石井裕也監督「到達点ではなく出発点」

2017.5.26 20:00
(写真3枚)

「感受性を総動員して観てもらえれば・・・」(石井裕也監督)

──その池松さんの相手役を、石橋凌さんと原田美枝子さんの娘の石橋静河さんが初主演で演じています。

緊張していましたね。ずっと不安に苛まれているようでもあったし。でも、言ってみれば、それが劇中のヒロインの心情と同化していた部分でもあったので、それでよかったんです。だから、ふっと気が抜けたようになったときだけ引き締めるようにはしてました。

──彼女の緊張や不安を利用したと(笑)。そして、池松さんの仕事仲間には、松田龍平さんと田中哲司さんという強力なメンバーがキャスティングされています。

松田さんとは『舟を編む』以来の顔合わせで、あの作品が終わった後、次はどういった作品で一緒にやるか、お互いにずっと気にしていたんです。年齢が同じってこともあるし。で、この役を考えている時、ピンと来たんです。それで彼に「普通の人の役だけど、いい?」って訊いたら、「何でもいい、絶対やるよ」って言ってくれて。松田さんは普段から普通な感じはあんまりしないですが、それでもときどき見せる普通の人の部分、それがこの役にうまくはまった感じはしてます。

© 2017「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」製作委員会
© 2017「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」製作委員会

──確かに。田中さんが演じている、愚痴ばっかり言ってる、くたびれた中年男も存在感がありました。

僕もいろいろバイト経験はあるのですが、こういう人って実際にいますよね。正直言って、こういう人にはなりたくないなって思う。でも、その半面、ひょっとしたら自分もこうなってしまうかもって不安もある。普段は少し距離を置きたいけど、この人にもこの人の人生があって、家族や大切な人もいるかもしれないって考えると、急に愛おしく思えたりもするじゃないですか。

──なるほど、そういう見方もありますね。

つまり、普段感じている感情の向こう側にある思いですよね。実は、これも最果さんの詩から得た印象なんですが、最果さんは感情の向こう側にあるものを覗こうとしているんじゃないかと思ったんです。そういう意味で、田中さんに演じてもらったオジサンは一見したらダメな感じの人だけど、でもその奥にピュアなものがあるんじゃないかと思えたりする、そういう人を登場させたかったんです。

──ここでも、最果さんが詩でおこなっているものを映画的に発展、踏襲したということですね。映画を観てくれる人には、どう観て欲しいとかありますか?

感受性を総動員して観てもらえれば、いままで見てきたものが違って見えるようになる、そんなことがあるかもしれないと思っています。それこそ詩を読んだ後のように。

──孫プロデューサーからの課題は見事にクリアしましたね。

映画を観た孫さんが、「これはオレの代表作になるかもしれない」って言ってくれたんです。課題をクリアしたということより、その言葉に感動して僕の方がグッときましたね。

『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』

2017年5月27日(土)公開
監督・脚本:石井裕也
出演:石橋静河、池松壮亮、市川実日子、松田龍平、田中哲司
配給:東京テアトル、リトルモア

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