松井玲奈、アイドルから女優への脱皮
「最初は居場所がないような感じがしていた」(松井玲奈)
──今回の物語は、松井さんが音楽ユニット・チャラン・ポ・ランタンとコラボしたシングル『シャボン』(2016年)を酒井監督が聞いて完成したと聞きましたが。
酒井さんが私のことを知っていてくださっていて、脚本に行き詰まっているときに『シャボン』を見たんだそうです。ナノカと関係をもつ新しいキャラクターとして、私をモデルにしたリナが生まれたとき、脚本の筆がまた進むようになったと。それを後から聞いたときは「ああ、うれしいな」って思いましたね。とはいえ、自分のすごくパーソナルな部分というより、アイドルの松井玲奈をイメージして書いてるんですね。なのでナノカちゃんと接するときも、「後輩に想いを伝えたり、注意したりしたときのことを思い出して演じて欲しいです」と言われていたので、自分でありながら、ちょっと自分とも違うところもありましたね。
──リナというのは、物語を導く上で重要な役どころではあるんですが、ファンタジー側のお母さんのようでもあるし、現実世界のお姉さんでもある、すごく難しい距離感で演じられていましたね。
そうですね。先輩が後輩を見守る関係でありながら、でも、ナノカにとって居ないお母さんにも見えて欲しいとは言われていたので。監督だけでなく、お母さん役の松本まりかさんも一緒になって、作品のことを話したりしましたね。なので、まりかさんの力も大きかったです。
──ナノカ役の原菜乃華さんとはどうでしたか?
普通に、「最近、学校でなにしてるの?」とか、日常的な会話が多かったですね。最初はお互い人見知りで距離があったんですけど(笑)、でも、リナとナノカが近づいていくように、自分たちも距離も縮まって、すごく作品とリンクする不思議な感覚でしたね。
──ラストのシーンは、酒井監督は相当苦労されたということでしたが。
私はそのあたりのお話、あまり聞いていなくて。ただ、脚本と出来上がったものとでは、核になる部分が違うというか。最初はナノカの物語だったんですけど、最後の最後で、原菜乃華ちゃんのドキュメンタリーを見ているような感覚にさせられる映画だなって。ただ、セリフを変えずに、見せ方をちょっと変えるだけで、話の主軸がこんなにもガラッと変わるんだなと。ファンタジックなところから、より現実に近い作品になったなあと、初号試写を見たときに思いましたね。
──子役女優の原菜乃華さんの成長を後押しする映画でありつつ、酒井監督の想いも強く込められているからか、大人も共感できる映画になりましたね。
酒井さんも、自分自身が子どものときに直面した想い、真実なのかウソなのか、夢を見ていいのか、夢って叶うのか、そういう気持ちを映画に盛り込んでいると言っていて。私も分かるなってところがありましたし、大人の方もハッとさせられるような、真っ直ぐな作品になったと思いますね。
──それと、松井さん出演の映画としては立て続けに、『笑う招き猫』もあります。清水富美加さんと漫才コンビを演じた「しゃべくり倒し」のガールズ・ムービーですが、こちらの方はまたガラリと印象が変わりますね。
周りの人にも、「今までにない役で、殻を破ったよね」って言っていただけますし、作品としても、諦めるとはどういうことかを描いているので、自分が今直面している問題だったり、自分が歩いている道に迷いが出たときとか、かなり刺さる言葉や状況が多いんじゃないかなと思います。出てくるキャラクターがみんな、なにかにつまずいたり、諦めたり、それでも続けようと思ったり・・・漫才コンビのお話ですが、そういう葛藤を描いた映画でもあるので。
──メガホンをとった飯塚監督は、2016年にドラマ『神奈川県厚木市ランドリー茅ヶ崎』でもご一緒していますが、監督はどんな方ですか。
毎回、いろんなことを教えていただけるので、一緒に撮影をすると、背筋が伸びるというか。とても作品に対して誠実な監督さんだなって思ってますね。
──飯塚監督といえば、映画『風俗行ったら人生変わったwww』やドラマ『荒川アンダー ザ ブリッジ 』などが有名ですが、作風からして現場は和気あいあいとした雰囲気なのかなと勝手に思っていました。
そういうときもありますけど、締めるところはしっかり締めてくれるというか。私はもともとアイドルで、今はお芝居をやりたくてそういう活動をしていますが、最初はどこに行っても居場所がないような感じがしていたんですね。それを、「君たちは俳優部なんだから、俳優部としてちゃんと仕事をしよう」というスタンスで、「お前もチームのひとりなんだから、ちゃんと自覚を持て」と面と向かって言ってもらえるおかげで、すごく背筋が伸びるなと思っていつも現場に行ってました。
──そもそもSKE48を卒業した後、いろんな道があると思うんですが、なぜそのなかで女優を選んだんですか?
私はもともと芝居がしたくて芸能界に入っていたので。アイドル志望じゃなく、お芝居というものを勉強するために、ステージに立っていたということですかね。
──アイドルを経験をしたからこそ、お芝居に生きている部分もある?
舞台度胸みたいなものは、アイドルとしてずっとステージに立っていたからこそあるものだなって思いますね。基本的には人見知りなんですけど(笑)。歌も表現のひとつだと思ってアイドルをやっていたので、勉強になることは多かったです。
──今回の『はらはらなのか。』『笑う招き猫』もそうですが、ドラマ『ニーチェ先生』、舞台『新・幕末純情伝』など、アイドル時代のイメージにとらわれない、女優・松井玲奈の底知れぬポテンシャルを楽しみにしている人も多いはずです。すごく期待してます。
ありがとうございます。がんばります!
映画『はらはらなのか。』
2017年4月1日(土)公開
監督:酒井麻衣
出演:原菜乃華、松井玲奈、吉田凜音、ほか
配給:SPOTTED PRODUCTIONS
映画『笑う招き猫』
2017年4月29日(祝・土)公開
監督:飯塚健
出演:清水富美加、松井玲奈、落合モトキ、
配給:DLE
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