吉田恵輔監督×安田顕、変態的怪作「愛しのアイリーン」を語る
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「本当にゼロから作るっていうのはそう無い」(吉田恵輔監督)
──とはいえ、別にここまで描かなくても・・・というような、人間がフッとやってしまう恥ずかしいことが監督の作品には常にあって。今回も例えば、岩男と吉岡愛子が最初にセックスするとき、愛子が漏らしちゃうとか(笑)。ここまでやらなくてもと思いつつ、まあ、吉田恵輔だからそりゃ絶対にやるよなって。でも、後で原作を読んだらそのまま描かれている。ああ、これが吉田恵輔における人間観察のオリジンなんだと思ったんです。
吉田「そう。新井さんが原点なんです。俺にとって神様なんですよね。映画化にあたって、新井さんと初めてお会いしたんですけど、漫画家だろうと映画(監督)だろうと、同じ作家として話すと急に自分がニセモノのような感じがしてきて。でも、そのあと何回か新井さんと飲んでると、新井さんもちばてつやさんに憧れていたと。だから結局、どんなスゴい人でも誰かに憧れてて、影響を受けてるんですよね」
──たしかにそうですね。
吉田「で、新井先生の一番好きな映画が沖田修一監督の『横道世之介』(2013年)というんで、何故ですか?って訊いたら『人に影響を受けても恥ずかしいことじゃないって救われた』って言うんです。『え!? こんなオリジナリティに溢れている人でも、自分のことニセモノだと思っているんだ』って。だったら俺もいいやって。今は『俺がオリジナル』なんて言ってる奴は、逆に分かってない奴だとすら思うんだよね」
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──なるほど。どんなオリジネイターでも、絶対に強烈な影響を受けたもの、オリジンはあるという。
吉田「どんな影響を受けても自分の味を出しつつ、細かい発見を更新するやり方はいくつもあると思うんですよ。『これってまだ、誰もやったことないよな』っていうのは。本当にゼロから作るっていうのはそう無い。だから、上手いこと騙せればいいんじゃない、って(笑)」
──人間の見せたくない部分を好んで露悪的に描いていく、それも喜劇的に・・・となると、日本には今村昌平という大監督がいましたよね。『愛しのアイリーン』も最後は姥捨ての話になるけれど、どうも新井さんは今村版『楢山節考』が好きだって話も漏れ聞きました。まあ、それは映画を観てても関連付けはするんだけれど、今村監督と吉田監督は全然違いますよね。
吉田「ですね。正直、今村監督の映画はそんなに好きでもないですし」
──ま、僕もそうなんですけれど。特に『楢山節考』のあたりは。
吉田「新井さんは、今村さんが好きな気がするんだけど、俺は若干悪意を持って姥捨ての描き方を、違う目線で撮ってる感じがある。新井さんの原作は好きだけど、俺は俺の好きなように撮るからと。俺は俺の目線でやっていくからいいや、って。もともと新井さんは『女ふたりが戦う話をやる』ってとこから始まって、最終的には姥捨てをイメージしたらしいし。そこに(フェデリコ・)フェリーニの『道』の主人公・ザンパノが、岩男に混じってきたという感覚ですかね」
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──吉田監督は『道』もあんまり好きじゃないでしょ?(笑)
吉田「あまり好きじゃないです(笑)。針が少しずれると全然乗れなかったりするんですよ。『横道世之介』も別に退屈はしないんだけど、沖田修一さんのなかではそれほど好きじゃない。まあ、そういう趣味は別れて当然ですから」
──そこはもう、全然趣味の問題で。
吉田「だから『アイリーン』も、新井さんが描きたかったものを俺が体現する必要は無いと思っていて。俺がやりたい『アイリーン』を作れればいいと。新井さんの描きたいことは漫画に詰まってるから、だから『みなさん漫画も読んでみて』でいいや、と」
──全体的な筋はもちろん、いかにも吉田恵輔的なディテールに繋がる部分はかなりそのままですが、過剰にコミカルなところやあり得なさすぎる設定はけっこう省略・改変してますよね。
吉田「『アイリーン』は何回も読んでいるけれど、俺が絶対に飛ばすシーンがあるんですよ。例えば、岩男が力持ちなところにはあまり興味が無いんですね。イノシシを引きちぎったり。それよりも鬱屈して怯えて表情が固まったり、そういう岩男の痛さというか、傷ついた内面をどう誤魔化そうとするかとか、そういうところが好きだったんですよ」
安田「映画として良かったなと思うのは、生まれた環境があって、閉塞感のある町があって、日常があって、ああいう環境に育って、コミュニケーション能力を失って・・・という岩男の痛さが、ちゃんとクローズアップされたなと思うんですよね。20年前と変わらないテーマに収束できたのは、そういう見た目のフリーキーさではなくて、内面的なところにいけた結果なのかなと」
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──岩男にしても母親から過剰な愛を受けることによってネジ曲がったというより、村全体というか、あの環境で自分をどう表現したらいいのか分からないまま40歳まで来ちゃったという感じがどうもありますよね。あと、監督らしいキャラだなあと思ったのが、岩男と見合いさせられる琴美という女性(笑)。
吉田「あれは、桜まゆみさんという女優です。上手いし、地味だし。なんか可愛い子だとイヤなんですよね。可愛いとお客さんが『岩男よ、(アイリーンじゃなくて)その子でいいじゃん』ってなっちゃうから。だからギリギリのラインで。新井先生も『よく丁度いいところ見つけてきますねぇ』って(笑)。あの子はこれから頑張って欲しいですね。テレビドラマ『宮本から君へ』(新井英樹原作)にも出てました、酒井敏也さんの事務所の相方役で」
──あ、そうでしたか! 桜まゆみさん、ちょっと注目株という気が僕もしましたね。キャラといえば、原作から激変しているのが伊勢谷友介さん演じる女衒(ぜげん)の塩崎です。
吉田「原作の塩崎のキャラクター自体があまり好きじゃないんですよ、あまりにもファンタジーで。それをもうちょっと現実に落とし込んだんです。伊勢谷さんのシーンはもっとあったんですけど切っちゃったんですよね。塩崎の葛藤みたいなものも少し描いたんだけど、なんか要らねぇなと思って、だいぶ削りましたね。自分の生理的なところで、ファンタジーと現実のギリギリのところで」
──でも原作とは違って、塩崎を日本とフィリピンとのハーフと設定することで、両国の関係性に切り裂かれたようなアンビヴァレント(相反する)な感情が表面に打ち出されて、物語の要になっている。日本に憎しみを抱きながら、日本人相手にフィリピン女性を売る。なぜそんなことをしているか自分でも分かっていないところを、アイリーンによって突きつけられる。そこで言葉を詰まらせてしまう。
吉田「まぁ、原作はそういうキャラクターじゃあまりにもないから。だからファンタジーとして突き抜けてるところが好きな人には『ごめんね』って思うけど、俺はそこまでファンタジーしたくないから。原作ファンとかはどうでもいい。俺の場合、いつもそうなんですけどね(笑)」
映画『愛しのアイリーン』
2018年9月14日(金)公開
監督:吉田恵輔(※吉田恵輔の「吉」は土よし)
出演:安田顕、ナッツ・シトイ、伊勢谷友介、ほか
配給:スターサンズ R15+
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