行定勲監督も絶賛「松本潤が映画を広げてくれる」(前篇)

「集大成だと思っている」と言い切った行定勲監督
高校教師とその生徒だった2人が、時が経ち、再会した後に一生に一度しか巡り会えない究極の恋に落ちる・・・。島本理生の代表作を、行定勲監督が映画化した『ナラタージュ』がいよいよ公開される。教師・葉山に嵐・松本潤、生徒・泉に有村架純という「12年待った」配役のほか、「(自分の)集大成だと思っている」と言い切る監督に本作について、映画評論家・ミルクマン斉藤がインタビュー!前篇・後篇でお届けします。
取材・文/ミルクマン斉藤
「日本の恋愛映画はわかりやす過ぎる!」(行定監督)
──監督はよく「恋愛映画の名手」と言われますね。『贅沢な骨』(2001年)や『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004年)、『つやのよる ある愛に関わった、女たちの物語』(2013年) 、そして『真夜中の五分前』(2014年)・・・。多くの傑作恋愛映画を作られているのは間違いないですが、今回の作品はさらに上を行く究極の1本かと。
ありがとうございます。ずっと言ってなかったんだけどね、僕は集大成だと思ってます。この企画は2005年からの因縁なんですよ。
──2005年というと、12年前ですね。
そう。(脚本の)堀泉杏と2人でこれをやろうと決めてから、ずっと機会を狙っていて。でも結局、この12年間はキャストに出会うまでの12年間だったなと。いろんな変遷があったんですが、どこかピンとこない。やっぱりピンとこないと相手も断るし。さらにこの(恋愛の)わからなさ加減がね・・・。映画の曖昧さというか、そこになかなか(プロデューサーに)乗ってもらえなかった。でも、そもそも恋愛って曖昧なものだろうと僕は思っていて。

──最近の日本の恋愛映画は、図式から一歩も出ようとしない。というか、分かりやす過ぎますからね。
そう、過ぎるんですよ! やっぱり時代が映画を作らせるんですね。もう、どんどん固定化されていて。むしろ恋愛映画は、なにか停滞を作らないといけないのに。島本(理生)さんの『ナラタージュ』は思いっきり停滞を作っている小説だったんです。そこがまず良いと思って。
──まさに監督は映画のなかで、時間を止めてますし。時計という象徴的な小物で。
この停滞した時間から抜け出せない主人公が、破滅に向かうというやり方もあるし、そうじゃなくて、なにか新しい未来を築くというやり方もある。とにかく主人公である泉(有村架純)の停滞した5~6年間の空気とか時間がすごく重要で。さらには、教師と生徒という、社会的には抑圧されなければいけないものが多すぎる関係だしね。卒業したからといって葉山(松本潤)は、先生であるわけだから。
──2人の立場が変わるものではないですからね。
そうなんです、それが停滞のひとつの理由でもあって。で、まずどうやって2人がコミュニケーションを取るかというと、DVDの貸し借りをするわけですね。これは現在(の恋愛)に対するアンチテーゼでもあるんです。だってLINEの交換なんかしちゃったら、あっさり結論だけ交わして、スルッと進んじゃう。でも、「きっと先生は、ヨーロッパ映画が好きだ」と。
自分はまったく興味なかったのに、「私も好きなんですよ。なにかいいの貸してください」とか言ったりして、そうして勉強していくじゃないですか。そのうち、先生がまだ観てないであろう映画を、自分で今度は手に入れたりしてアプローチしていく。彼女からすれば背伸びしているのかも知れないけど。
──いかにも文科系な、シネフィル的恋愛のプロセスですよね。もともと島本さんの原作にもいっぱい映画が出てきて、ビクトル・エリセの『エル・スール』とかラース・フォン・トリアーの『ダンサー・イン・ザ・ダーク』とか。そのまま映画にも取り入れられてるのはありますけど。もともと「ナラタージュ」という言葉も映画用語(※ある人物の語りや回想で過去を再現する手法)だし、まさに言葉通りの枠構造で、この映画も出来上がっていますが。
原作で泉が「配給会社に勤めたい」って言うと、葉山が「じゃあ君が選んだ映画を、僕は観ることになるのかな」なんて言う部分が印象に残っていて。たぶん、あれが葉山の愛の高め合い方で、泉にしても高校3年生から再会までの数年間、別れていても高めていっていた。あの高め合いっていうのは、2人がかなりのレベルのものを・・・クロード・シャブロルの『いとこ同志』とか(笑)、そういうのを観たりしていたからだと思うんです。映画っていろいろ教えてくれるから。
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