二階堂ふみ「あの頃退屈で仕方なかった」
満ち足りたモノに楯突くように、焦燥感や虚構感が蔓延した1990年代。その時代の若者の欲望と孤独、日常への違和感を鮮烈に描き出した、岡崎京子の代表作『リバーズ・エッジ』。本作で主人公・ハルナを演じた女優の二階堂ふみは、この作品のどこに魅入られたのか。映画評論家・ミルクマン斉藤が話を訊いた。
取材・文/ミルクマン斉藤 写真/滝川一真
スタイリスト/髙山エリ ヘアメイク/足立真利子
「作品の空気感をそれぞれが考えていました」(二階堂ふみ)
──二階堂さんが岡崎京子さんの原作コミックを初めて読んだのは16歳、『ヒミズ』(園子温監督/2012年公開)を撮られていたときだった、とか。
はい。主人公・ハルナと同じ歳のときでした。
──僕は岡崎さんと同い年で、『リバーズ・エッジ』が出版されたのは31歳でした。彼女はひとまわり下の世代を描いたわけですが、どんな文学・演劇・映画よりもその時代の「実体感のなさ」を露わにして、当時の大人を震撼させたんですね。僕なんか今読み返してもヒリヒリするんですが、16歳の二階堂さんがどう魅入られたのかが気になるんです。
若者って、大人が思ってる以上に孤独というか。『リバーズ・エッジ』は、大人になれば自分のなかでかさぶたができて肌が硬くなって感じないこと、逆に子どものときは何にも分からないからスルーできたことが、どんどん分かり始める微妙な年齢の話だと思うんです。そういう時期にあの原作を読んだので、なんか見透かされているような気持ちになって。自分が感じてることをそのまま、漫画のキャラクターたちが思っているのが衝撃的でした。
──出演オファーはいつ頃届いたんですか?
初めて読んでから半年後くらいに、とあるプロデューサーの方が映画化のお話を持ってきてくださったんです。
──残念ながら、その当時は映画化が叶わなかった。
はい。でも、ずっと頭の片隅にありました。20歳になったときも、あの作品を10代でできなかったという焦りがあって。現場に入れたのが22歳だったので、最初はちょっと怖かったですね。あのときならもっとリアルな感じでできたかもしれないけど、5~6年の間に私も変化したので、そんな自分がこの「分からない」感情を表現できるか不安はありました。
──でも、30歳前の岡崎さんが17歳を描いたように、この作品の在り様において結果的には良かったんじゃないですか?
そうですね。撮影後は、22歳でできて良かったなと思いました。(17歳の頃を)振り返ってできたし、考えながらできたし、ちょっと俯瞰で見られたし、ただ感情に任せる以上のことができたかなと。今回はキャスト全員が20代だったのですが、自分とキャラクターと『リバーズ・エッジ』という作品の空気感というもの(の関連性)をみんなそれぞれが考えていました。
──役者として、どうではないと。
そうですね。自分がどう映りたいとかとか、どうお芝居したいとかじゃなくて、その場でどういう風に生きればいいのか、どうすればこの感情を表現できるんだろうということを、改めて考えることができました。行定監督がインタビュー・カットを直接私たちに突きつけてくださったことで、より考えるようになったと思います。
──行定監督は、今までコミック原作映画の否定派を公言されていました。この映画の撮影前、僕にも「すいません、裏切ってしまいました」なんておっしゃっていて(笑)。
私もそういうことを考えずに行定監督にお願いしてしまったんですが、20歳で初めて『釜山映画祭』でお会いしたときから、行定監督に演出していただけないかなと思っていたんです。そうしたらその後、私の舞台を見に来てくださったので、楽屋裏で「やっていただけませんか?」ってお願いしたら、「あ~、やるやる!」って言ってくださったんですけど。実はすごく悩んでいらしたって後からお聞きして知りました(笑)。
──おそらく行定監督も、岡崎京子は同時代に読んでたと思うんですよ。
文学作品だっておっしゃっていました。
──映画の冒頭と終盤に、二階堂さん≒ハルナへのインタビューがありますよね。インタビュアーは行定監督ですが、そこで「自分って生きてると思う?」という本質的な疑問が投げかけられて、「どちらかというと生きていない。石とかプラスチックと同じ」と答えてますよね。
その部分は台本にあったセリフなのですが、何も感じられなかったり、生きていることをないがしろにしてしまったり。いつの時代も「今どきの若者は・・・」といわれる年代があると思うのですが、その頃の一過性の感覚なのかなと思いました。
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