細田守監督「親として感謝したい」
日本を代表するアニメーション映画監督として、映画ファンから次作への渇望が尽きない細田守。その最新作『未来のミライ』が7月20日に公開された。甘えん坊の男の子・くんちゃんと、未来からやってきた妹・ミライちゃんが織りなす、兄妹の物語。家1軒と庭ひとつを舞台に、生命の巨大なループを描き出し、命の不思議さと素晴らしさを讃えた本作について、映画評論家・ミルクマン斉藤が細田監督に話を訊いた。
取材・文/ミルクマン斉藤
「実は想像したところが大きいんです」(細田監督)
──いや、心底驚きましたよ。よくこんな冒険的な映画が撮れたもんだなぁと。
本当ですよ(笑)。舞台は家と庭だけ、移動もないし。しかも主人公が4歳児っていうね。そんな映画があるか!って(笑)。本当にチャレンジャブルです。
──細田監督の『おおかみこどもの雨と雪』(2012年)を観たとき、僕も含めて多くの人が実際の子育てから生まれた物語だと感じたはずです。でも、事実はそうではなくて、子育てへの「憧れ」から・・・いわば想像で作られたと聞いて驚愕したのですが、今回は時が経って、本当に2人目のお子さんが生まれてからの作品ですよね。
今回もそういう意味では、実は想像したところが大きいんですよ。これは兄妹の話なんですけど、僕自身はひとりっ子なんですね。自分がすでに知っていることより、知らないことを見たい、考えたいというか。うちの子どもも、下の子が生まれるまではひとりっ子。だから、下が生まれた途端に「あ、こいつ俺と違う人生を生きようとしている」となったはずで、それがなんか羨ましくなったっていう。
──やっぱり自分が経験してこなかった「家族のかたち」みたいなことが、細田監督の興味の第一なんですね。
そうなんですよね。でもまさか、兄妹の映画を作るとは思わなかった。やっぱり自分がひとりっ子だったし、『おおかみこども〜』は姉弟というより「ふたつの道」というものの象徴でしたから。今回は完全に目の前の兄妹を見て、「これからどうやってやっていくの、あんたたち」ってことを描いてみたんです。
──下が生まれると上の子どもが赤ちゃん返りするという話はよく聞くんですが、あいにく僕は子どもがひとりしかいないのでそれは経験してないんです。でも、飼い猫のリアクションが、まさにこの映画に出てくる(犬の)ゆっこみたいだったんですよ。
それまで子ども代わりに可愛がっていたのに、本当に子どもが出来てしまうと犬の立場が無いような顔をしているという(笑)。やはり敏感に位置関係というか上下関係を測っているんですね。
──うちの場合は、猫のほうがあっさりと新生児に合わせてくれたんです。いわば闖入者(見ず知らずの人)に対して、新しい自分の位置を見つけようとして、そのうち新生児の横で寝たりするようになって。
いいですねぇ。可愛いですねぇ~。でも、人間の場合はそうはいかない、その体験がこの映画の着想でもあるんですけど、やっぱり僕や奥さんは、新生児が産まれると愛をガーッとそっちに向けるじゃないですか。すると、それまでは一身に愛情を受けていた上の子が、自分への愛を奪われたと思って、床を転げ回って泣き叫ぶということがありまして。やっぱり不安だったんでしょうね。それを見てやっぱり、人間にとって愛というのは本質的に大事なんだと。
──なるほど。「All You Need Is Love」ですね(笑)。
自分はひとりっ子だから、子どもの頃にそういう体験はないけど、10代や20代で女の子と別れたとき、床こそ転がらないけど、そういう気持ちになりましたもん(笑)。愛を得たり失ったりの繰り返しが人生だとすれば、その一番最初の体験がこの4歳児なんだと。4歳児にして人生の本質的なところで苦悩しているというのが面白いなと思ったんです。
──この映画を観ていて、「そういえばそうだったな・・・」と思ったのは、子育てしていると、さっきまであんなに憤っていたのに、いきなり理由もなくポンってほどけちゃうときがあるじゃないですか。そういう瞬間に隠された「謎」みたいなものが、いくつかのエピソードとして紡がれていますよね。
子どもと一緒に過ごしていると、面白いことがいっぱいあるんですね。一種の飛躍と言いますか、出来なかったことが急に出来るようになるとか、インプットしてない言葉を急にしゃべり出すとか。うちはあまりテレビを見せてないから、余計に言葉の出所が分からないんですよ。それがすごく不思議で。
──ありますね、そういうこと。
つまり、僕らが目を離している隙に、別の体験を本当にしているんじゃないか、と。大人と子どもは見ている風景は違うと言うけど、もしかすると「本当の意味」で違うんじゃないかって。目の高さや視点の違いもあるけど、大人にとって社会的・常識的空間でしかない世界のなかで、子どもはもっと違うものと会ったり、何かを得てるんじゃないか、と。
──そうしたセンス・オブ・ワンダーをこの『未来のミライ』から感じるんですよ。ひょっとすると大人は忘れてしまっただけで。
「子どもは未成熟なものだから、成熟した親が教育を施す」っていうのではなくて、子どもの様子を見ることで「わー、知らないことがまだこの世界にあるんだ!」と大人が思う、そういう逆転現象があるんじゃないかと。
──実際に、それこそが子育てって気がしますもんね。
します、します。すごくします。教育に熱心な親御さんからしたら、僕らなんていい加減な親に見えるかも知れないけど(笑)、小さい子どもと一緒にいて、自分の子ども時代のことを思い出したり、「僕も来年小学校だ、新しい環境でやっていけるかな」とか、そんなドキドキした気持ちを擬似的に体験できるっていうのはイイなって思うんですよ。
──ウチの子は来年高校生ですが、小学校の入学式も卒業式も昨日のように思い出しますよ。
ホントですか? 実際に今、中学生・高校生に成長した娘さんと一緒に過ごしているわけですよね? いいなぁ~。ある日、上の子が「大きくなった妹に夢で会ったよ」ってことを言ったんです。
映画『未来のミライ』
2018年7月20日(金)公開
監督・脚本・原作:細田守
出演(声):上白石萌歌、黒木華、星野源、麻生久美子、役所広司/福山雅治、ほか
配給:東宝
企画・制作:スタジオ地図
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