若き名匠・白石和彌監督を徹底解剖(3)
初長編作品『凶悪』(2013年)で一躍その名を轟かせ、今では日本映画界に無くてはならない存在となった映画監督・白石和彌。そんな若き名匠を迎え、白石作品を熱烈に支持してやまない映画評論家3人が、大阪のお好み焼き屋で酩酊トークを展開。最新作『孤狼の血』を中心に、白石和彌という屈指の映画人に迫る第3弾をお届けします。
※ネタバレ多数につき、未見の方は鑑賞後にお読みください
「僕はインディーズの作家、恩返しをしたかった」(白石和彌)
春岡「白石監督の映画人としてのスタートは、中村幻児監督主宰の映画塾ですよね?」
白石「そうですね。高校を卒業して、北海道・札幌の専門学校に行って、むしろ技術的な方だったんですけど、就職できなかったんですよ」
春岡「撮影とか映像の専門学校?」
白石「そうです。でも、就職できないとなって、どうしようかなと。で、映像塾に・・・映像塾といっても、週1くらいのワークショップみたいな感じで。月3万円くらいだったかな、それだったらバイトしながらでも行けると。そこに深作監督も来てたし、若松監督も年に2回くらい教えに来てたんです。そうこうしている間に若松さんが、『助監督いないから、誰かやるか?』みたいな話になって、そこで『やる』と言ったのが運のつきというか(笑)」
春岡「若松さんのなんて作品?」
白石「最初の助監督は、『標的 羊たちの哀しみ』(1996年)という佐野史郎さん主演のVシネマでしたね。最後に佐野さんがすべての鬱屈を溜めて、石橋蓮司さんを殺すという」
春岡「『孤狼の血』と一緒で、やっぱり最後は蓮司さんなんだ(笑)」
斉藤「見事な連環(笑)」
春岡「60年代の作品は俺らも後追いで、若松作品は80年代になってからなんだけど、そこにはだいたい石橋蓮司さんと原田芳雄さんがいて、そりゃもう出てもらわないと困るというぐらいで。今回の『孤狼の血』を観てても、やっぱり蓮司さんだよね、という」
斉藤「ま、ご存命なら原田さんも喜んで出てるでしょうねぇ」
春岡「そうだろうな。白石映画の原田芳雄、ちょっと観たかったなぁ。この素晴らしい脚本を手掛けた池上純哉さんというのは?」
白石「池上さんは、もともと高橋伴明さんの助監督ですね」
春岡「ということは、伴明さんって『若松プロダクション』にいたの?」
白石「いましたね。そういう意味では親戚関係にあって、助監督としては少し先輩で、現場で一緒ということはなかったんですけど、なんやかんや、飲んだりしてて」
春岡「あれはもう出来てるの? 『若松プロダクション』再始動と言われている『止められるか、俺たちを』は?」
白石「もう出来てます」
春岡「あれ、めちゃくちゃ観たいんだよ」
田辺「白石監督としては、あの企画がやれるのは、相当うれしかったんじゃないですか?」
白石「ホント、そうですよ。うれしかったです。あれは100%、俺の言い出し企画なんで。それも若松孝二は、井浦新さんじゃなきゃ絶対にやらないって言って。そこに門脇麦ちゃんにも入ってもらって」
春岡「麦ちゃんがやってる吉積めぐみという役は、実際にいた人なの?」
白石「います、います。若き日の荒井晴彦とか、みんな出てきますよ」
春岡「感動するね、もう。俺ら世代は、今の時点で感動してるもん」
白石「荒井さんが試写を観て、『言いたいことはいっぱいあるけど、まあ、いい映画だった』と。あと、『娘に見せたい』って」
春岡「あの荒井晴彦がそんなこと言うなんて、すげえ、すげえ」
斉藤「『止められるか、俺たちを』を期待してないシネフィルはいないですよ」
春岡「今一番観たい映画だもん。大和屋竺さんとか」
白石「出てきますね。足立正生さんも出てきます」
春岡「ガイラ(小水一男)さんは?」
白石「もちろん出てきます。秋山道男さんも出てきます。大島渚監督も出てきます」
田辺「これができるのも、白石監督のこれまでの積み重ねがあってこそですよ」
白石「そうですね。これはホント、ご褒美みたいな映画ですね」
春岡「2012年に若松さんが不慮の事故で亡くなっちゃったわけだけど、その若松監督を讃えたこの映画は、白石監督だけじゃなく、映画ファンにとってご褒美みたいな企画だよ」
白石「僕はホントはインディーズの作家なんだけど、『日本で一番悪い奴ら』や『孤狼の血』など、シネコンでかけることが多くなっちゃって。師匠の若松さんはミニシアターを主戦場でやっていて、そこで育ててもらった僕としては恩返しをしたかったんですよね。そういう映画も作らなきゃダメだなって」
斉藤「やっぱり、80年代、90年代の文化を作ったのって、あの『若松プロダクション』出身の人たちばかりやからねぇ」
春岡「俺たちが大学時代、映画を勉強しようと、どれだけ出口出(足立正生、沖島勲や大和屋竺ら脚本担当者が共同で用いていた名義)の本を読んだことか。一生懸命映画を勉強してた俺らの世代は、若松孝二や荒井晴彦に会ったときには、『ついに若松孝二に会っちゃった!』って思ったもん。まあ、荒井さんや大和屋さんは有名だから出るのも分かるんだけど、ガイラさんとかすごい才能あるじゃん」
斉藤「ガイラさんのピンク(映画)なんて、もう残ってないんちゃう?」
白石「いや、観ようと思えば観られるんじゃないですか。あ、でもDVDにはなってないかもしれないですね」
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