入江悠監督「時代性を意識した映画作り」

2017.6.12 19:00
(写真3枚)

「いまだに『サイタマノラッパー』を引き合いに出され・・・」(入江悠監督)

──里香なんかは阪神淡路大震災で犠牲になった人たちのことがずっと忘れられない。自分なんかより、生き続けるべき人がいたんじゃないかと苦しむ。そこにとらわれて生きるのも、なかなか辛い。

結局は、そういう気持ちはやはり当事者じゃないと分からない。僕も学生時代、阪神淡路大震災を体験した人から当時の話を聞いて、「そういうことを抱えて生きているんだ」と感じましたし。テレビドラマ『サイタマノラッパー マイクの細道』では主人公たちに(2011年に震災があった)東北地方を回らせていますけど、それは『22年目の告白』で阪神淡路大震災のことを調べていた影響があるんです。天災って原因を追求できないものだし、そのカタストロフィ(悲劇的な結末)をどう受け止めたらいいのか。どれだけ時間が経ってもその答えは出ない。それって、この映画で起きる殺人事件の被害者の意識に結びつけることができるんですよね。

© 2017 映画「22年目の告白−私が殺人犯です−」製作委員会

──なるほど。これまで、「時間」「時代性」を中心に話を進めてきましたけど、ひとつ入江監督にお聞きしたいことがありまして。先日発行された『映画秘宝EX 究極決定版 映画秘宝オールタイム・ベスト10 』(洋泉社刊)に入江監督もベストテンを挙げられて、そこでのコメントで「これからの監督人生がどうなっていくのか悩んでいた。でも好きな作品を並べてみて、自分の進むべき道が見えてきた」と書いておられて。その悩みって、この『22年目の告白』と何か関係があるのかなと。

この作品が完成まで3年くらいかかっているんですけど、その製作期間って、自分がメジャーで作品を撮り出した歴史と重なっているんです。『サイタマノラッパー』という青春映画でわりと注目をされて、お仕事をいただけるようになったんですけど、今でもそこの枠組みのなかで見られることが多い。メジャーで映画を作り続けていても、毎回言われるんです。「入江さんがこういう映画を撮るとは思わなかった」って。最初に世に出たきっかけの作品は、ずっとイコールで繋がっちゃうんですよね。

──今回もきっと言われますよね、「入江監督がまさかこういう映画を・・・」って(笑)。

ですよね。でも、オールタイム・ベスト10を考えて気づいたのが、結局今の自分は、子ども時代や青年期に観たものの影響でしかない。当時の僕にないものは、これからも絶対に自分の映画作りには影響として表れてこない。小学生のとき、アーサー・コナン・ドイルの作品(『シャーロック・ホームズ』など)が好きで、最初に小説を書いてみようと思ったのが探偵モノだったんです。いまだに映画館に観に行く作品はミステリー、サスペンスが多い。逆に意外と観ないのは、青春映画なんです。そうやって自分のルーツ的なものがちゃんとありながら、いまだに『サイタマノラッパー』を引き合いに出されていることへのギャップに悩んでいました。

「自分のルーツ的なものとのギャップに悩んでいた」と語った入江悠監督

──なるほど。

あと、社会性や時代性にはやっぱり興味があるんです。それって田辺さんくらいかも、指摘してくれたのは。あまり誰も言ってくれない。だけど『サイタマノラッパー』もそうだし、『劇場版神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まない』(2011年)もそうですけど、作品にはどこかで時代性を入れています。

──前作のSF映画『太陽』(2016年)や、あとWOWOWのドラマ『ふたがしら』(2015年/2016年)も時代劇ながら現代性を確実に意識していましたよね。

そうなんです。自分が生きているこの現実と作品は地続きであって欲しい。だから、学校のなかだけで展開する恋愛映画なんかは、僕には撮れない気がする(笑)。『桐島、部活やめるってよ』(2012年)のようなアプローチもありますが、あの作品はすごく高度なことをやっていますし。今の僕には難しいかもしれない。どういう題材でも、自分たちの生活にフィードバックさせたい。『ターミネーター2』(1991年)が好きなのは、そこができているから。これからも、時代性を意識して映画を作り続けたいですね。

映画『22年目の告白−私が殺人犯です−』

2017年6月10日(土)公開
監督:入江悠
出演:藤原竜也、伊藤英明、夏帆、 野村周平、仲村トオル、ほか
配給:ワーナー・ブラザース映画
大阪ステーションシティシネマほかで上映

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