとたくさんある。くだらないことばっかりシェアしてんじゃねえよ、という話です。
──シェアという意味では、インフラ的には昔よりは今の方がシェアしやすい時代だと思うんですが。
そこはね、本当にシェアしやすくなっているか、僕は懐疑的でね。ただ、昔と今を比べてもしょうがないの。昔にはもう戻れないんだから。良いスピリットや良い音楽、良いアイデアを世代を超えて、どういう風に共有していくか。それはもう試行錯誤してやっていくしかない。この『THIS! オルタナティブ』は、その顕れの一環なんです。
──なぜ佐野さんは、そんなに前を向いていられるんですか? かれこれ35年以上にわたって。
情熱があるんだろうね。ロックンロール音楽が大好きという情熱が、おかげさまで変わらない。12歳のとき、ザ・フーのピート・タウンゼントがストラトキャスターを持ってジャンプしている写真を見た日から、ここまで。おんなじです。
──その常に前進していく姿勢、かつてのレーベル設立や雑誌の立ち上げなどもですが、それがファンはもちろん、ミュージシャンにとっても佐野さんから目が離せないほど面白くて。30〜40代の後追いのファンが追い切れないほど前に前に進んでいく。
いっぱいいろんなことをやってるからね(笑)。それを面白がってくれて、本当に僕はうれしいですね。そこを面白がってくださいと、逆に言いたいくらいだから。うれしいです。
「ノスタルジー音楽をやるつもりは僕は毛頭無い」(佐野元春)
──35年以上も活動していると、どこかでひと区切りというか、ちょっと後ろをふり返ってみたりはないんでしょうか? 往年のファンに向けられたライブもたまにありますが、それよりも前を向いてることの方が圧倒的に多いですよね。
そうですね。ノスタルジーというのは、音楽が表現できる良い情感ではあるんだけども、やっぱりそれだけでは僕はつまらない。ノスタルジーを求めて僕のコンサートに来てくれる古くからのファンにはもちろんそれを感じてもらいますけども、僕は常に15歳から25歳の聴き手に、ひょっとしたら出会うことはないかもしれないけど、彼らに自分の新しい音楽を聴いてもらいたい。そう思ってる。
──その15歳から25歳というのは、やはり感受性ですか?
そうだね。自分も過ぎた世代だから分かるんですけど、多感な頃に観た映画や読んだ本、聴いた音楽ですよね。触れたいろんな出来事、そこで得たものがひとつの尺度となって、それから先のいろんな物事を測っていく物差しになるのではないかと思うんです。だからそうした感受性の強い世代に、今の僕のアートをぶつけて、なにかを感じて欲しいというのは、欲望としてあります。
──そこは音楽活動のなかで、意識せざる得ない部分でもあると。
そう。僕はね、クラシックやジャズをやってるんじゃない。僕が作っているのは、ロックンロール音楽だと。ロックンロール音楽というのは常にビビッドで、今にフックしていく音楽ですから、古い世代のためのノスタルジー音楽をやるつもりは僕は毛頭無い。やはり15歳から25歳の彼らに、なにかしらアピールする、なにかしら感じてもらえるということを、たとえそれが実現できなくても、それをイメージしながらやってる、うん。
──それはチラッと噂で聞いた、ニューアルバムでも?
そうです。今年は3枚新作を出したいと思ってるんですね。正確に言うと、5月31日に2枚組ライブアルバム『佐野元春 & ザ・コヨーテ・グランド・ロッケストラ』を、7月にTHE COYOTE BANDとの新作アルバム。そして、11月にThe Hobo King Bandとのセルフカバー、これらをドロップしようと。特に7月にリリースするTHE COYOTE BANDとの新作アルバムは、時間をかけてじっくりいいアルバムにしようと。結成して11年、もう11年経ったのかとも思うんですけども、これまでスタジオアルバムを3枚出してきてます。『COYOTE』『ZOOEY』『BLOOD MOON』。これに続く4作目ということで、真価が問われる4作目ですから、ここで思いっきり新機軸のTHE COYOTE BANDサウンドをぶつけていきたいと思っています。
──なるほど、ライブとともに、そちらも楽しみにしています。先ほどからお話をお伺いしていると、決して振りかえるタイプではないと思うんですが、佐野さんがこれまで歩んでこられた35年というキャリアの重み、その結果、先に見えているものがあるのであれば、最後にお聞きできればと思うんですが。
そうですね。まず、30年の重みは自分では感じないんですね。むしろやってきたことは、忘却の彼方というか。アニバーサリーイヤーには、自分がどんな仕事をしてきたのかというのをファンのためにも調べないといけないので、振りかえることはあるけれども、それ以外では振りかえる必要がない。前に、前に向かっている感じですよね。それと、未来のことが見えてるかというと、それも予言者ではないので見えてないけれども、感覚的にはこういうはずなのに、なんでこうじゃないんだろう?というのがずっと続いているというか。自分がイメージするその地平線に向かって、なんていうか、ポンと膝を叩けるところまで、いろいろやっていくしかないんだ。そういう感じ、早く膝を打ちたいよね(笑)。
佐野元春 presents『THIS ! オルタナティブ 2017』
出演:佐野元春 & THE COYOTE BAND、Gotch & The Good New Times、サニーデイ・サービス、カーネーション、中村一義、七尾旅人
日時:2017年3月25日(土)・17:00〜
会場:フェスティバルホール(大阪市北区中之島2-3-18)
料金:6800円(全席指定)
※3歳未満入場不可、6歳以上チケット必要
佐野元春オフィシャルファンサイト
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