イッセー尾形「止むことがない興味」
一人芝居の第一人者として長年舞台で活動を続けていた俳優・イッセー尾形。2012年の独立を機にライブ活動を休止していた彼が、夏目漱石という新たな題材へ興味を持ち、久しぶりに大阪の舞台に立つ。関西で活動拠点にしていた「近鉄アート館」でのステージを控えるイッセーに、再始動までの経緯や同劇場への思いを訊いた。
「近鉄アート館は、僕にとって大事な劇場」(イッセー尾形)
──近鉄アート館は2001年に一度閉館して、2014年に復活となりました。閉館前の2000年の公演以来、18年ぶりとなりますが。
まず東京の「渋谷ジァンジァン」というところで新作をかけて、まだ生まれたばかりのネタを大阪の「近鉄アート館」で膨らまして育てる、というサイクルが10年以上続いたものですから、僕にとって大事な劇場というのはこの2つ。それが閉鎖になって大阪で路頭に迷いました(笑)。どこの劇場でやったらいいのか。ま、一般的な劇場と言うことになっちゃった。
──アート館での思い出やエピソードはありますか?
楽屋からぐるっとまわって舞台袖に出る、って身体が覚えてる。何年も何べんもやってましたから、あれが染みこんでますね。「ええか、あんたな」って大阪弁のネタをやったことがあって、その「ええか」って第一声でどっと湧いてくれたのが一番の思い出かな。すごい心の広いお客さんだなと。
──その後、ライブ活動をしばらく休止されていましたが、何をされていたのでしょうか。
長年一緒にやっていた演出家(森田雄三)とお互いに役割が終わったんだなと。何もできない。ネタがね。やり尽くしたっていうのはこういうことなんだな、ということで6年前にフリーになり、ボーッとしてました。
身体としては、まだまだ一人芝居をやりたいんですけど、その場がないと言うことで、人形作りなんかを始めて。自分が今まで身体について考えてきたことを、人形を作ることで確認した、みたいな。でも欲求不満になってきますね。人形なんか代用品じゃなくて、自分の身体を動かしたいって。
「脇役の人を中心に読むと、今までやってきたことに重なる」(イッセー尾形)
──そんな折、『妄ソーセキ劇場』で活動を再開されましたが、どんな経緯で始まったのでしょうか
懇意だった朝日新聞の方から『夏目漱石 生誕150年イベント』をやるということで、漱石さんをテーマに一人芝居をやりませんか、とありがたいお話をいただきました。漱石さんといえば相手がでかいですから正面から行くには荷が重いな、と小説の脇役の人を中心に読みはじめると、僕が今までやってきた庶民を演じるってことと全く重なるんですね。
もちろん時代は明治ですけど、だからこそ現代人のルーツを感じとれなくもないと、ネタを自分なりに考えました。早稲田大学の大隈講堂という1200人のでかいところでやって、1回こっきりだなと思ったんですけど、松山や釧路、京都と再演することになって。
──再演を重ねて、とうとうアート館です。会場によって変化は生まれましたか?
やればやるほど各劇場でネタのニュアンスが違うんですね。自分のネタより夏目漱石さんという人は、変化したり生まれ変わったりする規模が大きい。やってもやってもつきないんですよ。もうこれはね。止むことがないですこの興味は。出会うべくして出会った。それを自分が生まれ育ったところと言ってもいい劇場で、自分の今を演じることができるって、こんなにうれしいことはない。
──以前の舞台では、イッセーさんの演じている人が身近にいる人のように感じましたが。
そこは基本的に同じ。逆にそれしかできない(笑)。あなたの友だちでいたい。
──街なかで気になる人の観察をされてたと思うのですが。
前はね。でもフリーになったって事もあるんですけど。あまり入ってこないんですね、現代人が。インスピレーションが湧いて、これをネタにしようって、今まであったサイクルが失われちゃってて。だから明治に1回戻って、漱石さんからやりなおせってことなのかなって思っています。ゆくゆくは、現代にもう一度出会いなおしたい、と広大なプランはあります。
──初心という意味でも、東京から地方、海外へと活動の場を拡げる第一歩となった近鉄アート館に帰ってきます。
18年ぶりに新しいものをもってくるのかといえば、大昔の明治を持ってくるという。昔の昔です。それが現代そのものであるという気もするんで、ぜひ見ていただきたい。
『妄ソーセキ劇場+1』
日程:2018年3月29日(木)〜4月1日(日)
会場:近鉄アート館(大阪市阿倍野区阿倍野筋1-1-43)
料金:前売=5000円、当日=5500円
電話:06-6622-8802
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