吉田恵輔監督「逆なんです、芝居をしないのが芝居なんで」

2018.2.10 18:00
(写真7枚)

「あざといものが上手い、が今の日本の風潮」(吉田恵輔監督)

──彼をキャスティングするのに、NHKのドラマ『下流の宴』とタナダユキ監督の『ふがいない僕は空を見た』を判断基準にされたそうですが、まさにああいった作品で見られた窪田クオリティが全開ですからね。

なんか、ドキュメンタリーを見ている感覚に近いんですね。それがお芝居だと思うんだけど、日本のお客さんのお芝居の感覚って「ちょっと作った芝居がお芝居」みたいな感覚があるじゃないですか?「そんな人に俺は1回も会ったことないぜ」っていうのばかりで。なんか日本ってちょっとズレてるんですよね。

クソ真面目で優しいけれど、実は姑息な弟を演じた窪田正孝 © 2018「犬猿」製作委員会

──まあ、一般的には舞台をやってる人が上手いと思い込みがありますよね。しっかりと観もしないで「アイドルの芝居なんかリアリティがなくて下手」だとか。多くの場合、本当は逆なんですけどね。

そう、逆なんです。だから、俺がすごく上手いと思ってる人は『芝居をしてない』と思われがちで。でも、芝居をしてないことが芝居なんですよ。俺が照明をやってたとき(監督は塚本晋也映画などの照明出身)、『理想のライティングは?』って訊かれると、「部屋にホントに自然光が差してるだけのように見えるライティングがベスト」だと。バレないことがベストなのに、なんかあざといものが上手いと思われるのが今の日本の風潮だから。

──そういう方法論というのは、例えば『ヒメアノ〜ル』みたいな極端な物語でもそうですよね。森田剛さんなんか凶悪サイコな役なんだけど非常にナチュラルで脆くて。そういうのが監督のタッチだとは思うんですけど。

そうですね。日本がそういう感覚になって欲しいという思いもあるけれど、役者がみんなナチュラルな芝居を演り出したら、監督としての俺の影が薄くなってくるんじゃないかなと(笑)。

──特に今回の窪田さんの役は、どこまでも普通のサラリーマンですからね。それが、真逆のヤクザな人生を送るお兄ちゃんに、「地道にチマチマ頑張ってきた成果がこれかよ!」と、小市民にとっては虚しいにもホドがある命題を突きつけられて、人を殺しそうな目をするわけですが。

地道な人生って、別にそれはそれでいいと思うんです。ボロ儲けするやつが羨ましくて、「いいよなぁ~。でも俺は俺でこの生活でも大丈夫」って言うのならいいんだけど、見下すように「いや、俺は興味ないし」みたいな感覚って、余計息苦しいじゃねえかって。 自分が日常から抜け出せないことを誤魔化そうとしているというか、諦めているというか。そういうのが俺は気持ちが悪いんですよね。

凶暴でトラブルメーカーの兄を演じた新井浩文 © 2018「犬猿」製作委員会

──お兄ちゃんにしたって、儲けたからって何が悪いっていう。

「金が欲しくてみんな働いているんじゃねえの?」ってね。

──その乱暴者のお兄ちゃんを演じるのは新井さんですが、この4人のなかでは比較的、今までよく演じてきたキャラクターとさほど乖離がないですよね。

そうなんです。もうちょっと人間味が弱いイメージがこのキャラクターにはあったんだけど、新井さんを自由演技で泳がせていたら、そっちのほうがリアリティがあるなと思って。言い方がたまに子どもじみてたり。そのまま泳がせて、そのまま泳いで帰ってもらおうと。

映画『犬猿』

2018年2月10日(土)公開
監督:吉田恵輔
出演:窪田正孝、新井浩文、江上敬子、筧美和子、ほか
配給:東京テアトル

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