黒沢清監督「奪われた側は自由になれる」

劇作家・前川知大率いる劇団「イキウメ」の人気舞台を映画化した『散歩する侵略者』。数日間、行方不明だった夫がまるで別人のように穏やかになって帰ってきたことに戸惑う妻・鳴海は、夫から「地球を侵略しに来た」という衝撃的な告白を受ける。戸惑いながらも夫婦再生のために奔走する妻だったが、侵略者は、人間から「概念」を奪っていき、やがて町は不穏な世界へと姿を変えていく・・・という物語だ。メガホンをとるのは、『トウキョウソナタ』(2008年)、『岸辺の旅』(2015年)など、海外でも高い評価を受ける黒沢清監督。来阪した黒沢監督に話を訊いた。
取材・文/田辺ユウキ
「なんとなくの直感で作っています」(黒沢監督)
──この映画を観てまず驚いたのが台詞の多さです。まさに、原作の舞台さながらという。
それでも(原作より)大分少なくしています。ただ、場面によっては原作の台本とかなり近いところもあります。長澤まさみさん、松田龍平さんが演じた夫婦の掛け合いは、特にそうです。とは言っても、これは舞台ではなく映画。登場人物が暮らしている街なかで、そこまで多くの台詞のやり取りをやって良いものかどうか、「不自然じゃないかな」と悩みもしました。ただ、そういう部分が自分にとっては初めての試みで、新鮮でしたね。
──特に、同じ単語を何度も口にしたり、その言葉の意味についてやり取りを繰り返したり。間延びさせてもいけないですから、話をどの辺りで切り上げるか重要ですよね。
おっしゃる通りです。でも、あっさりと済ませることもできません。どの程度にしようか確信を持てなかったのですが、でもまあ・・・基本は俳優のノリに任せて、適当でいいのかなって。
──僕が黒沢監督の作品が好きな理由はそこなんです。設定などに関してそんなに複雑に語らず、非現実的なことが起きてもナゼなのかとかいちいち突っ込まない。傑作『岸辺の旅』とかその象徴ですよね。登場人物は何があっても「あ、そういうものなんだ」と受け入れられる世界。「フィクションなんだから、まあいいじゃない」という感じで。
そのあたりは、何度やっても何が正解かよくわかりませんね。脚本ではかなり慎重にちゃんと説明されているかこだわりますし、撮っているときは、突飛な設定であるほどリアルであることにこだわります。ところが、編集で繋いでみたら、「あ、これは要らないな」という感じでどんどん削ってしまいます。映画を作っているときは最終形なんて誰も予測できないし、何をもって「完璧な映画」なのかも分からない。だから、変な言い方ですけど、そのときの「なんとなく」の直感で作っています。
──黒沢監督だから許される言葉ですよ、それは(笑)。だって、本来の宇宙人モノなら、まずは地球へやって来るところから入りますよね。上空を見上げたら巨大な宇宙船が浮かんでいるとか。でも、『散歩する侵略者』はすでに日常に入り込んでいて、人間もそういう状況を認めている。その「なんとなく」が、黒沢監督がおっしゃる「適当」なんでしょうか。
演劇の台本がそんな感じでした。映画にする際、もちろん押さえるべきところは押さえていましたが、科学的には絶対明確にしておかないとまずい基本みたいなものについては、案外適当かも知れません。でもそれって、SF、つまり科学のフィクションだから許されている部分でもあるんですね。例えば、そもそも宇宙人って、いったい何星人なんだと思いませんか?当初、この映画について議論をしたときに、真っ先に「宇宙人はどこの星から来たのか」と相当気になりました。ただ、金星人なのか白鳥座61番星人なのか、決めたところでそれが物語にとって何になるのかよくわからないわけです。

──たしかに宇宙人とひと括りになりがちですね、どんな作品にしても。
でも、結局そこをいちいち問わないってことは、つまりは適当なんです。宇宙人の侵略映画で重要なのは、彼らが地球に来たらどうなるかということです。その人が何者なのかとか、身元は問わない。ハリウッド映画もかなりリアルに宇宙人が地球にやって来たりしますが、でもどこからどういう風に来たのか、移動手段などあまり細かく描写されません。つまり適当です。大体がそうです。この手のフィクションのひとつのセオリーは、「適当」なのかもしれません。
──ただ、一方で内容としてはちょっと入り組んでいますよね。人間の概念を宇宙人が奪って知恵をつけていく。それが侵略に結びついていく。前田敦子さん演じる女性が、家族という概念を奪われてしまうところをまず観て、「え、何なの?」と思いました。しかも、黒沢監督が演出すると、ジョークも効いていて。
これも、原作のうまいアイデアです。観客にとって、宇宙人が概念を奪う行為に関しては、最初はふざけているとしか思えないかもしれません。しかし、だからこそ宇宙人と会話した人物たちは、みんな油断して話を合わせているうちに、どんどんそれが進行していく。実社会のなかで出回る情報も、だいたいこのような経緯を経ていつの間にかそれが本当のように扱われているんじゃないでしょうか。あと、松田さん演じる真治に「俺、実は宇宙人なんだよ」と言わせるべきかも迷いました。そんな台詞、現実では絶対言いません。でも、言わせると覚悟を決めたら、始めからコミカルにやるしかありません。そして、そう言われた妻・鳴海も「へぇ」としか反応しようがない。観ている側に「これはコメディ、なのかな?」という軽さを与えて、そこから段々と「いや、この人たちはどうも本気らしい」と思わせていくようにしました。
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