廣木隆一監督、故郷・福島を想う「撮れなくてもいい、と」

2017.7.14 18:00

福島の現在を、憤りを抱えながら逆に淡々と描いた廣木隆一監督

(写真5枚)

「上辺だけならして、放ったらかしにされている」(廣木監督)

──監督が自主制作でこの映画を作られていたら、それも面白そうですね。

今回の映画より、もっと過激なものになっていたかもしれませんね(笑)。あと震災後の風景といえば、もうひとつ強く心に残ったものがあって。今回の映画化のロケハンで福島県のいわき市に行ったのですが、ただただ平らに地ならしされた土地が荒涼と広がっているんです。

ほとんど無機質な感じさえして、薄ら寒いというか。それを見て、震災に遭われた人の心も、同じようにされているんじゃないかと思ったんです。上辺だけならして、放ったらかしにされている。そのとき、今の福島のことを描かなくてはと強く思いました。

──だから、この映画には、震災後の町や人のことを描いたほかの映画には出てこない、例えば補償金で無為な日々を送っている人とか、放射能がらみの怪しげな壺を売る男とか、仮設住宅でバッシングを受けている原発の従業員とか出てくるわけですね。

すべて、被災地で実際に見聞きしたことです。なかでも印象に残ったのが、放射能汚染によって立ち入り禁止区域にされた場所にお墓があると、そこから骨を移すこともできないという事実でした。新しい場所に新しいお墓を建てても、そこに先祖伝来のお墓に眠る骨を持って行けないんです。劇中でも「そんな新しい墓になんの意味があるんだ」と麿(赤兒)さん扮する老人が怒るシーンがありますが、まったくだと思います。

© 2017「彼女の人生は間違いじゃない」製作委員会

──あと、観ていて腹立たしかったのが、卒論のためだかなにかで、他府県からやってきて「実際に津波を目の当たりにしてどう思いましたか?」なんて平気で訊く女子大生。あれで自分は、社会的な「いいこと」をしている気になっている。

あのシーンは撮っていて面白かったですね。女子大生役の小篠恵奈が役にハマっていて。質問を受ける側の柄本時生の芝居も良かった。目が点になっててね(笑)。

──今回の『彼女の人生は間違いじゃない』では、主人公・みゆきが、普段は市役所で働いているのだけれど、週末には東京に出てデリヘルで働くという設定になっています。監督の映画『さよなら歌舞伎町』にも、よく似た設定の少女が出てきます。

主人公の妹が週末ごとに上京してAV出演していて、ラブホテルで働く兄と偶然会ってしまうというお話だったんですが、(脚本の)荒井晴彦さんに「この子は東北出身っていうことにしましょうよ」って提案したんです。そのときには、今度のヒロインを同じような設定にしようという考えはありました。

市役所に勤務しつつ、週末は東京でデリヘルで働く主人公・みゆき © 2017「彼女の人生は間違いじゃない」製作委員会

──なぜ、彼女はそんなことをするのか、ですよね。『さよなら歌舞伎町』の少女は経済的な理由ですが、今度のヒロインは違う。答えは映画を観て考えることだと思いますが、ひとつ言えるのは、彼女にはそうしないと収まらない気持ちがあったということですよね。

そうだと思います。彼女は、愚痴まじりに震災のことを口にして働こうとしない父親を「いいかげんにして!」と非難しますが、実は震災にとらわれ、そこから一歩を踏み出せないでいるのは彼女も同じなんです。

──演じた瀧内公美さんは熱演しています。

難しい役なんだけど、一生懸命やってくれました。

──デリヘル従業員役の高良健吾さんを相手に、「どうしても働きたいんです」って怒ったような思いつめた顔で言うシーン、印象深かったです。

あそこは確か一発OKだったように思います。(高良)健吾がうまかったよね。瀧内の芝居をうまく受け止めてくれて。

「ここまできたらどんどん撮ってやろうと」(廣木監督)

映画『彼女の人生は間違いじゃない』

2017年7月15日(土)公開
監督:廣木隆一
出演:瀧内公美、光石研、高良健吾、柄本時生、ほか
配給:ギャガ

  • LINE
  • お気に入り

関連記事関連記事

あなたにオススメあなたにオススメ

コラボPR

合わせて読みたい合わせて読みたい

関連記事関連記事

コラム

ピックアップ

エルマガジン社の本