若き名匠・白石和彌監督を徹底解剖(1)

2018.5.18 19:00
(写真6枚)

「白石監督は、女性を撮るのが上手い」(ミルクマン斉藤)

春岡「やっぱり本(脚本)を書くとき、『仁義なき戦い』は頭にあったの?」

白石「それは、柚月裕子先生が『仁義なき戦い』とかの世界観が好きで、それが前提となって書いてる原作だったんで。だから難しいのが、それがベースになると、結局はそこにしか行き着かなくなっちゃう。それはイヤだったし、そもそも勝負しても勝てない」

田辺「原作の方は、女性から見た『仁義なき戦い』の世界観という感じがありましたよね」

斉藤「それ以上に、阿部純子ちゃんが演じたキャラクター・岡田桃子が原作にはいない、というのが大きいよ。あれは衝撃だった」

田辺「あんなに重要なキーパーソンなのにね」

白石「桃李くん演じる日岡が監察の犬であるということを、映画では早々にバラしちゃうんですね。で、そこから何をひっくり返すんだというのは、脚本の池上純哉さんとは結構話しましたね」

春岡「謎解きが映画に向かないというのはあるんだけど、あのホン(脚本)は面白いよね。謎解き、どうこうじゃないから。大上(役所広司)がどういう人間か、日岡(松坂桃李)がそれにどう影響されていくかが、物語の推進力になっていくわけだから。そして、阿部純子が要所要所で出てきて、こういう謎解きになっているわけねという」

映画『孤狼の血』会見に登場した白石和彌監督、阿部純子、役所広司、原作者・柚月裕子(2017年12月・広島市内)

斉藤「なんてったって阿部純子がすごくいいのよ。彼女にとって分岐点になるのは間違いない」

白石「評価高いな、阿部純子(笑)」

斉藤「今まで一番良かったんじゃないかな。塩田明彦監督がウェブ用に製作した『昼も夜も』(2014年/吉永淳名義で出演)も素晴らしかったけど、あれ以来の良さ。そして、松竹の山根成之映画に出てきそうな感じも」

白石「あぁ、言われますね。まず長編デビュー作の『ロストパラダイス・イン・トーキョー』が山根さんの映画っぽいって言われましたもん」

春岡「そうなの?俺にとって山根さんって、鈴木清順監督を一生懸命追い続けてるというイメージの人なんだけど」

白石「でも、傑作青春映画は多いですよ」

斉藤「郷ひろみの3部作とかね。なぜかソフト化されてないけど。僕らの世代は、名画座で何回も観ましたね」

春岡「ああ、『ダブル・クラッチ』(1978年)とか良かったんだよなぁ。そうか、山根成之か。山根さんは、ちょっと上品っちゃ上品だな」

白石「そうですね、下品さはないですよね」

斉藤「『孤狼の血』でさ、ボタボタの雨が降ってくるシーンがあるやん。あの四畳半青春映画っぽさはもちろん、空間と照明も含めて、なんか山根っぽいなって。山根さんって結構忘れられがちだけどさ」

春岡「『あした輝く』(1974年)だったかな、里中満智子の漫画が原作の。なるほどね、雨に打たれてしけ込むところとかね」

アルバイト薬剤師・桃子(阿部純子)と日岡秀一巡査(松坂桃李) © 2018「孤狼の血」製作委員会

斉藤「あの一連のシーンは完璧だと思う。車のボンネットに突然、大粒の雨がボタボタボタって降ってきて、雨宿りした桃李くんが『あっ!』って阿部純子に出会っちゃうという」

白石「そのシーンでそこまで語る人、初めてですよ(笑)」

斉藤「そもそも白石監督って、女性を撮るのが上手いじゃない」

田辺「年齢を問わず、キレイに撮る。『女子の事件は大抵、トイレで起こるのだ。』もそうでしたけど」

斉藤「『女子の事件は〜』ではさ、まさにあのときしか撮れない蒼波純とかさ」

春岡「白石監督の『牝猫たち』(2016年)を観ててもそうだけど、やっぱりロマンポルノなんてバリバリの女性映画なんだからさ、女性をともかくキレイに、すごいよな、強いよなという視点で撮ってる映画なわけだから。勘違いしている人も多いんだけど。それが東映映画とかに出てくれば、そりゃいいに決まってるわけで」

白石「そりゃ『仁義の墓場』(東映が1975年に製作したやくざ映画)に、芹明香(日活ロマンポルノのミューズ)さんが入ってくればね」

映画『孤狼の血』

2018年5月12日(土)公開
監督:白石和彌
出演:役所広司、松坂桃李、真木よう子、江口洋介、ほか
配給:東映

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