上半期、抜群に面白かった外国映画

2017.8.23 18:00

左からミルクマン斉藤、田辺ユウキ、春岡勇二の座談会メンバー

(写真1枚)

「あんな神妙な心持ちになっていいのか」

田辺「僕ヤバかったです。興奮が抑えられなくて(笑)。テーマがあんなに重たいのに。ヒーローがヒーローじゃなくなった瞬間というのは、今までいろんな映画でやってますけど、まさかヒーローの最期まで見せるって」

斉藤「あそこまで老いさらばえて、もう(プロフェッサーX役の)パトリック・スチュワートが哀れで哀れで…。ええんか、あんなん?」

田辺「衝撃的でしたね、ヒーローの老人介護というのは。てか、老老介護だった」

春岡「そうだよね、ローガン自身がかなり年老いていて。ローガンの場合、年を重ねるということは、修復作用が弱くなってるってことだから。あれ痛そうだもんな」

田辺「一般人にも若干ボコられてしまうシーンもあって」

斉藤「いや〜、あれはキツい。でも、あんなキツい映画を撮るのがジェームズ・マンゴールド監督やと思ってさ、俺はスゴいうれしかった。前の『ウルヴァリン:SAMURAI』は彼らしさがゼロやったのに、それが今回は一体どうしたん!って」

田辺「ヒーローの死に際としては、もう最高の映画でしたね。まあ、これまでのシリーズが大好きならば、今回のは相当ショックがでかいですけど(笑)」

斉藤「あんな神妙な心持ちになっていいんだろうか。厳粛な雰囲気すらする」

田辺「パトリックス・チュワートがあんなヨボヨボで、注射を打たれて精神を安定させるとか」

斉藤「ほんまにやりたい放題。今回はもはやアクションでさえなく、ただ肉体を切り刻んでるって痛さがねえ」

田辺「全然アクションがないんですよね、あの女の子以外は。マーベルは、誰もやってないことをまずやろうという気概がある」

斉藤「DC(コミックス)はまだ旧態依然としてるでしょ。だから『ワンダーウーマン』はさ、わざわざ第一次大戦の戦争スパイ映画のフォーマット借りて作ってるから、そのフォーマット内ではすごく良く出来てるのよ。ツッコミどころは多々あるけどね。でも本当はそんなのどうでもよくて(笑)、すべてはガル・ガドットの魅力に尽きる。どの瞬間も女神のように神々しくて」

田辺「今年一の眼福という(笑)」

斉藤「ガル・ガドット様と言いたくなるようなさ(笑)。前作の『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』を撮ったザック・スナイダーって、なんかもうどうしようもない気がするのね。だから『モンスター』(2003年)のパティ・ジェンキンスみたいな演出力のある人に任せるのが正解」

田辺「あと上半期は『メッセージ』ですよね」

斉藤「いやぁ、(原作者の)テッド・チャン好きとしては、改変部分も含めてめっちゃうれしい出来やったね!」

春岡「全然面白かったけど、真新しいとか珍しいとかは思わなかった。あの宇宙船が突っ立ってる絵を見て、モノリス(一枚岩)かなと。で、『2001年宇宙の旅』っぽい映画かと思って観に行ったら、ああそうかファーストコンタクト(異星文明との接触を扱ったSFの主たるテーマ)かという」

斉藤「ファーストコンタクトによって力が覚醒する、という映画は前にもあったかもだけど、そのツールが言語ってのがいいのよね。人類のものとはまったく異なる体系を持つ異文明の言語を習得していくにつれ、自分のなかに潜んでいた能力が目覚めていくという。それで宇宙は救えても自分の家庭は救えないという、すごくペシミスティック(厭世的、悲観的)なところもドゥニ・ヴィルヌーヴらしい」

田辺「あと、『ライフ』とか観ててもそうですけど、今の宇宙人の造形ってちょっとああいう風に考えられてるんやなと。クラゲっぽいというか」

斉藤「『メッセージ』の場合は原作がそうなのよ。ヘプタポッド(地球外生命体)はああいう感じ」

田辺「ああいう捉え方されてるんや、今の宇宙人像って」

斉藤「あと、中国との関わりとか原作にはないし、そもそもあんなサスペンスフルな話じゃないのよ。短編やし、もっと言語学寄りなんだよ」

田辺「最初の宇宙船に入っていくところの、空間がちょっとよじれるシーンとか良かったですよね。宇宙船のなかに観てる側もちゃんと入っていけるし。時空が歪むっていう」

斉藤「あれも映画のオリジナル。原作にはないよ」

田辺「ないんですか!じゃあ見事な演出ですね」

春岡「時空が歪むと言えば、2010年の『インセプション』。ディカプリオらが出てて、空間が上下に移動するという。当時はあれがアカデミー賞の視覚効果賞だったけど、今や『ドクター・ストレンジ』なんか全然平気でやってんじゃん。で、下手すりゃ映画館で酔いそうじゃん。悪い意味じゃなくて、ホントにビックリハウス状態に映画館がなるという。スゴイよね」

斉藤「この世はマーヤ(幻)であるというヒンドゥ思想とかまで取り入れて。極彩色のサイケデリックな幻覚とか、幽体離脱しての格闘とか、3Dであることの必然性も考え抜いてる」

田辺「そうですよね。幽体の離脱を3Dで見せるって、優秀なクリエイターならすぐに考えつきそうなもんでありながら、実はなかなかないですね」

春岡「やっぱり、あれができるのが映画だもんね。ほかのメディアやエンタテインメントではああいう表現はそうできない。演劇とかオペラでもあれは難しいから。だいたい、観客が実際乗り物酔いするぐらいの感覚ってのは、映画館でしかできないと思う。それはそれで大事な強みだよ」

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