細田守監督「親として感謝したい」

2018.8.5 06:00
(写真6枚)

「小さい子と一緒にいる親も時空がゴッチャになる」(細田監督)

──え? 監督の上のお子さんが、成長した妹さんの夢を実際に見たってことですか?

そうなんですよ。そこから今回の映画の物語を拡げていったという。「どんな女性になるんだろう?」と、僕自身が大きくなった下の子にすごく会いたくなったんですね。映画の台詞にもそういうのありますけれど、早く見てみたいんです。だから斉藤さんがうらやましいなぁ。

──アハハ(笑)、そういえば映画のなかで、お母さんの出張中、お父さんが幼稚園にくんちゃんを送って行くシーンがあるじゃないですか。そこで一瞬、中学生らしき男の子を追いかける女の子3人組がなんの脈絡もなく出てきて、以降、触れられることもない(笑)。で、あの後に未来のミライちゃんが出現しますよね。

そうですね、出現しますね。

──あれって、ほんの一瞬の点景みたいなものが子どもに作用したことを示してるんじゃないかと勘繰っちゃうんですけど(笑)。

要するに、このお話を理屈で考えるとどういうことなのか、というね。未来から来たミライちゃんが何者なのかは、ご覧になる方によって違うような気がするし。つまり、本当に未来から来たのか、くんちゃんの妄想なのか、ひょっとしたらミライちゃんの見ている夢かも知れないとか、いろんなことが考えられるじゃないですか。

© 2018 スタジオ地図

──ええ、「胡蝶の夢」(壮子の説話)のような事象にもみえます。

うん、そうそう。要するにどんな可能性もあるわけで、これが正解という設定話をする気はないっていうか。もっと大きな主人公だったら、社会的な常識に対して「こういう『不思議なこと』があります」という一種の線引きが必要かも知れないけど、4歳児ならそれに対するハードルが低いし、説明を求めたりしない。例えば自分んちの庭が(いきなり非日常的空間に)変わったとして、「なんだこれ?」って4秒ぐらいで終わるわけね。

──そんな疑問なんて一瞬で「ないこと」にしちゃって、次に興味が移っている(笑)。

そうそう。例えばすれ違う男の子と女の子3人を、抱っこ紐の間からミライちゃんが見てる。見ているということに気付いた人はこの映画全体が胡蝶の夢かも、みたいなことを思うかも知れないですよね?

──まさに僕はそうなんですけど(笑)。

そういう解釈もあればね、別の人は・・・って女の子なんだけど、「唐突に美少年が出てきましたが、あれは次回作の主人公ですか?」って。「気が早いな」っていうね(笑)。まあ、それも映画のひとつの解釈かなって。観る人がそれぞれに思ったことが正解なワケですから。

──それこそ枝葉末節を辿っていくと、いくらでも物語が生まれそうな映画ですもん。この小さな一家の話だけでも、ミクロがマクロに拡がっていく。内的世界においてはアートマンがブラフマンと同一になるという(インド哲学における宇宙の根本原理)、壮大な宇宙観にまで辿りつくのが面白いわけですから。

やっぱり、そうなっちゃいましたよね。最初はそんな大それたことじゃなくて、すごく場所を限定した小さい話を小さくやろうと思ったんです。だって、ひっくり返ってる子どもを見て発想したんですから(笑)。でも、小さい子と過ごしていると、一緒にいる親も時空がゴッチャになるんですよ。子どもの自転車の練習に付き合ってると、その自分を客観的に見ながら、自分が小さいときに練習していたことを思い出して、そうすると、それを支えていた親のことも思い出すんです。で、自分はいま親だから、前よりも親の気持ちがよく分かる。でも、目の前にいるのは自分の息子で、でも自分自身でもあり、押しているのが自分でもあり自分の親でもあり、という。これは不思議だな、面白いな、って。

──そんなふうに感じた時点で、もう細田監督の時空は歪みを見せているわけで(笑)。

子育てっていうのはもっと、どう教えていくか、どう社会化させていくかというプロセスだと僕は思っていたんです。でもそうじゃなくて、大人が子ども化することなんだとは全然知らなかった(笑)。

──社会に対する受け止め方、受け入れ方、考え方を大人が再考させられる。

ホント、再考させられますよね。そうすると、ちっちゃな家族の話がそれだけでは収まらなくなってきて。舞台は家1軒と庭ひとつなのに、縦方向というか、時間方向がものすごく伸びていっちゃって。

© 2018 スタジオ地図

──なるほど(笑)。くんちゃんの前に王子になったゆっこが出てきた途端、庭がいきなりヨーロッパ風な壁に囲まれるじゃないですか。まるでアンドレイ・タルコフスキー監督の映画『ノスタルジア』(1984年)みたいな(笑)。

あれねぇ、ゆっこのモデルになった犬がイギリス系ダックスフントなんですよ。で、イギリスの庭を調べにロケハンに行って見つけた庭なんですね。ロンドンの地下鉄バンク駅の近くに、教会の屋根が抜け落ちた庭があって・・・って、本当にタルコフスキーの『ノスタルジア』ですね(笑)。デザインチックな庭池も本当にあるんですけれども、水が滾々と湧いていて、その水音がするのもタルコフスキー的ですけど。

──あの庭が出てきた途端に、これはやっぱり内的世界の話だなと。『ノスタルジア』にしろ『鏡』にしろ『惑星ソラリス』にしろ、主人公の時空を超えた内的世界の話じゃないですか。シチュエイションは全然違うけど、フェデリコ・フェリーニ監督の『魂のジュリエッタ』とかね。4歳児の世界でこういうことやるのかぁ、って(笑)。

本当にそうですね(笑)。

映画『未来のミライ』

2018年7月20日(金)公開
監督・脚本・原作:細田守
出演(声):上白石萌歌、黒木華、星野源、麻生久美子、役所広司/福山雅治、ほか
配給:東宝
企画・制作:スタジオ地図

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